その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は中村圭志さんの『 24の「神話」からよむ宗教 』です。

【はじめに】

 本書は「神話」と「宗教」を一続きの歴史として解説する本である。

 「神話」というと『古事記』などの日本神話、オリュンポス十二神が活躍するギリシア神話が有名だ。だいたいが奇想天外な、面白い話が多い。それらに関する解説書はたくさんある。
 他方、「宗教」というと書店の宗教書コーナーには仏教やキリスト教やイスラム教の入門書ないし信仰ガイドのような本が無数にある。こちらは概ね説教っぽい話が多い。
 神話と宗教は一続きの文化であるというのに、意外なことに、この二つの文化事象を連続的に解説した本は見当たらない。いや、専門の宗教学の本などでは、宗教について神話とのつながりから論じるのは普通のことなのだが、一般向けにギリシア神話と仏教説話を通しで解説したようなものはない。
 まあ、ファンタジーめいたオモシロ噺と倫理的なお説教とではトーンが違うので、二つをいっぺんに語れる著者は少ないし、読者のニーズとしても空振りしてしまうのでは? という配慮もあるかもしれない。

 とはいえ、歴史学的、人類学的、宗教学的には明らかに神話と宗教は連続している。モチーフもしばしば共有しており、歴史的にも親族関係にある。ヒンドゥー教や道教などでは、宗教と呼ばれつつ、ギリシア神話ばりのファンタジックな物語で信者を神話的宇宙観に引っ張り込むことをやっている。

 そんなわけで、本書では神話を入り口にして宗教の基本的な教説や歴史を分かりやすく説明するということをやってみた。仏教やキリスト教のパートも含めて、全体を二四の神話的モチーフでまとめたのである。
 全章を通して読むと、太古から現代までの歴史と、世界の大宗教の相違点が一通り分かるようになっている。そういう実用性にも配慮した。
 自分で言うのも何だが、かなり面白い本が出来上がったと思う。

 宗教に関してはあくまで歴史上の文化としてニュートラルに捉え、信仰入門的な書き方はしていない。本書は基本的に、人類の想像力の歴史を展望する本である。人間の想像力はさまざまなものを生み出したが、救いや規範を提供する宗教もまた、そうした想像力の結晶である。
 もちろんそうした想像力はしばしば空回りになり、機能不全も起こす。そんなネガティブな側面を含めて、神話や宗教のロジックを楽しんでいただきたい。
 グッド・ラック!

 二〇二一年三月

中村圭志

【目次】

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