その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は南場智子さんの『 不格好経営 チームDeNAの挑戦 』。「まえがき」をお届けします。

【まえがき】

 いつも私は去年の自分が恥ずかしい。10年前の自分など、他人と思うようにしないとうまく生きていけない。よく言えば、それだけのスピードで成長し続けているということかもしれないが、単にいつも恥ずかしい状態の人間だというほうが正確な気がする。そんな私が本など書いてしまったら、来年の今ごろにはどうしようもなく恥ずかしくなり、全部買い占めて焼却してしまいたくなるだろうか。

 それでもいいや、というのが最近の私の心境だ。それより、DeNAのことをちゃんと伝えたい。DeNAがどうやって生まれ、どうやって今のDeNAに育ったのか。これまで語られたことや語られなかったことを全部まとめて、ありのままに伝えたい。そういう気持ちが盛り上がり、初めての自著となる本書の筆をとった。

 1999年、マッキンゼーのコンサルタントとして調子よくやっていた私は、何かに取り憑かれたように起業し、それまで順風満帆だった多くの人の人生を荒波に巻き込み、四方八方に迷惑をかけながら失敗のフルコースを片っ端から経験して、DeNAを立ち上げた。

 その後、私たちは試行錯誤を続け、何度か事業の基軸をずらしつつ、成長を模索する。携帯電話向けのオークションサイト「モバオク」によりモバイル事業の展開を本格化した2004年からが、DeNAの発展期だろう。さまざまなモバイルサービスを立ち上げ、モバイルインターネットサービスのリーダーとして業界を牽引していくことになる。

 そして2006年に生んだ「モバゲー」が一気に拡大し、数千万人のユーザー基盤を持つことになる。戦略性と実行力に富む企業へと成長し、グローバル市場でも頂点を目指そうと海外展開も加速していく。同時に巨大なサービスを持ったことで、社会との向き合い方を問われていく。真の一流企業とは何なのかを強く意識するようになるのも、この時期だ。

 しかし、グローバル戦略を成功させること、社会に愛される会社になることを経営の最重要課題として取り組んでいたさなかの2011年、私は突然社長を退任する。たったふたり家族の相棒が病気になり、自分の優先順位が社業から家族に切り替わってしまったのだ。本当に人生は何が起こるかわからないなぁ、というのが本音だが、むしろそれまで12年もの間、環境に恵まれ、何も心配せずに、社業だけに専念できたことに感謝するべきなのかもしれない。

 社長を退任してからの2年間は、今までの人生で初めてのことばかりを経験した。このことが自分にいくつかの宝物をさずけてくれたような気がしている。DeNAについても、取締役としてかかわりながらも、社長時代よりはもう少し客観的に、広い視野で、また少し長いスパンで考えることができるようになった。

 今般、家庭の状況が変化し、仕事の時間を増やすことになった。今度は何をするのですか、とよく訊かれる。DeNAの挑戦は止まっていない。私は現社長の守安や社員皆と力を合わせ、DeNAを世界のてっぺんに押し上げたい。そして、今まで以上におおらかで腰の強い会社にしたい。世界で大きなうねりをつくることができるリーダーを次々と輩出する会社にしたい。少しでも時間に余裕があるなら、やっばりチームDeNAの夢の実現に力を尽くしたいのだ。今までと違う私には、今までと違う貢献ができるはずだ。そんな思いで、現場で使う時間を増やすことにした。

 現場復帰の第1弾の仕事として、私は本書に取りかかった。家族の闘病を通して知り合った医療関係者など、これまで接点のなかった人たちと親しくなると、世間でのDeNAのイメージが実態とかけ離れていることがわかり、愕然とした。世間一般にもっとDeNAの「素」の姿を知ってほしい。それが本書に取りかかる、ひとつの大きなドライブとなった。

 DeNA社員に自分たちの原点を忘れないでほしいと思ったことも、ペンをとった理由だ。DeNAはとても大きく、影響力のある会社になった。立ち上げ期のDeNAを知らない社員も多いなか、苦境を支え助けてくれた多くの人々のおかげで我々が生き残っていること、そして、その感謝の気持ちは社会に貢献することでお返ししていかなければならないことを、何としても伝えたいと思った。

