その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は野口緑さんの『 健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと 』。「プロローグ」をお届けします。
【プロローグ】
「こんにちは。今日はお会いできてとてもうれしいです。ぜひお会いしたいと思っていたんです!」
私は保健指導のとき、いつもこんな言葉で話を始めます。
保健指導とは、一般的に、健康診断の結果が良くなかった方が、保健師などと面談をして、自分の健康状態を把握し、今後の生活の改善について相談をするものです。
血圧や血糖値が高かったり、悪玉コレステロールの値が良くなかったりする方は、「面談に行ったら、𠮟られるんじゃないか」と思って憂鬱(ゆううつ)になるかもしれません。健康のためにお酒を控えましょうとか、運動をしなさいなどと言われるのは、想像しただけでも嫌ですよね。また、「仕事が忙しいんだから、面談なんて行っている暇がないよ」なんておっしゃる方もいます。
だから、保健指導の面談で「お会いできてとてもうれしいです」と私が言うのは、本心なのです。憂鬱な面談に足を運んでくれたということは、自分の体を心配しているということの表れだからです。
そしてそれは、この本を手に取ってくださった方も同様です。ご自身の体のことを心配していらっしゃるわけですから、みなさんにも「この本を開いてくださって、ありがとうございます!」と心からお伝えしたいのです。
自覚症状がないから行動を起こさない?
健康診断の結果が悪くなってしまっても、積極的に行動を起こして改善しようと思う人は、そんなに多くはないでしょう。
この本を手に取ってくださったみなさんは、問題意識があって、ある意味“エリート集団”にいると思いますが、それでも医療機関を受診して医師に相談したり、習慣的に運動したり、お酒を減らしたり、禁煙したりすることは、面倒だと感じることでしょう。
なぜ面倒だと感じてしまうのか。最大の理由は「自覚症状がないから」だと思います。
血圧や血糖、コレステロールなどの値が基準値から外れても、それだけでは自覚症状はほとんどありません。
痛くもかゆくもないので、「急いで何かやらなければ」という気持ちが起こりにくいというわけです。
世の中の大多数の人は、自覚症状が緊急度を表していると考えて、「体のどこかが痛くなったり、具合が悪くなったりしてから病院に行けばいいだろう」と思って、やり過ごしているのです。
それはまさに、「自分事としてとらえられない」状態です。これは、行動を起こそうと思わないもう1つの理由だといえるでしょう。
例えば、血圧が高い人は、「食事の塩分を減らしましょう。タバコを吸っている人は禁煙をしましょう。太っている人はやせましょう」という話を耳にタコができるほど聞いているはずです。
ですから、面談で改めてそんな話をされても、「言われなくても分かっている。いつも同じ話なんだから」と反発したくなりますよね。
タバコを吸ったり、運動不足になったり、お酒を飲み過ぎたりすると健康に悪いということは、誰でも知っています。健康診断の結果が悪くてもそうした生活習慣を改善しようとしないのは、自分事としてとらえるチャンスがなかったからだと思うのです。
突然死、過労死の背景に「健診結果の異変」
それでは、どうしたら問題を自分事としてとらえ、行動を起こせるのでしょうか。
人の行動が変わることを「行動変容」といいます。思えば私は、行動変容をテーマにしてさまざまなチャレンジを続けてきました。ここで、私がこれまで取り組んできた経験の中から、2つのお話をしたいと思います。
1つ目は、今から約20年以上前の2000年頃、私が兵庫県尼崎市役所で市の職員の健康をマネジメントしていたときの話です。
当時、市の職員は4500人くらいでしたが、驚いたことに毎年多くの職員が亡くなっており、多い年には20人近くにもなっていました。高齢者ではなく、60歳以下の現役世代がそんなに多く亡くなっていたと初めて知ったときは、大きな衝撃を受けました。
死因を見ると、生活習慣を見直せば予防できる心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患で、40~50代の職員が多い年で5人ほど亡くなっていました。そこで、心血管疾患の発症者の健康診断データを調べてみたところ、意外なことに、血圧や血糖値はやや高めだけれど、高血圧や糖尿病と診断できるレベルではない方がほとんどでした。そのため当時は「過労死」あるいは「原因不明の突然死」といった言葉で処理されていたのです。
しかし、どこかに兆候があったのではないかと考え、各人の入庁時からのデータをつなぎ合わせて調べてみると、倒れた人たちに共通項目が見つかりました。
まず、30~40代の頃から肥満が続き、40歳を過ぎた頃から血圧高値や高中性脂肪などの血管病の危険因子(リスクファクター)が重なり始めていました。ただ、どの値も「病気」と診断されるほどではなく、正常範囲の基準値を少し超えるくらいで、その「ちょっと高い」が重なる状態が少なくとも10年続いていたんですね。
血管にダメージが蓄積されると、ある日、過労などのストレスや睡眠不足、飲み会での深酒や急激な体重増加などが引き金になって、脳や心臓の血管が破綻します。こうして、脳卒中や心筋梗塞が起こってしまうのです。
リストの上から3番目の人まですでに倒れていた
私は、こうした事実に気がつき、中性脂肪、血圧、血糖値、LDL(悪玉)コレステロールなどの結果値について、病気と診断される値よりも少し低い「予備群基準」を設定し、それをオーバーする項目の多い順に職員を並べてみました。
すると、どんなことがわかったと思いますか?
