その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は小峰隆夫さんの『 私が見てきた日本経済 』です。本書は週刊東洋経済のベスト経済書・経営書2023(2023/12/23-30 新春合併特大号)にてランキング第5位に選出されました(2023年12月18日追記)。
【はじめに】
連載エッセイを書籍化
私は、1969年に大学を卒業して、経済企画庁(現在の内閣府)に奉職して以来、既に50年以上もの間、一エコノミストとして日本経済を観察、分析してきた。その結果、この分野ではかなりの年長者となった。すると、昔の日本経済についてマスコミから取材を受けたり、ここ数十年間の日本経済の歩みを振り返るといった仕事が増えてきた。
そんなとき、私が研究顧問を務めている日本経済研究センターから、ウェブサイトにエッセイを毎月連載するよう依頼された。そこで、「小峰隆夫の私が見てきた日本経済史」と題して2013年12月20日から、私のこれまでの長い日本経済とのかかわりについて書くことにした。私は、役人になって1年目のことから順を追って、思い出すままにエッセイを書き始めた。書いてみると、芋づる式に次々にいろいろなことが思い出され、書きに書いて、ついに100回を超え、現在も続いている。本書は、その連載の118回(2023年7月24日掲載)までを取捨選択して加筆修正のうえまとめたものである。
書籍化に際しては、できるだけ当初の執筆順を維持しつつ、読みやすいようにカテゴリー化して、章別に再編した。また、独立したテーマについては、各章にコラムとして配置してみた。
なお、書籍化に際して、タイトルを『私が見てきた日本経済史』から『私が見てきた日本経済』に変えた。連載を始めたときは、タイトル通り「日本経済史」を書こうと思っていたのだが、書いているうちに、日本経済がどのように変化してきたかという経済史に加えて、日本経済の変化に応じてどんな議論が行われ、私がそれにどんな考えで臨んできたかなど、視点が多角化してきたからである。
本書を構成している四つの要素
その結果出来上がった本書は、いくつかの要素が入り交じったものとなった。
第1は、ここ半世紀の日本経済史としての側面である。本書では、ニクソン・ショック、石油危機、日米経済摩擦、バブルの生成と崩壊などの出来事が記録されている。ただし、経済史をまんべんなく書いたものではなく、その対象は私が直接かかわった出来事だけに限られている。「私が見てきた」という限定条件つきの経済史であることをお断りしておきたい。
第2は、私の自叙伝としての側面である。本書では、私が大学を卒業してから、経済企画庁に入り、経済白書を書き、退官後は大学で教鞭をとるに至るまでの、身の回りの細かい出来事や私が縷る々る考えてきたことが、生のまま書かれている。あくまでも一個人の人生なので、まったく一般化はできないのだが、「このエコノミストは、そんなふうに生きてきたのか」と気軽に読んでほしい。
第3は、官の世界の実態を解説するという側面である。私は、経済企画庁の官僚として「官」の世界を、その後は、大学の教員として「民」の世界を経験してきた。本書では、その経験を生かして、月例経済報告をめぐるやり取り、国会答弁の仕組み、秘書官の役割、各省調整など、官の世界ならではの実体験を解説している。これも、私の個人的な視点からの解説なので、一般化はできないが、「なるほどそういうことになっているのか」と思っていただける面もあるだろう。
第4は、具体的な経済分析の紹介である。本書では、私がエコノミストとして実際に参加してきた「国際収支や為替レートの分析(Jカーブ効果等)」「バブル生成期のキャピタルゲインやバブル崩壊後のバランスシート調整」等について解説している。やや踏み込んだ経済分析に関心のある方は参考にしてほしい。
本書の構成
本書の構成を紹介しておこう。
第1章「タブー死すべし――ニクソン・ショックと悲劇の経済白書」では、私が経済企画庁に入って最初の白書づくりでの体験を述べている。ニクソン・ショックと円の切り上げという大渦に巻き込まれた経済白書は、悲劇的な展開を示すことになる。
第2章「石油危機の時代」は、1973年の第1次石油危機、78年の第2次石油危機の時代の日本経済を扱っている。同じ石油価格の上昇とは言いながら、第1次石油危機と第2次石油危機への日本経済の対応はかなり異なるものだった。
第3章「経済摩擦と経常収支不均衡について考える」は、当時最大の懸案だった日米経済摩擦と経常収支の黒字問題を取り上げている。今や、時代は変わり、経済摩擦はほとんどなくなって、経常収支も赤字化への動きが懸念されるようになった。読者は、かつての日本は現在とはまったく異なる国際経済問題に直面していたことを知ることになるだろう。
第4章「月例経済報告を振り返る」は、政府の月例経済報告を取り上げている。政府が経済情勢についての見解を文書で公表する月例経済報告は、経済政策の貴重なインフラだ。この章では、この月例経済報告の作成現場に長く身を置いてきた経験を踏まえて、その作成の仕組みをエピソードを交えながら説明している。
第5章「経済白書とは何か」では、本書で重要な役割を果たしている経済白書についての基礎知識を述べている。過去の名白書を紹介しつつ、新人時代の私の白書づくりの経験を書いている。
第6章「エコノミスト修業時代」は、93年に内国調査課長になるまでの、私のエコノミスト修業時代を対象としている。内国調査課の補佐時代、総合計画局での経済計画づくり、大臣秘書官、日本経済研究センターへの出向などの経験が描かれている。
第7章「経済白書ができるまで(前編)」と第8章「同(後編)」は、私が内国調査課長に就任し経済白書を書いていくプロセスを克明に追った部分である。あまりにも克明すぎて二つの章に分けなければならなかったほどだ。自分で言うのもどうかとは思うが、この部分は、連載中最も反響が大きく、評価が高かったところである。この部分は、本書のハイライトであるだけではなく、私の人生のハイライトでもある。
第9章「経済白書で分析してきたこと」は、タイトルの通り、私が経済白書で分析してきた主な課題をピックアップして解説したものである。不良債権問題では、当時の不良債権の実態についての認識がいかに不十分だったかが述べられ、円レートのJカーブの分析では、私がこのテーマにいかにしぶとくこだわってきたかが述べられている。
第10章「官の世界で経験し考えてきたこと」では、「官の世界」と「民の世界」の両方に身を置いてきた私が、折々に直面してきたことを紹介している。官の時代に取り組んだ省庁再編や規制緩和を振り返り、官と民の視点から、国会答弁のあり方、官僚の役割、そして私自身が代表選手であった官庁エコノミストの現状などについて書いている。
本書では、以上のような内容を、自分の考えの赴くままに自由に書いた。それをどう評価するかは、読者の方々の判断に委ねることにしよう。
【目次】



