その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は梅田悟司さんの 『「言葉にできる」は武器になる。』 です。
【はじめに】
「梅田さんは、どうやって伝わる言葉を生み出しているんですか?」
最近になって、このように聞かれることが多くなった。
そこで、なぜこうした質問をするのかを注意深く聞くと、多くの人が様々な場面で、言葉に関する課題を抱えていることが垣間見えてくる。
例えば、メール文章。私的なメールであれば、気の利いた返信ができない、文字だけでは気持ちまで表現できず、ニュアンスを伝えるのが難しいといった課題。ビジネスメールであれば、簡潔に書いたほうがいいことは理解しつつも、説明が増えて長文になってしまい、本当に書きたいことが分かりにくくなってしまう。
会話で言えば、仕事やプライベートにかかわらず、自分の言いたいことが言葉にならない。相手に思いが届かず、理解を得られない、伝わっていない気がする。想定していない質問をされると言葉に詰まってしまう。会話が続かない、などが挙がる。
さらに最近は、SNSの投稿に、悩みを持っている人も多いように感じる。自分の書き込みに対して「いいね!」などの反応が薄く、もっと人を惹きつける文章を書きたい、ブログへの集客を増やすために文章力を磨きたい、といったものも見られる。
このような悩みを聞いた上で、質問するようにしている。
「言葉をコミュニケーションの道具としてしか、考えていないのではないですか?」
この問いに対して、目が「?」になる人が多数を占めるのだが、ハッとした表情をする人も少なからず存在する。そう、言葉にはもう1つ、大切な役割があるのだ。
一般的に、言葉は自分の意見を伝え、相手の意見を聞くための道具とされている。こうした意見のキャッチボールのために言葉は用いられ、お互いの理解を深めていくことが可能になることは言うまでもないだろう。
ここで考えを一歩先へ進めてみると、次のような疑問にたどりつかないだろうか。
「言葉が意見を伝える道具ならば、まず、意見を育てる必要があるのではないか?」
冒頭の質問に対する私なりの答えは、ここにある。
「伝わる言葉」を生み出すためには、自分の意見を育てるプロセスこそが重要であり、その役割をも言葉が担っているのである。
自身の経験を思い出してもらえば分かりやすいが、人は多くの場合、言語は違えども、言葉で疑問を持ち、言葉で考え、言葉で納得できる答えを導き出そうとしている。言い換えるならば、自分という存在や自分の考え、価値観と向き合い、深く思考していく役割も、言葉が担っているのだ。もしかしたら今も「そうか」「確かに」など、頭の中で表に出ない言葉を発していたのではないだろうか。
発言や文章といった「外に向かう言葉」を磨いていくためには、自分の考えを広げたり奥行きを持たせるための「内なる言葉」の存在を意識することが絶対不可欠である。
その理由は、至ってシンプルである。
「言葉は思考の上澄みに過ぎない」
考えていないことは口にできないし、不意を突かれて発言をする時、つい本音が出てしまう。そのため、思考を磨かなければ言葉の成長は難しいとも言える。
ここで、私が抱いているのは、世の中の風潮として、コミュニケーション・ツールとしての「外に向かう言葉」の比重が高まり過ぎている、という危惧である。
書店には、伝え方を高めたり、雑談を続けるためのスキルを語る書籍が並び、セミナーや講演も同様のテーマで溢れている。日々の会話力や雑談力を高めたい人にとっては、喉から手が出るほど欲しい情報なのであろう。
その一方で、これらのスキルを得た人は、一体どれだけ実行できるようになったのだろうか。「理解はできたが、実践できない」というジレンマを感じている方も多いのではなかろうか。もしくは実践しているものの、言葉と頭の中で考えていることが一致しておらず、違和感を覚えている人もいるかもしれない。
本書を手にしている読者の中にも、同様の体験をしている方が少なからずいると思う。しかし、こうした現象が起きるのは、理解不足でも対人能力が低いからでもない。
ここまでお読みになっている方であれば、もうお分かりの通りである。
「思考の深化なくして、言葉だけを成長させることはできない」
本書では、理系一辺倒で、さほど読書経験もない私が、いかにして思考を深め、1人でも多くの人の心に響く言葉を生み出そうとしているのかを、誰もが同じプロセスをたどれるように順を追って説明していきたい。
短期的かつ急激に言葉を磨くことはできないが「内なる言葉で思考を深め、外に向かう言葉に変換する」といった流れを体得することで、一生モノの「言葉にできる力」を手にすることができるようになることを、ここに約束する。
【目次】