その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は小堺友美(著)、山口創(監修)の『 親子が一生モノの「安心」でつながる タッチケアの魔法 』です。「監修者はじめに」とともにお届けします。
【監修者はじめに】
本書『タッチケアの魔法』は、子育てに悩むすべての親にとって、大きな希望と安心を与えてくれる素敵な一冊です。
私は、長年の心理学の研究を通して「人は他者とのつながりの中で生きる存在である」と確信しています。そしてその根底にあるのが「触れる」という行為です。本書は2900組以上の親子にタッチを伝授してきた著者が、その効果について余すところなく語り尽くした貴重な一冊と言えるでしょう。
まず注目すべきは、プロローグでタッチケアの効果を科学的な根拠をしっかりともちつつも、とてもやさしい言葉で説明し語りかけている点です。
触れ合いによってストレスが減り、情緒が安定し、免疫力が高まるといった知見は、愛着理論や神経科学の知見から得られたものです。特に触れ合いによって「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンの分泌が増えることは、多くの実証研究で示されており、子どもだけでなく親自身の安心感や幸福感を高める力をもっています。
本書はこうした科学的根拠をわかりやすい言葉で紹介しつつ、すぐに実践できるタッチの方法を丁寧に解説しています。「100回のほめ言葉より、1回のやさしいハグ」というプロローグにある一文に、まさに本書のエッセンスが凝縮されています。
第1章では、単にタッチケアの「やり方」の解説ではなく、親としての心構えに着目しています。
「しっかりした親でなくても、自然体でいい」「子どものわがままは信頼の証」といったメッセージは、子育てにおいて肩に力が入りすぎている親にとって救いになるでしょう。こうしたメッセージはタッチにも通じます。タッチの技術の習得に偏ってしまう傾向がある昨今の他書と異なり、こうしたメッセージは現代の子育てをする親にとっては知っておかなくてはいけない大切なものなのです。
触れるという行為は、技術ではなく、相手を尊重し、許可を得て、心を込めて行う営みです。そのことに改めて気づかせてくれるのです。
第2章の「1日3分のタッチケアの魔法」では、日常の中でできる具体的な実践法が紹介されています。
「7つの魔法タッチ」「ありがとうタッチ」など、ネーミングも親しみやすく、親にとっても受け入れやすい工夫がなされています。これらは親子の特別な時間をつくるだけでなく、親自身が子どもからエネルギーをもらい、心が整うきっかけにもなるでしょう。
さらに第3章では、親が自分自身にもやさしいタッチを向けることの重要性が説かれています。
子どもを大切にするためには、まず自分を大切にしましょう、というメッセージは、育児に疲れ、時に自信を失いがちな親にとって大きな励ましとなるはずです。「みんな不完全でいい」という言葉は、多くの親の肩の荷を下ろすための大切なメッセージです。
本書を読むことで、タッチを学ぶことは、単なる触れる技術といった表面的なものではなく、子育てで大切な子どもへの心構えを涵養(かんよう)することであることに気づかされます。
愛された肌の記憶は、一生のお守りになる。愛した肌の記憶は、一生の宝物になる――この美しい結びの言葉は、読者の心に深く響くに違いありません。
順調に子育てをしている方、子育てに苦労している方、これから子育てをする方、子どもに関わる全ての人たちに、タッチの力を再発見させてくれる一冊として、私は本書を心から推薦いたします。
桜美林大学リベラルアーツ学群 教授
臨床発達心理士 博士(人間科学)
山口 創
【はじめに】
タッチケアで子育ての悩みが驚くほど減る
私たち親は、子どもの幸せを願い、一所懸命に子育てをしています。
「いい親にならなくては」「ちゃんとした子に育てなくては」と、責任感とプレッシャーを感じながら、毎日ほんとうに頑張っています。
でも、親として精一杯やっていても、なぜかうまくいかなかったり、常に次のような悩みや不安があったりしませんか。
- よく癇癪(かんしゃく)を起こしたり、感情の起伏が激しくて、どう関わればよいのかわからない
- 新学期など環境が変わると、いつもより甘えたりぐずったり、対応に困ってしまう
- イライラして声をあらげてしまい、あとから自己嫌悪
- 子どもと心の距離がどこか遠い気がする。愛情が伝わっている実感がない
- 日々の忙しさで、子どもと一緒に過ごす時間が短いことに、罪悪感を抱えている
- SNSの情報を見ると、「みんなはちゃんとしているのに」と自信がなくなる
