その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は松浦弥太郎さんの『 価値あるもの 衣・食・住・旅 』です(写真・筆者)。
【はじめに】楽しさを選ぶことは、暮らしを選ぶこと。
たとえば、ある日シャツを一枚買うとする。ただ着るだけでなく、そのシャツが今日一日の気分をどう変えてくれるかをイメージしてみる。少し明るい色なら、出会う人との会話も軽やかになるかもしれない。上質な布地なら、肌に触れるひとときが心地よさとなって、自然と背筋が伸びる。もしかしたら、勇気が出て、二の足を踏んでいたあの場所に行けるかもしれない。
小物もまた同じだ。新しく手に入れたバッグは、ただ物を持ち運ぶ道具ではなく、外出先での相棒になる。靴はともに歩む旅の友であり、財布やペンのように毎日触れるものは、選び方ひとつで、ささやかな所作に自信さえも与えてくれる。
大切なのは「その体験を喜ぶ」ことだ。実際に身につけ、歩き、じっくりと使って、その体験を味わうように楽しむ。そこには小さな冒険のようなわくわく感があるだろう。そう、服や小物を選ぶ行為は、見知らぬ町を歩く旅にも似ている。そこには必ず新しい風との出合いがあるからだ。
そしてもう一歩深く考えてみると、何かを選ぶ、そして買い物という体験は「自己投資」でもあるだろう。金融投資が未来のお金を育て、学びへの投資が未来の知恵を育てるように、服や小物を選ぶことは、きっと未来の自分を見つける投資になる。
たとえば靴。快適に歩ける一足は、健康そのものを守ってくれる。天然素材の服は、肌にやさしく、コンディションを整えてくれる。これは「未来の健康」への投資と言えるだろう。清潔でていねいに選ばれた服や小物は、言葉以上に自分を表し、安心や信頼を相手に伝えてくれるだろう。これは「人間関係」への投資になるだろう。
質の良いスーツやシャツ、手にしっくりとなじむペンは、自信と集中力を後押ししてくれて、やがてそれが成果や評価につながる。これは「仕事」への投資になる。
改めて言う。買い物という体験は、決して浪費ではなく消費でもなく、自分という未来の資産を育てる行為だと。無駄遣いもたまにはあるだろうし、当然、失敗もある。けれども、そのリターンは、人生を楽しむための知恵や喜び、そして自分を支える確かな自信として返ってくる。
結局のところ、人生を楽しむという哲学とは、こうした旅のような日々、その小さな体験(=投資)を一つひとつ積み重ねていくことなのだろう。服を選ぶことも、旅に出ることも、同じように「未来の自分を育てる体験」なのだから。
この本を通して、あなたにたくさんのよき出会いが訪れることを願っている。
松浦弥太郎
【目次】












