その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はサティア・ドイル・バイアック(著)、長澤あかね(訳)の『 クオーターライフ 20代で知っておきたい、クライシスを生き延びる知恵 』です。
【はじめに】
「どうして私は、人生に迷っているんだろう?」
「なんで僕の人生は、こうもうまくいかないの?」
「どうして俺は行き詰まっているんだろう?」
「私の何がいけないの?」
どれもこれもよくわかる。ちょっとした疑いからしつこいパニック症状に至るまで、10代後半から20代、30代の若者の間に、まぎれもなく広がっている苦しみがある。深刻な不安や鬱(うつ)、苦悩、人生に迷うなんて当たり前。自殺率はとてつもなく高く、薬物の過剰摂取も言葉を失うほどだ。さらに問題をこじらせているのは、そんな苦しみへの診断や解決策が、たびたび混乱(カオス)とストレスに拍車をかけていること。若者も医療システムも、人生のこの時期に不意打ちを食らわされ、ただうろたえているかのようだ。
問題は、心の病だけじゃない。根本的に、人生のこの時期に起こることへの、深い理解が欠けていることだ。思春期(もしくは青年期)のあとの20年ほどを何と呼ぶのか、世の中の合意すらできていない。
私はこの時期を、「クオーターライフ・クライシス」という言葉にちなんで「クオーターライフ」と呼んでいる。クオーターライフ・クライシスとは、1997年にIT分野で働く作家アビー・ウィルナーが生み出し、私が大人になりつつあった2000年代前半に盛んに使われだした言葉だ。
「クオーターライフ」とは、人間が自分に合った指針(ロードマップ)や魂のこもったアドバイスを必要とする発達段階のこと。必ずしも人生の危機や家族の心配事に悩まされ、恥にまみれる時期だととらえる必要はないし、問題に医療で対処しなくてはならない時期だとも限らない。
この本は、それとは別の解決策を提示している。
私は、成人期のこの段階にいる人たち専門の心理療法士(サイコセラピスト)だ。この仕事を選んだのは、まさしく私自身がこの時期に、人生に迷ったからだ。自分は、なぜこんなに精神的に追い詰められているんだろう? と答えや知恵を探したけれど、情報もサポートもほとんど得られなかった。
家や学校で受けた教育は、どうやら私に期待されている「自立した人生」にそぐわないものだったらしい。学校に通う子どもはみんなそうだが、私も1年生から2年生へ、5年生から6年生へ、さらには高校から大学へと、学びの梯子(はしご)を上らされた。そうして、世の中にポンと放り出された。卒業後の人生に向かって、ずっと訓練を積んできたかのように。
でも、まったくそうじゃなかった。健康的な食事のつくり方やタイヤ交換の仕方はもとより、自分がどんな人間で、人生に何を望んでいるのか、自分に尋ねる方法なんて教わったこともない。さらには、社会的・環境的に大変な事態が同時多発的に起こる世の中で生きるとはどういうことか、理解するすべなど与えられていない。
仲間たちも私も、「人生とは、昇進や結婚や家の購入、といった目標に向かって、一歩ずつ着実に上っていく階段だ」と信じ込まされていたけれど、「そうじゃない」と誰もがある時点で気づくのだ。
成人期が直線的に進んでいくイメージは、もはや時代遅れな性別役割(ジェンダー・ロール)や、人種的・経済的なヒエラルキーに基づいている。それらは「チェックボックスに一つ一つレ点を入れていけば、充実した人生が待っている」とほのめかしているけれど、そんなに甘くはない。
クオーターライフは、退屈な旅なんかじゃない。さまざまな経験――厄介で、心身が震えるような未知の経験――が待っている。複雑な人間関係や失敗、リスク、憧れ、冒険といった要素がなければ、人は精神的に十分な発達を遂げられない。実のところ、西洋文化はゴタゴタや混乱を減らしたがるものだけど、計画通りの単純な歩みでは、クオーターライフに成長は見込めないだろう。経験は、あなたが自らの人生を見つける基盤になってくれる。人生は本来、すこぶるユニークなもので、地図も明確に定められた道もない。神話学者のジョーゼフ・キャンベルが人生の旅を振り返って言ったように、「そこに道があるなら、それはほかの誰かの道だ」
それでも、旅の道しるべになってくれる、一般的なパターンは存在する。