- 今の関わり方でよいのかわからない。子育ての正解があるなら知りたい
親というのは、様々な感情を抱えながら、それぞれの時期の子どもと日々を過ごしています。時には本気で「もういやだ」と子育てを投げ出したい気持ちになったり、時には子どものことを考えるだけで切なくて愛おしくて涙があふれてきたり。
今は共働き世帯も多いので、育児だけでなく仕事にも追われ、とにかく忙しく、悩みを抱えながらも、なんとか毎日をまわしている方も多いのではないかと思います。
かつての私も、必死に子育てをしていました。片道2時間弱の通勤。時短勤務にしても、子どもを約11時間保育園に預け、家族全員で毎日を走り抜けている日々。
自分のせいで子どもに大変な思いをさせているような罪悪感と、子どもとの時間が少なすぎることや心の余裕がないことに対して、こんな子育てで大丈夫だろうかという不安感。「育児も仕事もちゃんとしなくちゃ」「いい親にならなくちゃ」「将来困らない子にしっかりと育てなくちゃ」と悩みのつきない時期がありました。
でも、そんなときに、私は偶然にも「タッチケア」に出合い、状況が一変しました。驚くほど子育ての悩みが減り、子どもとの関係も自然とよりよくなり、「自分の子育てはこれで大丈夫」と思えるようになったのです。
タッチケアとは、「肌にふれること」で心と体をリラックスさせ、安心感や癒しを与えられるケア方法です。「手をそっと置く」「やさしくなでる」「抱きしめる」「マッサージする」など、特別な道具を使わず、日常の中で気軽に行えます。
「毎日継続しなければ効果がない」「オイルや道具が必要」といった特別なものではなく、様々な国の生活習慣の中で大切にされてきた、対象年齢を問わないシンプルでやさしい方法です。
私は、長男の小学校入学を目前に、16年働いていた大手飲料メーカーを辞めました。
そして、子どもに関わるお仕事ができるベビーマッサージの講師になることを決めました。それから、初めてベビーマッサージを含めたタッチケアについて深く学び、実際に自分の子育てにも活かすようになりました。
働きながら資格取得の勉強をしていたため、怒涛(どとう)の日々だったのですが、日常の中で子どもに「ふれる」ことを意識し、ふれあう機会を増やすことからはじめました。
特に変えたことは、寝る前に、当時6歳の長男と3歳の長女へタッチケアをするようにしたことです。18時過ぎに保育園から帰宅後、「夕飯の準備」「食事」「片付け」「お風呂」「明日の準備」「歯磨き」というバタバタの慌ただしさは全く変わっていませんでしたが、ようやくほっとできる「寝る前10分の過ごし方」を変えてみたのです。
ひとりずつ、目をしっかりと見て、話しかけて、脚や背中など子どもの希望にあわせてやさしくマッサージしました。すると、自然な流れで保育園でのことなどもお話しでき、とてもおだやかな時間が流れました。
そして、長男は、なんとも言えない嬉しそうな表情で「おかあさん、きもちいい」と言ってくれました。
その表情と言葉から、私自身も、不思議と心がほどけるようなあたたかい気持ちになりました。
大きくなってきて、「もっとしっかりさせなくちゃ」と思っていた長男も、まだまだやわらかくて小さな体であることにも気づき、「6歳のこの子なりに毎日頑張っているんだなぁ」と感じました。
「ふれることで、子どもの気持ちがよくわかる感じがする」
「子どもとちゃんと心がつながれる」
「そのままの子どもが愛おしく感じられる」
忙しさの中で忘れていた「今ここにある幸せ」に気づけたような気持ちがして、なんだかじーんとしたのを今でも覚えています。
そして、自分が子どもから愛を受けとっていることも強く感じた瞬間でした。
マッサージをしているとき、私と子どもたちの間には「今」という時間しかなく、ただお互いの存在を感じ合え、「心からの安心」を実感できたのです。
意識してタッチを増やしたことは、はっきりと効果としてもあらわれました。
マッサージをはじめてからちょうど1カ月経ったとき、長男の保育園の先生から「お母さん、この1カ月、Jくんへの接し方を変えたり、何か新しいことをしていますか?」と聞かれたのです。そして、「この1カ月、Jくんの気持ちがとても安定しているんです」と。また、私自身も、子育てでの漠然とした不安がなくなっていました。
子どもたちが落ち着いておだやかに過ごし、タッチケアを通して心が通い合っていると実感できたからです。常に心の奥底にあった子どもたちへの罪悪感も消え、仕事に向かう気持ちも明らかに前向きになっていました。
短い時間でも、1対1で向き合えるタッチケアの時間が、どれほど親子の心のつながりを深め、お互いの心の安定を生み出してくれるのかを実感した出来事でした。