なんと、リストの上から3番目の人まで、すでに倒れていたのです。
1番目の人は脳梗塞で入院中、2番目の人は心筋梗塞で休職中。そして3番目の人は、つい最近亡くなっていました。
私は、リストの4番目以降の人たちが気になり、慌てて上から順番に1人ずつ面談に来ていただき、とにかく倒れる前に何とかしよう、と必死に保健指導をしました。
するとうれしいことに、翌年以降、職員の心血管疾患による死者はゼロになったのです。
「新しい保健指導」で医療機関の受診率が大幅アップ
そして、私が自分の経験の中からお話ししたいことの2つ目は、2017年から全国43の自治体を対象に、保健指導の効果を検証するために行った大規模臨床試験についてです。
尼崎市では、市の職員だけでなく、市民への保健指導でも大きな成果を挙げていました。こうした新しいタイプの保健指導がほかの集団でも効果があるのかを調べるために、その大規模臨床試験では、大阪大学の磯博康教授をリーダーとして、全国43の自治体のうち、21の自治体には「新しい方法」で保健指導を行ってもらい、残りの22の自治体は「従来の方法」で保健指導を行ってもらいました(*)。
新しい方法では、まず健康診断の結果を示す表に工夫をしました。よくある健康診断の結果表は、項目と結果の値がずらっと並んでいるだけで、どの項目が重要かもわからないですよね。そうではなく、各検査項目に重みづけをし、チャート図を活用して自分の「血管障害」がどの段階まで進んでいる可能性があるのか、見ればわかるように示したのです。また、説明資料ではビジュアルを駆使し、このままだと自分の体がどうなっていくのかを示す「病態生理」を、科学的に説明できるようにしました。
その結果、どうなったでしょうか。
保健指導の1年後までに医療機関を受診してくれた人の割合で比べると、新しい方法を使った自治体のほうが、50%近くも行動変容を起こす人が増えました。LDLコレステロールの値が高い人に限ると、70%近くも上昇したのです。
結果が悪い人が「やってはいけないこと」とは?
この本は、健康診断の結果があまり良くない人が、自分の行動を変えようという気持ちになってくださることを目的としています。
私自身が、健康診断の結果に不安を持つ読者のみなさん1人1人に対して、保健指導の面談ができたらいいのですが、それはなかなか難しいので、代わりに本を書きました。
本書を読み終えたときに、「よし、自分の体を良くしよう!」という気持ちになってくださったら、こんなにうれしいことはありません。
そして、『健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと』というタイトルにある、「絶対にやってはいけないこと」とは何だと思いますか?
お酒を飲み過ぎてはいけないとか、運動しないで週末ゴロゴロ寝ていてはいけないとか、肉ばかり食べ過ぎてはいけない、といったことではないかと思うかもしれません。
しかし、それは違います。もっと、みなさんが意外に思うようなことなのです。
「絶対にやってはいけないこと」が何なのかについては、1章で解説していますので、ページをめくってぜひその目で確かめてください。
また、2章では、健康診断の結果が悪い人の「体の中」がいったいどうなっているのかを解説し、その対策を紹介します。血圧や血糖、脂質など、健康診断の項目ごとにまとめましたので、自分が該当するところを重点的に読み進めてもいいでしょう。
そして3章では、よくある6つのケースとその対策について紹介しています。人の体は千差万別ですが、健康診断の結果が悪くなっていくパターンにはいくつか共通点もあります。この章も、自分によく似たケースについて重点的に読むといいかもしれません。
4章では「一生使える体づくり」のために、食事と運動のヒントをまとめます。5章では、自分の体と健康診断についてさらに学ぶために、Q&A形式で解説しています。
体の中で「何が起きているか」を理解すると行動につながる
私が自分の経験を通じて確信しているのは、自分の体の中で何が起きているのかを理解すると、納得して行動を起こそうとする人が多いということです。
専門家はつい、「一般の人は難しい話を理解できないだろう」と思いがちです。そのため、「高血圧の人は食事の塩分を減らしましょう」とか「コレステロールの高い人は動物性脂肪を減らしましょう」などと、途中の説明をはしょって、やるべきことだけを示したりしてしまうのです。しかし、それでは心に刺さりません。
そうではなく、医学的・科学的に少し難しい話であっても一生懸命解説すると、自分がいかに、血管や臓器に無理をさせていたのか気づき、真剣に受け止めてくれて、行動を起こしてくれることが多いのです。ですから、本書では、少々難しい話でも、できるだけわかりやすく説明してみることにします。なんとか理解してもらえるよう、一生懸命解説しますので、最後までお付き合いいただけると幸いです。
野口緑
【目次】