このあとの各章で、時代を超えた「クオーターライフ」の旅に、いくつかの知恵を提供したいと思う。まずは文学や回顧録で、このライフステージが歴史的にどのように描かれてきたのかを探求する。次に、私がサイコセラピーで出会った四人のクライアント―ミラ、コナー、グレイス、ダニー――の物語を通して考える。パートⅡで始まる彼らの物語は、まったく個性の違う四人のクオーターライファーが、どのように自分自身について学び、自分の道を見つけていったのかを教えてくれる。
人生のこの時期を理解するためには、まず、クオーターライファーの二つのタイプと、彼らが目指すもの、そして、私が「成長の四つの柱」と呼ぶものを明らかにする必要がある。そこで、グレイスとダニーの物語を通して「意義型」のクオーターライファーと、「安定」を模索する彼らの姿を紹介し、ミラとコナーの物語を通して「安定型」のクオーターライファーと、「意義」を模索する彼らの姿を紹介したいと思う。
あなたがひたすら「意義」を探し求めるクオーターライファーでも、「安定」を探し求めるクオーターライファーでも、最終的な目標はその両方を手に入れること。つまり、自らの人生において「全体性」や安らぎを経験することにある。
成長の四つの柱――「離れる」「聴く」「育む」「一つにする」――は、発達の道しるべのようなものだ。これらは順序通りに達成しなくてはならない段階や課題ではないが、クオーターライフに欠かせない心の取り組みであり、あなたの幸せや満足感に大きな変化をもたらしてくれる。ぜひしなやかに受け入れて、ひたむきに取り組んでほしい。
たやすい課題ではない上に、社会の制度や構造に何度も足をすくわれて、取り組みはスムーズに進まないかもしれない。それでも、悲惨なトラウマや苦しみからの驚くような変化すら期待できるから、発達の一般的なパターンを知っておけば役に立つだろう。
こうしたワークを必ずしもセラピーでする必要はないが、セラピーはじっくり考え、身体にアプローチすることで癒やされ、導かれ、自分を省みるチャンスを確実に提供してくれる。そうした安全な場所は現代社会では、ほかにはなかなか見つからないだろう。
クオーターライフに自己中心的になるのをよしとしない風潮もあるけれど、私はクライアントに「自分の人生や経験に――過去にも、現在にも、未来にも―興味を持ちましょう」とアドバイスしている。ありきたりの答えを求めるのではなく、幅広い好奇心を持つことが大切だ、と力説している。そうして自分に興味を持てば、短期的にも長期的にも鬱や不安がやわらいで、探し求めている自分らしい道が見つかる。
クオーターライファーは、「大人になる方法」について、矛盾したメッセージを山ほど吸収してきた。「何でもそつなくこなせる成功者になりなさい。でも、魅力的な人気者でなくてはいけないよ」「お金持ちで有名で、知的で面白くて、クリエイティブで起業家精神に富んでいなくちゃいけない。でも、自己中心的で利己的なのはいただけないし、特権にまみれたり、冷酷だったり、世の中の苦しみに無関心でいてはいけない」。時にさりげなく、時にあからさまに矛盾した指示に――どれもこれも、純粋に自分自身を知り、自分を大切にするためのメッセージではないから――従おうとすれば、思いっきり道に迷うだろう。
一方、クオーターライファーが自分の身体や歴史、自分の古いトラウマやストレス、自分の願いや憧れを探求すればするほど、自分の将来について本能が知っていることが聞こえてくるだろう。これが、私が推し進めている取り組みだ。壊れていそうなところにペタペタ絆創膏を貼るのではなく、自分の身体と魂が、人間関係、人との親密さ、家族の歴史、食べ物、文化や社会の中でのさまざまな経験といった外の世界に実はどんな反応を示すのかに、あなたが好奇心を持つことが大切なのだ。
本書は(だいたい)16~36歳の、自分や自分の環境を変えたくて仕方がない人、クタクタだったりおびえていたり、鬱や不安にさいなまれていたり、希望すら失っているすべての人のための本だ。終わりのない苦しみやしつこい不安から解放されて、明確なビジョンと目標と喜びに満ちた成人期を築こうとしているすべての人のための本であり、苦しみにまみれたこの惑星で、自分の道を見つけようとしている人のための本だ。自分の現在地を知るために、人生のこの時期を振り返る人のための本であり、クオーターライファーの親、セラピスト、教育者のための本でもある。
自分を探求する旅の最終目標は、複雑でストレスに満ちた世の中で、自分らしい人生や人生の目的を見つけ、それを形にすること。これは世間でたびたび揶揄(やゆ)されている、「自己陶酔」などではない。古代人だってお勧めしていた取り組みなのだ。「汝自身を知れ。そうすれば、神々を知るだろう」と。
【目次】