 私はビジネス書をほとんど読まない。こうやって成功しました、と秘訣を語る本や話はすべて結果論に聞こえる。まったく同じことをして失敗する人がごまんといる現実をどう説明してくれるのか。

 だから本書の執筆にあたっては、誰か遠い他人の仕業と思いたいほど恥ずかしい失敗の経験こそ詳細に綴ることにした。そちらのほうがビジネスマンにも、経営者にも、そして何かに悩んでいる人にも、役に立つ真実だと思ったからだ。また進路を考えている学生にも、スムーズで薔薇色ばかりではない、ベンチャーの現実を知ってもらいたかった。

 それにしても実際書いてみると、わが社の歴史はひどい。世間さまにここまでアホをさらけ出していいのだろうかと思うほど、ひどい。もし歴史を巻き戻して、立ち上げ期をやり直せるなら、あのときと同じようにやることはひとつもないだろう。

 ところが無駄になったと思うこともひとつもないのだ。チームDeNAは、なにもそこまでフルコースで全部やらかさなくても、と思うような失敗の連続を、ひとつひとつ血や肉としてDeNAの強さに結びつけていった。とてもまっすぐで、一生懸命で、馬力と学習能力に富む素人集団だったのだ。私は仲間に恵まれた。

 私自身も驚くほど進化した。マッキンゼー時代は、自分のことを張り子の虎だと思っていた。むこうっ気は強いが実は気にしいで、繊細。それが随分強くなった。NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組で、私は苦しいときほど「前のめり」になる人、と決められ、全国に発表された。その表現が正しいのかどうかわからないが、私は、苦しいときにふたつのことを意識する。

 ひとつは、とんでもない苦境ほど、素晴らしい立ち直り方を魅せる格好のステージだと思って張り切ることにしている。そしてもうひとつは、必ず後から振り返って、あれがあってよかったね、と言える大きなプラスアルファの拾い物をしようと考える。うまくいかないということは、負けず嫌いの私には耐えがたく、単に乗り越えるだけでは気持ちが収まらない。おつりが欲しい、そういうことだ。

 3番目を付け加えるとすれば、命をとられるわけじゃないんだから、ということだろうか。たかがビジネス。おおらかにやってやれ、と。

 第6章までは、DeNAの創業から今日に至るまでの歴史を綴った。読者が一緒に「DeNA号」に乗ってジェットコースターのような展開をともに体験できるよう、事実をそのまま伝えることを重視した。また、メディアにもよく取り上げられるようになった最近のDeNAよりも、わが社の原点となった立ち上げ期のことをできるだけ詳細に記すようにした。自分の生い立ちなど、パーソナルな話も含まれる。

 第7章は、DeNAを経営するにあたり、大事にしてきた考え方をいくつか紹介している。取材や講演でよく尋ねられる質問をきっかけに好き勝手語った、という内容になっているが、経営者やビジネスマンだけでなく、学生の進路の選択やキャリアについての考え方に資するところがあれば幸甚だ。

 第8章では、DeNAの今日の様子と今後への思いを記した。

 本書は一字一句自分で綴ったものだ。最初はたくさんの社員の名前を次々と羅列してしまい、社外の人にはとても読みづらいものになってしまったので、登場人物の名前は減らすこととなった。

 本を書くことを躊躇していたひとつの理由は、お世話になった人、頑張った社員について、すべてを平等には書けないし、感謝の気持ちも到底十分には伝えられない、その失礼が耐えがたいということだった。私の見ていないところにもDeNAを発展させた多くのドラマがあり、本書に登場していない社員のひとりでも欠けてしまったら今のDeNAはない、ということを、どうしても言っておきたい。

 それにしても、マッキンゼーのコンサルタントとして経営者にアドバイスをしていた自分が、これほどすったもんだの苦労をするとは……。経営とは、こんなにも不格好なものなのか。だけどそのぶん、おもしろい。最高に。

※本書に登場する会社名や肩書は当時のままとした。

【目次】

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