その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は奥山月仁さんの『 個人投資家入門 byエナフン 株で勝つためのルール77 』です。

【はじめに】

 「資本家」の側に入って勝負する

 今の日本は資本主義社会である。貴族社会や武家社会では、農民の富が貴族や武士に吸い上げられていた。資本主義社会では、資本家が事業に資金を投資することで経済が発展し、企業で働く人々の稼いだ富が、最終的には株主である資本家に流れる仕組みになっている。それが良いか悪いかという議論はさておき、それが現実である。

 幸い、今の日本は自由主義でもある。資本主義を支える仕組みとして株式市場も整備されている。株主になりたければ、数万〜数十万円の資金を用意するだけで誰でも資本家の側に入れる。

 もちろん、貴族や武士がお互いに勢力を争っていたのと同様に、株主は株主で厳しい戦いを勝ち残る必要はあるが、いくつかのポイントを押さえて、アマチュアの個人投資家ならではの投資戦略を構築できれば、プロ相手にも十分に戦える。

 ビジネスパーソンの強みを株に生かす

 私は会社員を続けながら株式投資をしている。会社員なので、日中にパソコン画面に張り付いて株価の変動をチェックし続けることはできない。短期的な株価の変動は無視して長期保有し、企業の成長や業績回復に伴う長期的な株価の上昇を狙うことに徹している。

 「会社を辞めて株式投資に専念したほうがもっと儲かるのでは」と思う読者もいるかもしれない。私は必ずしもそうとは思わない。ある業界のプロとして、ビジネスに精通しながら株式投資をするほうが何かと有利な面があるからだ。

 まず、ビジネスの第一線で生の情報と接し続けられる点は有利に働く。株というと、「何か遠い世界の企業の株を買わないとダメ」と思い込んでいる人がいるが、そんなことはない。身近な企業の株ほど、兼業の個人投資家には有利という面がある。大儲けのネタはそこら中に転がっている。ただ、それに気付いていないだけなのだ。

 また、今どきのビジネスパーソンなら、嫌でも会計やビジネスの勉強をしないといけないが、この点もそのまま株式投資に生かせる。本書で紹介するバリューエンジニアリング投資法は、私が勤務先で、あるミッションの責任者を命じられた時に知ったバリューエンジニアリングという経営学の考え方を応用したものである。普段の仕事で何気なく使っている情報を応用して、ビジネスパーソンならではの投資スタイルを確立することができるのである。

 個別の成長株に長期投資する

 私が初めて株式投資をしたのは高校生の時だ。ある日、父親がこんなことを言った。「おまえが生まれてから今日まで、折々に親戚から頂いたお祝い金が30万円ほどある。大学生になる前に、おまえに渡そうと考えていた。一方で、私が以前投資していた株の端株(はかぶ)が30万円分ほどある。おまえが望むなら、そっちをやってもよい。どちらでも好きなほうを選んでくれ」。端株とは、株数が最低売買単位に達していない株を指す。例えば100株単位で売買されている銘柄の株を30株だけ持っているようなケースである。増資か何かでたまたま持っていたのだろう。

 私は後者を選択した。銘柄は山一証券。1997年に自主廃業に追い込まれたあの山一だ。もっとも、私がその株を手にした1980年代後半は、バブル経済が始まろうかというタイミングでもあったため、証券株は総じてよく値上がりした。父親から譲り受けた時に1000円ほどだった山一の株価も、あれよあれよと2年ほどの間に3倍の3000円に。高校生の私にとっては人生観が変わる出来事だった。

 この体験がきっかけで私は経済学部を志望し、大学では証券理論のゼミに入った。そのゼミの教授だったのが、故・蝋山昌一先生だ。当時は、今では周知のものとなっている先物市場や新興市場、REIT(不動産投資信託)といった金融の新しい仕組み作りを検討されていた。勉強嫌いだった私は毎日ギャンブルばかりやってろくに大学の授業に出席しなかったが、ゼミの勉強だけは楽しく、欠かさず出て、そこで金融理論を一から学んだ。だから、大学を卒業したら金融業界で働こうと思っていた。ところが卒業前にバブルが崩壊。金融業界の先行きはあまりに暗く感じられ、一般企業に就職する道を選び、株は趣味程度に続けることになった。

