その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は内村さやかさんの『 社長と現場がつながる、思いが伝わる漫画のつくり方 』です。

【はじめに】

 わたしはフードサービス業「サイゼリヤ」で、毎週、『漫画で知ろうサイゼリヤ』という漫画制作に携わりました。3年続けましたので、漫画の発行回数は150回を超えています。

 最初にお伝えしておくと、わたしは漫画家ではなく、漫画の発信者・原作者でもなく、漫画制作においては企画編集者という立場に過ぎません。ただ、企画編集者だからこそ漫画制作の全体を見ており、150回以上制作していると、いろいろとわかってきたことがあります。

従業員2万5000人が毎週読んでいた漫画の制作ノウハウ

 150本超の漫画を見た編集者さんから、「そのノウハウを本にしませんか」と声を掛けられたとき、迷いなく「いいですよ、できますよ」と答えました。「それが誰かの役に立つのなら」と。

 わたしはわたしの事情があったので、世の中に前例がないなら独自につくればいいと割り切り、自組織で機能するように漫画をつくり、自分なりに定型化しました。全部、必然でやったことですが、無我夢中で手当たり次第にやってみたということではなく、世の中にあるナレッジを組み合わせて開発設計する論理的なアプローチでやったものですから、方針から細かい手法まで即座に説明できると思ったのです。

 「いいですよ、できますよ」と返事した後、本にする意味をもう少し考えてみました。組織内での漫画づくりをノウハウ本にして誰かを困らせることもなさそうです。社内用の漫画の内容が公開されてしまいますが、もともと2万5000人超の従業員に見せるものとして、社外の目に触れる可能性も含めてつくっていましたから、それほど害があるとも思えません(掲載する内容は選べますし)。

 では、本にする意義のほうはどうか。わざわざ本にするなら誰かの役に立てたいと考えます。果たして、このノウハウを必要とする人は、世の中にどのくらいいるのでしょうか。ノウハウといっても、とある組織の企画編集の実践例です。同じような課題を抱えている人や組織がどのくらいあるのか、たとえ課題を持っていても漫画でやってみようと考える人がどのくらいいるのか、わかりません。正直、書き上げた今でも、「そんな人がいるのだろうか?」と思っています(笑)。

「これ、どうやってつくっているんですか?」と
必ず聞かれていた。

 一方で、わたしが別件で制作した社内用の漫画&解説本を何かの折に社外の人に見せたとき、「こういう漫画ってどうやってつくるんですか?」と見せるたびに聞かれたことを思い出しました。同じくメディア取材で社長(当時の社長。以下、本書では「当時の」を省略して「社長」と記載します)が『漫画で知ろうサイゼリヤ』を紹介したときも、漫画サンプル数枚を見せると、「これ、どうやってつくっているんですか?」と必ず聞かれました。

 どうしてみんな同じことを聞くのか、プロがエンタメ漫画をつくるのは不思議なことではないのに、何が気になるんだろうと聞かれるたびに思っていました。質問に対してざっくり答えても、フーンと不思議そうな顔をされることが多く、わたしにとってよくわからない反応でした。今でも何が気になっての質問かまだよくわかっておらず、この本を出すことが謎の解明の糸口になる予感はあります。

 結論として、ニーズはよくわからないですが、害がないならせっかくだから書いてみよう!ということで本にさせてもらいました。特段に隠すところも惜しむところもありませんから、裏表なく書きました。サイゼリヤのネタばらし的なところはありますが、それらも含めて、全力で大公開しています。

組織内コミュニケーションツールとしての漫画

 本書で取り上げるのはビジネス用途での漫画ですが、その主流であるマーケティングツールとしての漫画ではありません。トップと現場をつなぐこと、意思疎通を進めること、つまり「組織内コミュニケーションツールとしての漫画」です。

 組織内コミュニケーションツールとして漫画活用を検討する代表的なケースは、「自社のサービスが高度化・複雑化して社員でもよくわからないという声が多いとき」「忙しい現場に端的にわかりやすく説明したいという要望が強いとき」などでしょう。こうした要望はトップから出るときもありますが、わたしの経験では中間管理職のボヤキに多く含まれています。

 中間管理職の大事な任務の一つは、会社の方針変更や仕組みの変更などを現場に説明することです。ただ、時代の流れが速く、プレイングマネジャーも増えているので、「キャッチアップが大変、ましてやメンバーの個性に応じた説明なんてやっていられない」「もう漫画にでもして、会社から現場に直接わかりやすく説明してくれよ」というニーズが強くなっています。こうした「声にならない声」が聞こえたら、組織内コミュニケーションツールとして漫画を使うときかもしれません。

本書の内容

 本書は、組織内コミュニケーションの実務に携わる方に向けて、トップと現場をつなぐ従来のツールやコミュニケーション方法では物足りなさを感じている方に、「漫画」という手段がいかに有効なのか、どうすればそんな漫画がつくれるのか、わたしの経験に基づいて、実践的な情報をまとめています。

 第1章と第2章は、漫画というツールの効能を広く引き出すために、多面的に漫画を知るためのナレッジとしてまとめました。150本超の漫画制作に基づいた、わたしなりの考察をまとめています。

 第3章~第5章では、組織内コミュニケーションツールとしての漫画の制作実務を説明します。マーケティングツールとしての漫画制作と一線を画すために、制作上のスタンスなど勘どころをまとめました。

 第6章は、サイゼリヤでの実例集です。組織内コミュニケーションツールとしての漫画にはどういうテーマがあり、それぞれのテーマを漫画にするとどんな感じになるのか、いわゆるネタ帳としてご活用いただけることを想定しています。

 第7章と第8章は、漫画の中に散りばめているテクニックの紹介です。第7章はコミュニケーションのための漫画の実践テクニック。第8章は一般的なコミュニケーション技術のうち、漫画でも有効なものについて、漫画に落とし込んだ実例と、その解説です。漫画で有効なコミュニケーション技術について解説している本はほとんどないと思います。

 第9章は、企画編集者にスポットを当てます。組織内コミュニケーションツールとしての漫画を組織で適切に機能させるキーパーソンとして何が求められるのか、わたしが考えていることをまとめました。

 第1章から順に読んでいただければ、読者の組織特性に合った漫画の効能を最大限に活用するイメージが湧きやすくなるかもしれません。

 もしあなたが漫画の実務を既に担当しているなら、本書をパラパラとめくって気になったページを拾い読みするだけでも、ネームや構図、表現のヒントを得ることができると思います。

 みなさんの今必要なことに、少しでも貢献できれば幸いです。

2023年11月 内村さやか


【目次】

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