JR中央線・西荻窪駅北口すぐの「今野書店」は、1968年に創業、今年で57年目を迎える。「西荻」唯一の新刊書店としてオールジャンルの本を扱いながらも、独自のセンスで選ばれた本が並び、各種のフェア、イベントも活発に行っている。地元在住の作家が訪れることも多く、本好きの間ではよく知られている本屋さんである。同店店長の今野英治さんと、人文書・文芸担当の水越麻由子さんにお話を伺った。
本好きの方々のために品ぞろえ
今野書店は西荻窪で唯一残った、地元密着型の新刊書店であるとともに、独自の品ぞろえで、本好きの間では有名です。近況はいかがですか?
店長の今野英治さん(以下、今野) 2013年にこのビルの地下物件が空いて、オーナーから、借りてもらえないかと打診があり、「コミック店」を出すことを決めました。正直、冒険かなとも思いましたが、当初はうまくいき、2020年からのコロナ禍では巣ごもり需要で売り上げが急伸しました。でも、コロナ禍が明けると反動で大きく落ち込みました。
スタッフと相談し、コミック店は閉じ、主にイベントを行うスタジオとして活用することにしました。改装費用はコミックを返品した代金で賄えましたし、格安の家賃でしたので、イベントの登壇者に出演料を支払っても黒字にすることができました。
ところが、ビルのオーナーが変わってしまい、契約更新後はそれまでの3倍以上の家賃を提示され、交渉の余地も少なそうだったので、2025年3月で地下は解約しました。現在は駅南側の「西荻のことビル」のスペースを借りて、イベントを行っています。回数は少し減るかもしれませんが、いいイベントは引き続きやっていきたいと思います。
スタッフの人員はどうなっていますか?
今野 正社員5人、契約社員1人、アルバイト2~3人です。コミック店を出した時に正社員を2人増やす代わりに、アルバイトを減らしました。60坪の書店に正社員が5人というのは、チェーン書店では考えられないほど充実した人員体制だと思います。今の時期、私は教科書販売の仕事に追われ、店に顔を出すことは少なくて、基本スタッフに任せています。
今野書店は、どんな書店を目指していますか?
今野 「街の書店」と「セレクト型の書店」の線引きは難しいです。うちは「街の書店」ですが、少し「セレクト型」に寄っているかもしれません。どこの街にも、本好きの方がいるはず。うちはそんな本好きのお客様のために品ぞろえをしています。お客様が喜びそうな本を少しでも置いておけば、「この本屋、面白そうだな」と、ファンになってもらえます。お客様を信じ、そんな本屋を目指したいと思っています。
この先、紙の雑誌やコミックの売り上げはどうしたって減っていきますから、本をもっと売っていきたい。文芸書、人文書だけでなく、児童書、新書、ビジネス書も大切。月に3万円ぐらい本を買うようなお客様は、単価の高いノンフィクションをたくさん購入されます。また、新書はしっかりした専門的な内容のものが多く、さまざまなジャンルの本を読んでもらう入り口になるので、力を入れています。
街の書店でもビジネス書をきちんと置けば、本好きのお客様が定着します。特に自己啓発的なビジネス書は、人文書への入り口になります。一方で、ネットで代替できてしまうノウハウ本はなかなか厳しいですね。
今野さんが代表取締役を務める「有限会社NET21」の事業について教えてください。
今野 NET21は、中小の書店が共同で仕入れを行うとともに、加盟店の売り上げデータの情報共有を行っているボランタリーチェーンです。共同で仕入れをすることによって、欲しい本が入ってこないなどの書店の悩みにかなり応えられると思います。いくつかの出版社には売り上げデータを購入していただいて、その出版社の本は積極的に扱っていきたいと思っています。もっともフランチャイズチェーンではないので、各店に強制はしませんが。
キャッシュレス手数料への支援を
経済産業省は書店支援プロジェクトを始めています。国に対して要望はありますか?
今野 実は当店も要望書を提出しました。1つはキャッシュレス手数料への支援です。少し前まで当店のキャッシュレス比率は10%~20%、去年は35%ぐらいでしたが、今年はもう50%近くまで上がっています。キャッシュレスの手数料は平均すると3%ぐらいで、年々上昇しています。書店の利益率はコロナ禍前で1%出るかどうかなので、キャッシュレスが増えていけば赤字必至です。そこで、キャッシュレス手数料の全額でなくても、一部を支援していただけないかという提案をしました。
また、人件費もどんどん上がっています。結局、人を減らすか、正社員をアルバイトにして人件費の総額を減らすしかなくなります。当店のように正社員をきちんと雇い、社会保険料を支払っている店には支援をしてほしいと思います。
地元の本が売れる
ここで、文芸書・人文書担当の水越麻由子さんに、お店の売れ筋などを聞きました。
どのような本が売れ筋ですか?