 勝ったり負けたりが続き、資産は一向に増えなかった。短期トレードやチャート分析も一通り勉強したが、私には合わなかった。悩んでいたところ、ある本に出合った。米国の伝説的ファンドマネジャー、ピーター・リンチが、アマチュアの個人投資家向けに自身の投資法を解説した本『ピーター・リンチの株で勝つ』(ダイヤモンド社)だ。サブタイトルに「アマの知恵でプロを出し抜け」とある。

 リンチは、米資産運用大手フィデリティの旗艦ファンド(投資信託)を1977年から13年間運用し、1年当たり平均29%のリターン(運用益)を上げて、ファンドの純資産総額を700倍に増やした。

 彼の本を読んでみると、「今の日本市場を説明しているのではないか」と錯覚するほど普遍的で本質的なことが書かれていた。この本が米国で最初に出版されたのは1989年。内容はすべてそれ以前の米国の話であるにもかかわらずだ。

 私がリンチの本を読んだ当時は、短期トレードが大流行りだった。一方、長期投資といえば、インデックスファンドやETFなどに広く薄く投資する長期分散投資が主流だった。株の雑誌や本を読んでも、個別の成長株に長期投資する方法を丁寧に説明してくれる解説書は皆無だった。

 私はリンチの本を何度も何度も読み返して、そこに書かれたリンチの投資法を咀嚼し、日本の個別株に応用して売買することにした。

 「この投資法が現在の日本でも通用するものか、一度、試してみよう。そしてその内容をブログで公開し、みんなに知ってもらうんだ」

 そんな思いで2008年5月にはブログ「エナフンさんの梨の木」を開設した。同年7月には、株式で運用している財産の中から100万円だけブログ用に取り出して専用の証券口座を開設し、その投資成績を公表しながら進めるというガチ勝負で行くことにした。それから14年。その口座の残高は2022年末現在2379万円と23倍を超えている。

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 正しい知識を得て研錯し「億り人」に

 私は、蝋山先生のゼミで、証券市場を整備することが日本経済を発展させるために非常に重要なこと、人々が企業に対して正しい評価をすることで、初めて市場が機能すること、そのためには多くの人が基本的な投資の知識を得る必要があることなど、大切なことをたくさん教えてもらった。だから私は「投資の正しい知識を広めたい」という思いで、投資ブログを立ち上げた。

 その私が株で負けっぱなしでは説得力がない。そこで、ブログ開設後はそれまで以上に真剣に投資に打ち込んだ。結局、そのご褒美が何億円にもなって返ってきた。

 不思議なのは、株式投資の扉は誰にも開かれているにもかかわらず、ほとんどの人が近づこうともしないことだ。いろいろと原因はあると思うが、1つ言えるのは、英語やスポーツなどと違って、株式投資を体系的に学習できる仕組みが日本にはほとんどないことだ。専門用語を一通り覚えたら、あとは独学と度胸で何とかやっていくしかない。うまく経験を積んで、自分なりの投資スタイルを構築できる人は少なく、初心者の方の多くは何かをつかむ前に損を繰り返して脱落してしまう。

 リスクとリターンをてんびんに掛ける中上級者を目指せ

 本書は、私が過去に出版した3冊の入門書のエッセンスを集約し、初心者レベルを突破するための道筋を整理し、大事なポイントを列挙したものだ。

 最初に書いた『エナフン流株式投資術』は、ピーター・リンチ流の投資を私なりに解釈し直して、アマチュアでも勝てる投資法を網羅的にまとめた初心者のための入門書だった。

 次に書いた『エナフン流VE投資法』は、成長株を割安に買うためのノウハウを具体的・体系的にまとめたものであり、前述したバリューエンジニアリング投資法について解説した。

 3冊目の『エナフン流バイ&ホールド』は、SNSやネットニュースが広く普及し、様々な投資情報を誰でも瞬時に大量に入手できる時代になったことで、かえって、多くの個人投資家は大混乱することになってしまったことを踏まえ、氾濫する情報への対処法を提示しながら、割安な成長株に投資して大きなリターンを得るバイ&ホールドの手法を解説した。

 この3冊の内容を集大成した本書を読んでいただければ、思い付きや様々な情報に振り回される初心者の域を脱して、「自分が何をしているのか」を的確に理解した上でリスクとリターンをてんびんに掛ける中上級者の投資家を目指せるようになると自負している。

 株式投資を始めたものの、なかなかうまくいっていない方、あるいはこれから株式投資を始めようと考えている方、さらに株式投資でそれなりにうまくやっているけれども、一度考えをまとめておきたい方など、多くの方に本書を手に取っていただければ幸いである。


【目次】

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