その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日経エンタテインメント!(編)の『 スタジオ地図15周年『果てしなきスカーレット』で挑む世界 』です。
【はじめに】
本書は、エンタテインメント媒体『日経エンタテインメント!』(日経BP)がこれまで追い続けてきた“細田守監督とスタジオ地図の15年の軌跡”を、最新作『果てしなきスカーレット』の本誌特集未収録記事まで含めてお届けするものです。
本誌『日経エンタテインメント!』が、細田守監督と齋藤優一郎プロデューサーに出会ったのは19年前。『時をかける少女』(2006年)がきっかけでした。折しもインターネットが世に広まり、『時かけ』のクチコミが今でいう“バズる”社会現象となってロングラン。続く09年、『サマーウォーズ』公開時にiPhoneが日本で普及し始めるなど、時代の潮流をまさに目の当たりにしたのでした。
もちろん細田守監督は、東映アニメーション時代の劇場短編『劇場版デジモンアドベンチャー』(1999年)や、絵コンテや演出を手掛けた数々のテレビアニメシリーズなどでも作風が際立っており、すでにアニメーション業界やファンから注目されていました。それが広く一般層にまで知れ渡るようになったのが、『サマーウォーズ』(09年)でした。
日本の都市とインターネットの2つの世界を舞台に、大家族が世界を救う爽快な物語には、これまでのファンも新しいファンも共に魅了されました。この作品には、後の細田守監督作品にも共通する「時代に寄り添うテーマ」「2つの異なる世界が舞台」「手描きとデジタルの融合」「クジラ・青空・入道雲」などの要素もそろっていて、公開から15年がたった今でもなお、放送されるたびにネットでバズるなど、時代を超えて愛され続けています。
このようにオリジナルアニメーション映画が支持された細田守監督は、新作を最も期待されるアニメーション映画監督の1人となりました。しかし、コンスタントにオリジナルアニメーション映画を作り、また作品をヒットさせ続けていくことは、企画・資金調達から制作はもちろん、配給・宣伝といった業務がすべて適切にプロデュースされなければ、なかなかかないません。それは今の日本のアニメーション業界にとっても課題となっています。
作品を作り続けるために~スタジオ地図の誕生
その難問に対して、作品を作り続けるために、細田守監督と齋藤優一郎プロデューサーの2人は、2011年にスタジオ地図を設立しました。このスタジオをベースに、細田守監督はその後も『おおかみこどもの雨と雪』(12年)、『バケモノの子』(15年)、『未来のミライ』(18年)、『竜とそばかすの姫』(21年)と、オリジナルアニメーション映画を製作、発表し続けてきました。
1人の監督のオリジナルアニメーション映画作品を、3年ごとにコンスタントに世に送り出し続けることがいかに大変なことであるか。これがまず、日本のアニメーション業界を作品制作と製作・プロデュースの両面から見てきた『日経エンタテインメント!』としてお伝えしたいことです。
家族の絆や若者の未来を描くといった、世代を問わず誰もが共感できる物語に社会性を持ったメッセージを込める。細田守監督作品が広く長く愛されているのは、そうした作品の持つ普遍的な魅力と、常に新しいチャレンジを続けてきた姿勢にあると考えられます。
一方で、オリジナルアニメーション映画作品はベストセラーコミックスなどを原作とした作品と比較すると認知度が低く、制作面における新しいチャレンジには常にリスクがつきまといます。『日経エンタテインメント!』が製作・プロデュース面での評価も重視するのは、事業継続には安定した仕組みや体制が欠かせない現実があるからです。
細田守監督がオリジナルアニメーション映画を継続して作り続けることができた背景には、製作・プロデュース面においても協力企業や出資者などの理解を促しアライアンスを組むに留まらず、先駆的なLLP(有限責任事業組合)といった仕組みでの権利保有や利活用の新しい取り組みを推進したこと、さらに国内だけではなく海外展開にも挑戦し続けてきたプロデューサー陣の働きがあります。つまり、細田守監督とスタジオ地図は、企画・制作と製作、クリエーティブとビジネスの両輪で新しいチャレンジを続けてきた、日本でも希有(けう)なアニメーション制作スタジオなのです。
ところが、最新作『果てしなきスカーレット』(25年)は3年ではなく4年の制作期間をかけ、夏公開ではなく冬公開。見た目もこれまでの作風と大きく変わっています。しかし本誌特集で取材を続けていくと、時代に即して常に新しいチャレンジを続けてきた細田守監督とスタジオ地図だからこその必然の結果であることが分かりました。
スタジオ設立時には白紙だった彼らの地図は、すでに世界地図になりつつあります。そこには、世界の中での日本のアニメーションが置かれているポジションも反映されているように思えます。本書を通して、細田守監督とスタジオ地図が、いかに“自分たちにしか描けない物語”を模索してきたかを感じていただければ、それに勝る喜びはありません。そして、ここからまた新たな表現やテーマに果敢に挑戦していくであろう細田守監督とスタジオ地図が、日本のアニメーション映画の開拓者であり続けることを祈っています。
2025年11月 『日経エンタテインメント!』編集部
【目次】






