その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」をご紹介します。今日は楠木建さんの『 楠木建の頭の中 仕事と生活についての雑記 』です。
【はじめに】
頭の中に生まれた考えを言語化し、それを商品として提供するのが僕の仕事です。商品パッケージとしては大学院での講義、メディアでの取材、講演やセミナー、企業でのアドバイザリーなどさまざまな形があるのですが、主戦場は書きものです。
僕の書くものには大きく分けて3つの分野があります。本業の「戦略論」と副業の「書評」と「それ以外」。本書はこれまでに書き溜めた「それ以外」を一冊にまとめたものです。
書くという仕事を30年以上も続けていると、「それ以外」の分野でもいまだに書籍化されていない在庫が相当に溜まっています。新聞や雑誌、オンラインメディアに寄稿した文章の中から選んだものをこの本に収録しました。
考えて書くという行為がとにかくスキ。注文を受けてメディアに寄稿するのに加えて、2019年に有料の個人ブログ「楠木建の頭の中」を始めました。日々の考えごとを文章にし、特定少数の購読者に向けた発信を続けています。これまでは一般に公開されていなかった個人ブログの記事も本書には数多く収録されています。
2021年1月から、紙の雑誌でも「楠木建の頭の中」と題したエッセイを書き始めまた。スカイマークの機内誌『空の足跡』での連載です。そのほとんどを本書に収めました。本書で用いている数字やデータは原則的に執筆当時のものです。
話題が多岐に亘るので、「生活編」「仕事編」「社会編」の3部構成にしました。とはいえ、日々の雑記です。くだらない話も多々あります。それでも本書に収めたすべての文章には一つの共通点があります。自分が面白いと思ったこと(だけ)を書いているということです。これが書く仕事をする上での僕の金科玉条にして原理原則です。
自分で面白ければ人にも伝えたくなります。人に伝えるためには頭の中にある思考を言語化しなければなりません。ここに僕の最大の書く動機があります。自分が面白いと思ったことを他者と共有し、その人にも面白いと思ってもらう。僕にとってこれほど嬉しいことはありません。
本書が世に出るきっかけは日本経済新聞出版の永野裕章さんからのお誘いでした。永野さんからのお声かけがなければ、このような手前勝手な本をつくることはできませんでした。深くお礼を申し上げます。なお、本書は永野さんに編集していただいた書評集『経営読書記録』(表・裏)と同様に、分冊です。競争戦略についてこれまで書いてきた論説は、同時に刊行された『楠木建の頭の中 戦略と経営についての論考』にまとめています。こちらも併せてお読みくださいますと幸いです。
この本に限って言えば、どこから読み始めても、どういう順番で読んでくださっても結構です。暇つぶしのお供として本書を活用してくだされば本望です。その時々の考えを思いのままに書いた雑記ではありますが、というか雑記であるだけに、どれをとっても僕がこれまで頭の中で練り上げてきた価値基準が通底しています。そこを汲み取ってくださいますといよいよ嬉しい。そして、僕なりの考えが読者の日々の生活、仕事や世の中への構えにとって何がしの足しになれば、著者として望外の喜びです。
令和六年秋
楠木 建
【目次】