その後、私はタッチケアをさらに深く学び、2900組以上の親子にタッチケアをお伝えし、約280名の講師も育成してきました。
その中で、タッチケアにより、子どもの心が自然と安定し、その結果子どもがのびやかに過ごせ、親子関係もよくなり、すべてがよい循環に変わっていくことを心から感じました。そしてそれは、今の子育ての悩みや不安から抜け出すことにもなる、ということもわかりました。
子どもが求めているのは「安心できる親」
タッチケアは、「子育てで本質的に大切なこと」にも気づかせてくれました。
無意識的に頑張ってきていた「ちゃんとした親」「いい親」になろうとするよりも、「しつけ」や「教育」に一所懸命になろうとするよりも、まず大事なこと。
それは、子どもにとって「ありのままの自分でいられる心の居場所」になること。
つまり、「安心できる親」になることが、子育てで何より大事ということです。
子どもたちは、いつでも「安心」を求めています。
家に戻ったら心がゆるみ、いちばんに自分らしくいられて、本音で話せ、どんな自分でも受け止めてくれること。外の世界でつらいことがあったときにも、感情がぐちゃぐちゃになったときも、ただ「そうなんだね」と聞いてくれること。
自分のことを誰よりも理解しようとしてくれ、愛され大切に思ってくれていることを実感したい、というのが子どものいちばんの願いです。
子育てでの「安心」の重要性は、様々な側面からも言われています。
有名なイギリスの精神科医ジョン・ボウルビィが提唱した愛着理論では、子どもが育つために最も大切なのは、特定の養育者との「安心できる関係」であるとされています。この安心できる関係(=安全基地)が、情緒の安定や自己肯定感、他者との関係づくりの土台になるとされています。そして安心できる関係が築かれると、子どもは探究意欲をもち、外の世界に自信をもって関わるようになると言われています。
また、近年、子育てにおいて「非認知能力(自己肯定感、やり抜く力、自制心、協調性、共感力など)」を育てることの重要性が、ますます注目されています。
これらの力を育むうえで欠かせないのが、子どもの心の土台、「自分はここにいていい」「自分は大切にされている」という安心感だと言われています。
安心感がしっかりと心に根づいていると、子どもは自然と「やってみたい」「挑戦したい」という前向きな気持ちをもつこともできるようになります。発達心理学や教育学の分野でも、「学び」や「挑戦」は安心できる関係と情緒の安定のうえに築かれるとされています。
つまり、私たち親は、「ちゃんとした親」になろうと頑張らなくても、まず何より「安心できる親」でいられれば、子育ての悩みは減り、「その子らしい人生の幸せ」につながっていくのです。
触覚は、安心を与えられる「人生でいちばん長く付き合う」感覚
ところで、触覚は五感の中で最も早く発達し、受胎後8週目には存在する感覚と言われています。なぜなら、触覚は刺激を察知して身を守ったり、外の世界や自分の体を知ったりするために不可欠な、基本的な感覚だからです。つまり、生きる上で必須の感覚。だから、発達の順番として最優先されるのです。
また皮膚は、「体の保護」「体温の調節」「水分の保持」「免疫機能」「刺激を感じとる」といった役割だけではなく、愛情や安心感などの感情も受けとることができる、心と体をつなぐ大切な器官です。
特に、ゆっくりとやさしく皮膚にふれる刺激は、感情をつかさどる脳の部位に信号が届くので、愛情や安心感を伝える方法として、生理学的・神経学的にも有効であることがわかっています。
さらに、触覚は、歳をとっても最後まで残る感覚でもあります。
じつは人生でいちばんに長く私たちに与えてもらえている感覚なのです。
だからこそ、タッチケアは安心感を育むための、確かな方法なのです。
みなさんの中には、すでに家庭を安心の場にすることの大切さは十分に認識しているという方も多いかもしれません。でも、毎日の忙しさで、「わかってはいても丁寧な関わりをしていくことがなかなか難しい」という方も多いのではないでしょうか。
また、子どもが大きくなってきて、関わり方に難しさを感じている方もいるのではないでしょうか。どうしても口うるさく叱ってしまったり、コントロールしたり、条件つきで褒めてしまったり……そんな経験から、思い悩むこともあると思います。
そんなときでも、子どもにとって、親がいつでも「安心できる親=ありのままの自分でいられる心の居場所」になれるのがタッチケアなのです。
あたたかい手を置くだけでも、抱きしめるだけでもいいのです。
