その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は河合薫さんの『 働かないニッポン 』。プロローグの一部を抜粋してご紹介します。
【プロローグ】(一部抜粋)
「働き損」の国
この本のタイトルは『働かないニッポン』。手にとってくださった人の中には、「そんなわけないだろう」と口を尖らせたり、「街を歩いてみろ! みんな必死に働いてるぞ」と頰を膨らませたり、「世界に誇る長時間労働国だぞ! ん?」と自慢していいものかどうかと迷いつつも不機嫌になったりする人もいるかもしれません。
はい、おっしゃるとおりです。日本人はよく働きます。高度成長期には海外から「働きバチ」と揶揄(やゆ)されるほど働き、バブル期には「24時間働けますか」を合言葉に、ジャパニーズビジネスマンは勇気のしるしをアタッシュケースに詰め世界を飛び回りました。
日本経済が低迷してからも日本人の勤勉さは注目され続け、2016年にニューヨーク・タイムズに掲載された「Napping in Public? In Japan, That’s a Sign of Diligence.(公衆の面前で昼寝? 日本では、それは勤勉の証しである)」という微妙なタイトルの論考で使われた「inemuri(いねむり)」は、会社や上司に尽くす日本人の真面目な働きぶりの象徴として知られるようになりました。
しかし、その勤勉な日本人の国で「なんで?」的な出来事が相次いで起きています。
大阪・関西万博の建設は遅れに遅れ、計画どおり開催できるかが危ぶまれ、政府肝煎りで発足したデジタル庁でマイナンバートラブルが続発し、個人情報保護委員会の立ち入り検査が入る事態に発展しました。
10年前、2013年の国連総会で時の総理大臣が“Society Where Women Shine”(女性が輝く社会)と連呼していたのに2023年秋の副大臣・政務官の人事を伝えるニュースでは「初の女性起用ゼロ」という見出しのオールおじさんニコニコ写真が出回り、2023年の年初めに経営者たちはこぞって「今年は賃上げの年だぞ!」と意気揚々と話していたのに、1年経っても庶民の懐はちっとも温かくなりません。
日野自動車では不正が次々と明らかになり、ほとんど売れる車がなくなるという前代未聞の事態に陥り、これまた前代未聞の不祥事を起こした日本大学は、3年連続で私学助成金の交付を見送られました。
なぜ働き者の国であるはずの日本で、このような事態が起きるのか。
これらはすべて、権力を持つ社会階層最上階のスーパー昭和おじさん・おばさんの怠慢です。はい、ただの怠慢です。
世間では役職定年でやる気が失せた現場の「昭和おじさん」(別名・働かないおじさん)ばかりに注目が集まりがちですが、はるかに問題なのは、大きな組織の最上階の椅子をゲットした「スーパー昭和おじさん・おばさん」です。
彼らは自分の生き方や考え方に絶対的な自信を持っていることに加え、“肩書き”の力で企業やら政府やら大学やらの枠を超えて関わりが深いので、お互いの利益だけに目が眩(くら)み、大局を見ることをおろそかにしがちです。
階層最上階のスーパー昭和おじさん・おばさんがやるべきことをやらず、変えるべきところを変えず、花火だけを打ち上げ続けた末路が、現在の「働かないニッポン」なのです。
【目次】




