その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は山本晃平さんの『 技術安全保障 科学とイノベーションは平和のために何ができるか 』。「序章」の一部を抜粋してお届けします。

 技術の保有・活用・管理が国家の明暗を分ける現代の状況において、どのような科学技術を研究開発していくか、どのように活用・管理していくかは、非常に重要である。確かに、防衛において技術の重要性が政策的に示され、防衛イノベーション科学技術研究所が設立され、またKプロが走り出している。しかしながら、政策の大方針が示されたとしても、現場においてそれを実装していく道はまだまだ非常に険しいと言わざるを得ない。

 ここでKプロとは、内閣府HPによれば、「中長期的に我が国が国際社会において確固たる地位を確保し続ける上で不可欠な要素となる先端的な重要技術について(中略)経済安全保障上の我が国のニーズを踏まえつつ、個別の技術の特性や技術成熟度等に応じて適切な技術流出対策をとりながら、研究開発から技術実証までを迅速かつ柔軟に推進」するものである。

 推進対象となる技術は有識者会議および閣議を経て決定され、科学技術振興機構(以下、JST)および新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)がファンディングエージェンシーとして、資金の管理・運用および開発の推進に係る業務を担う。

 例えばこのKプロにおいて、経済安全保障上重要な技術として、今後具体的にどのような技術を育成していくべきだろうか。政策上の要請から言えば理想的には、日本だけが保有できる技術で、かつ他国は自前で開発できず日本からの輸入に頼るしかない技術であり、そのうえ他国にとって非常に重要で強く欲している技術であり、いざとなれば当該技術の輸出規制や、あるいは技術供与等により、日本が外交的に影響力を発揮できる技術でなければならない。

 これはもちろん科学者、技術者だけでは回答できない。なぜ一定の期間(例えば10年間)その技術を日本しか保有できないのか。他国が日本からの輸入に頼ってまで欲しい技術は何か。それは何故か。代替技術があるのではないのか。こういった疑問に対しては、技術の詳細をつかめなければ答えることはできないが、同時に技術の知識だけでは答えることができない。

 Kプロは、学術的な成果を目指す科研費でもなければ、次世代産業技術を開発するNEDO事業の延長でもない。また海外で市場シェアを取れる製品を開発する企業の社内投資でもない。Kプロに応募する科学者・技術者・製造業企業にとっても、Kプロ事業採択に関わる官公庁や有識者にとっても、これまで関わってきたどの研究開発費とも異なっており、Kプロの現場において、理念に沿った実装・実行を行うのはそう簡単ではない。

 科学技術に携わる者のうち、例えば経済学や経営学についても学んだことがある者はどれほどいるだろうか。安全保障について学んだことがある者はどれほどいるだろうか。逆に国際政治学や経済学、経営学を学び、政策提言ができる者のなかに、科学技術を扱う訓練を受けた者はどれほどいるだろうか。まして、それらすべてを横断的に学んだことのある者はほとんどいないのではないか。

 これまではそれでもよかったのかもしれない。しかし現代において経済安全保障のための重要技術育成を担う者には、最低でも安全保障、経済、技術の“専門知見の融合”が必須であり、さらに実際の技術の開発・製造を担うのが企業であるという現実を考慮すれば、経営の知見も必要であろう。

 安全保障における技術の重要性が増している現代において、技術、安全保障、経済、経営の視点を横断し、科学者、技術者、製造業企業、科学技術に携わる官公庁がどのように振る舞えば戦争を遠ざけることができるかを包括的に、そして政策を超えてより具体的に、議論していく必要がある。

 言うまでもなく大学・研究所における基礎・応用研究は国家だけでなく人類全体にとって重要であり、現代の安全保障・国家間の利害を超えて、ずっと将来までの人類の発展に貢献している尊いものであることは疑いようもない。しかしながら同時に、力による一方的な現状変更とそれによって引き起こされかねない戦争を止めるため、先端技術、そしてそれを扱う科学者・技術者・製造業企業・技術に携わる官公庁が鍵を握っていることも真実である。

 本書では、科学技術が持つ平和への可能性から目を背けることなく、安全保障・経済安全保障の観点から、今、科学者・技術者・製造業企業・技術に携わる官公庁がいかに振る舞えば戦争を遠ざけることができるのか、その筋道を議論したい。もちろん本書だけでそれが成せるとは到底思われないが、わずかな足掛かりであっても、議論を始めるためのきっかけとなればと願う。

 次章第1章から第5章までを理論編として、防衛と経済安全保障という2つの道において、戦争を遠ざけるために重要となる技術とは何かについて、安全保障論からスタートして紐解いていく。まずは次章において、戦争を遠ざけるとは具体的にどういうことなのかについて議論していく。


【目次】

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