最も基本的なコミュニケーションであるタッチは、子どもの心にまでふれることができ、言葉以上に愛を伝え、安心感や癒しを与えることができます。「あなたのことを大切に思っている」ということを手のぬくもりから、まっすぐに伝えることができます。
ふれるということは、親子双方の心を特別に満たせるとても素敵な方法です。
私はこれまで、赤ちゃんから思春期のお子さんのいらっしゃる親御さんたちにタッチケアの大切さをお伝えしてきました。そして、タッチケアを日常にとり入れてくださった親御さんから、嬉しいお声も数多くいただいてきました。
- 子どもの気持ちが安定しました
- 反抗的だった娘が素直に甘えてくれるようになりました
- 兄弟にやさしくなりました
- 癇癪を起こす回数が減りました
- 寝つきも目覚めもよくなりました
- 便秘が改善しました
- 泣かずに登園・登校できるようになりました
- 思春期の息子が、前より話してくれるようになりました
- ありのままのわが子が愛おしいと思えるようになりました
- 自分の子育てはこれがあるから大丈夫と思えるようになって救われました
私自身の子育でも、入園・入学、クラス替え、引越しなど環境が変わり子どもにストレスがかかりやすい時期には、タッチが親子のピンチを救ってくれました。また、タッチが自然と日常にあるので、今でも高校生の長男とは学校に行くときにハイタッチをしています(夫も同様に、息子と毎朝ハイタッチをしています)。中学生の長女とはハグをしたりとふれあうことが多く、子どもたちとずっとつながりを感じながら、心地よい親子関係でいられています。
もちろん今も、思春期の子どもの子育てで悩むこともあります。
でも、正解のない子育てにおいて、自分の育児を不安に感じることは減り、この人生で子どもたちとともに生きられて幸せだと心から思えています。
タッチケアで一生の親子関係がもっとよくなる
最近よく、子育ての文脈で、「ありのままの子どもを受け入れましょう」という言葉を聞きます。
でもそれはなんでも許し受け入れることや甘やかすことではなく、色々な感情をもったその子の存在そのものを理解しようと努め、違いを受け止め、自分とは別の人として尊重して接する、ということではないかと思います。
つまり、「どんなあなたも大事な存在だよ」と無条件の愛情を伝えることです。
質の高いタッチの時間は、まさに、子どもの存在そのものに心を寄せ、受容し、無条件の愛情を伝えられる時間です。
さらに、親自身も子どもから「存在そのもの」を受容してもらえていることを感じられる時間でもあります。
たとえ、感情的に怒ってしまい反省することがあっても、本心である「本当は子どもたちを愛したいお母さんお父さん」を、子どもはちゃんと受け止めて、無条件に愛してくれていることを感じさせてもらえます。
子どもは、親も「かけがえのない、ひとりの人」であることを教えてくれます。
タッチケアはいつからでもはじめられる
ただ、中には、「今さらうちの子はスキンシップをさせてくれない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。あるいは、今は子どもにふれるのが苦手と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
でも、いつからでも遅くなく、少しの工夫や考え方を変えるだけで、小さなことからできるのもタッチケアなのです。マッサージのようにしっかりとふれるものでなくても、日常で簡単にとり入れられることもたくさんあります。
ふれることは、手でふれるだけでもなく、目や声や心でふれることからはじめることもできます(第2章で詳しくお伝えします)。
日本では、生きづらさを抱えている子どもたちが増えています。
また、子どもとの関係に悩む親御さんも多いのが現状です。共働き世帯が増え、親子でふれあい心を通わせる時間がどうしても少なくなってしまい、親子ともに何らかのストレスを抱えていることが原因の1つとも考えられます。
だからこそ、本書を通して、シンプルな「ふれあい」を今あらためて大切にし、心のつながりや安心をお互いに感じながら、いっしょに生きられることの喜びをたくさん感じていただけたらと思います。
本書が「べき・ねば」の子育てではなく、ほどよく力を抜いて、心地よく自分らしい子育てができるきっかけになれば嬉しいです。
タッチケアはいつでもみなさんの子育てと子どもの人生の味方になります。
多くの子どもたちが、親(大切な人)からもらった愛の「お守り」を大事に、自分がこの世で歓迎されていることを実感しながら、安心して自分の人生を自分らしく歩んでいけることを、心から願っています。
小堺友美
【目次】
(イラスト:佐々木奈菜)














