その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は竹中啓貴さん、荒井匡史さんの『 「いつの間にか富裕層」の正体 普通に働き、豊かに暮らす、新しい富裕層 』です。

【はじめに】

 株式会社野村総合研究所(以下、NRI)は金融機関にコンサルティングサービスを提供していく中で、独自の調査を通じて、生活者の金融意識や行動、富裕層や投資家など特定の人たちの考え方や暮らしについて考察・情報発信してきました。

 これまで、高額な消費財や美術品、住居などを購入するのは、企業オーナーや地主などが中心でした。しかし、最近は従来と異なる特徴を持つ富裕層が現れており、次のようなケースが目立つようになってきています。

  • 百貨店の催事場で、ベビーカーを押した若い女性が一人でふらっと1億円の絵画を購入していく(百貨店マーケティング担当者へのインタビュー)
  • 高級時計店で、20代のカップルが来店したその日のうちに限定モデルの時計を2本まとめて数百万円で購入する(高級時計販売店担当者へのインタビュー)
  • 30代前後の会社員が都内の不動産に投資し、数年で数千万円の利益を得て、物件管理のための不動産管理会社の設立を準備している(積極的に不動産投資している給与所得者へのインタビュー)

 近年はこのような高額消費の場において、若年層や一般の給与所得者の姿が目立つようになっています。

 金融・不動産の分野でも変化が見られます。投資の拡大やデジタル化の進展により資産形成の手段が広がり、企業経営や先祖から引き継いだ土地活用以外の方法でも資産を蓄積することがやりやすくなっています。

  • 退職間近で、ふと確定拠出年金を見たら数千万円貯まっていた(会社員へのインタビュー)
  • 仕事の傍ら不動産投資をしており、不動産収益が本業と同じぐらいになったため、会社を退職した(元会社員へのインタビュー)
  • 会社員がネット証券を活用して暗号資産や外国株式を購入し、保有資産が1億円を突破した(会社員へのインタビュー)

 このような方は、富裕層に近い資産額を保有していますが、消費行動は一般生活者に近い特徴があります。従来の富裕層以外にも高額な資産や収入を得る人が登場しており、彼ら特有の消費に対する価値観をもって行動しています。

 NRIでは、2005年から富裕層に関する調査を継続してきました。これまでの調査や、富裕層を顧客に持つ金融機関、不動産や百貨店などの事業者とのディスカッション、実際の富裕層の方へのインタビューを通じて、最近の富裕層には「普通に働いて豊かになった」人が増加してきているということが明らかになっています。彼らは普段、一般的なサラリーマンと同じような生活をしており、従来の富裕層の生活イメージとは異なります。近年は富裕層世帯が大幅に増加していますが、その一因として、新たに登場した「普通」の富裕層の増加があると考えられます。

 本書の内容は、富裕層の価値観や行動を知りたい、富裕層に近づくための手がかりが欲しい、という読者にとって参考になると考えています。現在積極的に資産を積み立てて豊かな暮らしを目指している方にとっては、企業オーナーや地主のような従来の富裕層の生活や資産運用よりも、近年登場している「普通に働いて豊かになった」富裕層の資産形成のやり方や生活、実態について知ることで、これからの生活や資産運用・管理についてのヒントが見つかるかもしれません。また、富裕層を顧客に持つ金融機関や事業者においても、従来の富裕層に加えて新たな顧客を開拓する際には、その生活や消費性向、ニーズを把握することが、商品やサービスの検討に役に立つでしょう。

 本書では、多様化しつつある富裕層を実際のインタビューや統計データを基に分析し、富裕層を分類して特徴を掘り下げていきます。

 第1章では、富裕層が増加している事実とその理由について述べます。海外の富裕層との比較や、ストックリッチやフローリッチといった富裕層の基本的な分類を通じて、日本の富裕層が増加している現状とその理由について紹介します。

 第2章では、従来の富裕層の中心であった企業オーナーや地主について、その価値観や行動を振り返ってみます。そして、その価値観や行動とは異なる新しい富裕層の特徴について考察します。

 第3章から第7章までは、その新しい富裕層の中でも、注目すべき特徴的な3つのタイプについて分析します。第3章と第4章では気が付いたら富裕層になっていた「いつの間にか富裕層」の実態と、彼らを支える金融機関の取り組みを紹介します。第5章と第6章では潤沢なキャッシュフローを有する共働き高所得世帯「スーパーパワーファミリー」の姿について迫り、彼らの高額消費にアプローチする事業者の取り組みを整理します。そして第7章ではマンション価格の高騰などで注目されている「サラリーマン不動産投資家」を取り上げます。インタビュー結果や定量データ等の紹介を通じて、彼らの価値観や行動特性を明らかにしていきます。

 第8章では、これまで考察してきた富裕層の特徴を踏まえ、今後、富裕層ビジネスを推進していくためのキーポイントを整理します。富裕層予備軍へのアプローチや高いデジタル親和性への対応について検討します。

 なお、本書では実際の富裕層や事業者にインタビューを行っていますが、特定を避けるため、文脈に影響しない範囲で一部個人の属性や企業名・サービス名の固有名詞等を変更して掲載しています。この点についてはご了承いただければ幸いです。

【目次】

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