水越麻由子さん(以下、水越) うちのお客様は「西荻大好き」という方が多くて、地元作家の作品や西荻窪についての本がよく売れますね。今はイラストエッセーの『西荻さんぽ』(目黒雅也 絵と文/亜紀書房)、『西荻ごはん』(同)の2冊が断トツで売れています。23年6月刊の『西荻さんぽ』は約1300冊、続編の『西荻ごはん』は500冊近く売れました。「西荻窪と荻窪」を特集した雑誌『散歩の達人』のバックナンバー(23年8月号/交通新聞社)は書籍に比べて価格が安いこともあって、2000冊以上売れました。
西荻窪には作家さんが多く住んでいまして、当店は地元作家の方を大事にしています。歌人の木下龍也さんも西荻窪在住で、お店にもよくいらっしゃいます。木下さんの本を棚にそろえておくと必ず売れます。一時の短歌ブームは落ち着きましたが、1つのジャンルとして定番化しました。木下さんの本では『あなたのための短歌集』(ナナロク社)がすごく売れました。
2020年に『空芯手帳』(筑摩書房)で太宰治賞を受賞した八木詠美さんも、地元出身です。当店にご挨拶に来てくださったことがあり、それならばと本を平積みしたところ、よく売れました。2作目のこの『休館日の彼女たち』(筑摩書房)は、博物館が舞台の物語です。
伝説のバンド「たま」のメンバーだった、石川浩司さんのフェアをやっているんですね。
水越 石川さんが書かれた『地味町ひとり散歩』(双葉社)という本の発売を記念して、「今野書店×ニヒル牛とコラボフェア」と「石川浩司さんが選ぶ旅の本フェア」を開催中です。「ニヒル牛」というのは、石川さんのパートナーの方が西荻窪でやっている、シェア型書店の雑貨版のようなお店です。石川さんの本を当店で購入し、レシートを持っていくと、ニヒル牛でおまけがもらえるという企画です。
マンガやアニメ関連の本も目立ちます。
水越 近所にはアニメの制作会社が多いので、業界の方が来店されます。『宮﨑駿イメージボード全集 3 となりのトトロ』(宮﨑駿著/スタジオジブリ編/岩波書店)は6380円、『スタジオジブリの美術』(武重洋二監修/スタジオジブリ編/パイ インターナショナル)は1万3200円と高額本ですが、仕事の資料として購入されるようです。また、アニメ・特撮研究家の氷川竜介さんが執筆した『空想映像文化論』(KADOKAWA)も売れています。この3月に刊行イベントを行ったのですが、満席になりました。
こちらは人文書のコーナーですね。この『パレスチナ、イスラエル、そして日本のわたしたち <民族浄化>の原因はどこにあるのか』(早尾貴紀著/皓星社)という本をお薦めしていますが、どのような本ですか?
水越 かつては日本も、他国を植民地にしていた歴史があります。だから私たち日本人も、イスラエルによるパレスチナ占領を自分事として考えてみようと述べている本です。同じ早尾さんの『イスラエルについて知っておきたい30のこと』(平凡社)という本がよく売れたので、本書を多めに注文したところ、皓星社の営業の方が来店されたのがきっかけで、刊行記念イベントを行うことになりました。
水越さんが個人的にお薦めしたい本はありますか?
水越 私が個人的に好きな作家は小野和子さんです。今、店に置いている本は『忘れられない日本人 民話を語る人たち』(PUMPQUAKES)。小野さんはアポなしで村の家一軒一軒を訪ね、かけがえのない話を収集されている民話採訪者です。
小説では、まだ読んでいる最中なのですが、『チャーチ・レディの秘密の生活』(ディーシャ・フィルヨー著/押野素子訳/勁草書房)が面白い。アフリカ系アメリカ人女性が大人になっていく課程を描いた短編小説です。母親との関係などなんともいえない濃密な描写が印象に残ります。人文書主体の勁草書房が珍しく刊行した海外文学で、営業の方に教えてもらいました。
最後に、お店を訪れたついでに立ち寄るといい、お薦めのスポットはありますか?
水越 店前の通りを少し行ったところにある「FALL(フォール)」という雑貨店をお薦めします。お店も素晴らしいのですが、店主の三品輝起さんは本を書いています。『すべての雑貨』(ちくま文庫)という本では、人文書なども引用しながら、「そもそも雑貨とは何だろうか」という論を展開するなど、とても博学で面白い方です。
取材・文/桜井保幸 写真/木村輝
参考サイト 今野書店【フォトギャラリー】




















