その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は飯野謙次さんの『 失敗マップのすすめ 2つの質問に答えるだけで「ミスしない・させない」を仕組み化できる新ツール! 』です。

【はじめに】

 本書は、読者のみなさんの日常的な失敗への対策を目的としています。具体的には、「たった2つの質問に答えるだけ」でミスが減り、次の失敗の予防もできる「失敗マップ」を紹介していきます。

 失敗を経験し、思ったような結果を得られなかったと感じることは誰しもあるでしょう。「もう立ち直れない」と思うほど落ち込んだことがある方も、中にはいらっしゃるかもしれません。あるいは今がその時かもしれません。

 もちろん、失敗したら落ち込むのは当然の反応です。しかし、失敗した後も人生は続きます。だから、同じ失敗を繰り返さないように立ち直り、対策することが大切です。

 私は、事故や不祥事(ふしょうじ)が二度と繰り返されないように、『失敗学のすすめ』(講談社、2005年)などの著者である畑村洋太郎先生と共に、2002年に「失敗学会」という組織を立ち上げました。

 この学会は主に工学を専門とする研究者を中心に組織されました。そして、世の事故を分析し、原因を突き止め、同じ事故が繰り返されぬよう情報発信をしてきました。なぜ工学の研究者が失敗について考え始めたかというと、工学の現場ではほんのわずかなミスが命に関わることがあるからです。
 ビスが予定通り固定されなければ予期せぬ形で機械が壊れるかもしれません。半導体に数ナノメートルでもズレがあれば不具合が起きる可能性があります。少し温度管理を間違えると、有害物質が生成されることもあります。

 しかも工学の現場では、このようなミスは起こった時点で取り返しがつかないことがほとんどです。よって、起こる前に絶対に防がなければならず、同じ失敗を繰り返すなんてもってのほか。失敗について考えることは必然だったといえます。

「同じ失敗」があちこちで起こってしまう理由

 このように失敗学は、元々は工学から始まりましたが、その有用性から医療、金融、教育、食品、サービスなどあらゆる分野に広がりを見せています。
 実際、産業界の事故は減っています。自動車事故による死者数は、1990年には年間1万人を超えていたのが、2022年は3000人以下でした。労働災害の変遷を同じ期間で比べると、1990年は労働災害による死者数が2550人だったのに対し、2022年は774人でした。
 これらの数字の変化のすべてが失敗学の功績とはいいませんが、多少の影響を及ぼしていることは間違いないでしょう。

 先ほども述べたように、失敗学会では情報発信を行ってきました。その最たるものである「失敗知識データベース」は、産業界が学ぶべき事故を1000件以上集めて、オンラインで公開しています。このデータベースを各自が活用して失敗を防いでほしいと思っていたのです。

 ところが、情報発信をして気付いたのは、その情報を本当に必要なタイミングで見にくる人の少なさでした。これからことを始める人は、いざ自分がつまずくまでは、他人の失敗の原因や経過には、まったく思いが至っていません。そのため、失敗知識データベースを読もうともしません。先人の失敗の原因、行動、結果であらかじめ失敗を学習せよというのには無理があるのです。ことを始める人には「何をしようとしているか」という意図があるのみだからです。

 事故は相変わらず起こっているし、身近な失敗もなくなりません。何か人に伝えるもっといいやり方があるのではないだろうかと、考えるようになりました。そしてはたと気が付いたのが、失敗知識データベースはインターネット(以下、ネット)から情報を発信しっぱなしであるということでした。
 つまり、子どもに参考書を買い与えて「それで勉強しなさい」と突き放しているのと変わらないなと思い、平時から人々が熱心に読んでくれそうもないと気が付いたのです。

実生活で楽に使える簡単ツール「失敗マップ」

 そこで考えたのが、日常の生活や職場でも無理なく実践できる簡単なツールの開発であり、失敗マップです。失敗マップとは、失敗を4つのタイプ(本書では「エリア」と呼びます)に分類し、エリアごとに効果的なリカバー方法を考え、再発防止策を考える思考の地図のことです。
 この1冊を通して、この失敗マップの使い方――どのように失敗を捉え、効果的な対策を立てるのか、そして失敗を未然に防ぐための実践的な第一歩――を解説していきます。

 もう1つ、失敗マップの効用の範囲は、個人の失敗だけではありません。
 実は、自分自身の失敗以上に対策が難しいのが、「周囲の人の失敗」「組織の失敗」です。本書を手に取ってくださっている方々は、おそらく、ご自身も仕事で努力していて、失敗を防ごうという意識も高いでしょう。そうした方々は、この失敗マップを使わなくても、経験を積むごとに仕事の精度も上がり、実力も磨かれていくはずです。工学分野を扱っていなければ、たった一度の失敗が致命傷ということはあまり多くありませんから、失敗もまた成長の一環、と捉えることもできるかもしれません。

(イラスト:めんたまんた)
(イラスト:めんたまんた)

 しかし、そうした方々の「周囲の方々」も同じとは限りません。中には、明らかに失敗しそうなことに備えもせずに飛び込んでいく人、同じ失敗を何度も繰り返す人もいます。そうした人のフォローや指導に頭を悩ませている方もいるのではないでしょうか。実はこのような場面でこそ、失敗マップが役に立ちます。
 失敗マップを活用することで、個人の失敗の防止だけでなく、あなたの周囲の人が起こしてしまう失敗や組織の中で起こる失敗も減らし、周囲との協力を生み出すことができるのです。

 そして何より、失敗を避けるだけでなく、それを通じて学びを深め、成長を促進させるきっかけとすることができます。その方法も、本書ではしっかり説明していきたいと思います。

 失敗は避けがたいものです。けれども、それをどのように受け止め、次につなげるかによって、私たちの未来は変わります。何か事件があったら、「失敗マップのどこに当てはまるだろう」と考えていただければ、みなさんも効果的な失敗対策への第一歩を踏み出しているのです。

 実際に活用してみることで、失敗を一歩ずつ成功に導くプロセスを体験していただければ幸いです。読後には、きっと失敗に対する見方が変わり、失敗と賢く向き合い、それを生かす力が身についているのではないでしょうか。

 それでは、失敗マップを広げていきましょう!

飯野 謙次

【目次】

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