株式や投資信託(投信)などの金融商品で得た利益にかかる税金がタダになるNISA(少額投資非課税制度)。個人投資家がぜひ活用したいこのNISAが、2024年から大幅に改正されます。制度はどう変わるのか? 活用する際のポイントや注意点は? 金融庁金融審議会「顧客本位タスクフォース」委員でNISAに詳しく、投資関連のイベントやメディアへの寄稿で活躍するファイナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子さんが解説します。

現制度や改正予定だった新NISAとの違い

 2024年からNISAが新たな制度として生まれ変わることになりました。

 おさらいをすると、通常、課税口座で株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して約20%の税金がかかります。それに対して、NISAは、NISA口座(非課税口座)内で、毎年一定金額の範囲内で株式や投信などを購入すると、受け取る配当金や普通分配金、売却したときの利益などが非課税になる、つまり、税金がかからない制度です。

 2023年1月現在、日本には3つのNISAがあります。日本に住む、18歳以上の成人が利用できるのがつみたてNISA(積み立て型の少額投資非課税制度)と一般NISA。そして、18歳未満の未成年者が利用できるのがジュニアNISA(未成年者少額投資非課税制度)です。

 この3つのNISA口座で新規投資ができるのは2023年末まで。24年からは18歳以上の人は新しいNISAを利用することになります(18歳未満の未成年者は利用できない)。今、つみたてNISAまたは一般NISAの口座を開設している人は、そのまま24年から同じ金融機関で新しいNISAを利用できます。マイナンバーなどを新たに出す必要はありません。

つみたてNISA+一般NISAの合体版

 2024年から始まる「新しいNISA」口座では、つみたてNISAを引き継ぐカタチの「つみたて投資枠」と、一般NISAを引き継ぐカタチの「成長投資枠」の2つが利用できます。従来はつみたてNISAと一般NISAは同じ年に両方使うことはできませんでしたが、新しいNISAでは両方の枠を使えます。

対象商品と年間投資枠

 つみたて投資枠で購入できるのは現行のつみたてNISA対象商品と同じ(2022年12月21日現在、217本)で、積み立てで購入します。一括購入は不可。投資枠の上限は年間120万円とつみたてNISAの上限の3倍にふえます。毎月積み立てる場合には月10万円まで積み立てが可能となります。

 成長投資枠は現行の一般NISAと同様、上場株式や株式投資信託などが対象で、投資枠の上限は年間240万円。スポット購入も、積み立てで購入することも可能です。ただし、従来の一般NISAで認められていた整理・監理銘柄や、信託期間が20年未満の投信、ヘッジ目的等以外でデリバティブ取引による運用を行う投信、毎月分配型の投信等は対象外となります。これにより通貨選択型や信託期間の短いテーマ型の投信などは対象外となる見通しです。

 つみたて投資枠と成長投資枠は両方使えますから、120万円と240万円を合算した合計360万円が新しいNISAの年間投資枠の上限になります。つみたて投資枠は使わず、例えば個別株投資だけ行いたいという場合、成長投資枠だけを使うこともできます。その場合は年間投資枠が240万円になります。

 なお、つみたて投資枠で購入できる商品は、成長投資枠でも投資することができます。つみたて投資枠と成長投資枠で、つみたてNISA対象商品となっている同じ投信を積み立てることもできますし、つみたて投資枠でつみたてNISA対象投信の積み立てを行い、成長投資枠で個別株や海外ETF(上場投資信託)、つみたてNISA対象外の投信などを購入することもできます。

非課税保有期間の無期限化

 新しいNISAでは、非課税保有期間が無期限化されます。

 これまでつみたてNISAの非課税保有期間は20年、一般NISAは5年でしたが、2024年以降に新しいNISAで購入した商品についてはずっと非課税で運用し続けることができます。保有期間が無期限化されたことにより、一般NISAの非課税期間5年満了時に、新しい非課税枠に移すロールオーバーという手続きを行う必要がなくなります。

 これまで通り、いつでも運用する株式や投信を売ってお金を引き出すことが可能です。

新しいNISAの概要
(出所)金融庁ホームページ https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/index.html
(出所)金融庁ホームページ https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/index.html
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新規に投資できる期間は恒久化

 新規に投資できる期間についても恒久化されることが決まりました。そのため、いつから始めても毎年非課税枠を利用することができます。これまで制度の延長をしてきましたが、「途中でおしまいになったらどうしよう」といった不安の声がありました。恒久化が決まったことで安心して制度を利用することができます。

 もっとも、投資できる期間は恒久化されましたが、非課税枠を無制限に使えるわけではなく、個人が生涯で投資できる累計額である「非課税保有限度額」も設定されました。NISA全体としては1800万円まで非課税枠を使うことができます。そのうち成長投資枠で使えるのは最大1200万円です。この生涯投資枠は1人ひとり管理され、簿価(取得価格)でカウントされます。

 また、これまでNISA口座で保有する上場株式や投信などを売ると、枠の再利用は不可でしたが、新しいNISAでは売って空いた分の枠が翌年に復活することになりました。

 例えば、100万円投資した投信が140万円に値上がりしたとします。この投信を全額(140万円分)解約して引き出した場合、投資した価格(簿価)ベースで「利用枠が100万円分空いた」とみなされて、枠を再度利用できるようになります。

 ただし、年間投資枠(つみたてNISA枠120万円、成長投資枠240万円)を超えて投資はできません。生涯投資枠で見た場合、仮に成長投資枠が100万円分空いたとしても、翌年投資できるのは年間投資枠である240万円の範囲内ということになります。

ライフイベントに応じて柔軟に使える

 新しいNISA制度は、投資期間の恒久化、非課税保有期間の無期限化が決まりました。

 生涯投資枠は1800万円あるため、ライフスタイルや年齢、運用できる期間、投資に回せる金額などによって様々な活用が考えられます。

 例えば、社会人になって早い時期から投資信託の積み立てを始める場合、仮に毎月3万円(年間36万円)ずつNISAを利用すると50年にわたって枠を利用できることになります。毎月5万円の積み立て(年間60万円)なら30年にわたり枠を活用できます。すでにある程度の余力がある人であれば、つみたて投資枠と成長投資枠の両方を使い、つみたて投資枠で投信の積み立てを行い、成長投資枠で投信や株式などを一括で購入することも可能です。年間の投資上限である360万円ずつ投資をすると生涯投資枠は5年で埋まりますから、その後は長期で運用を続けていくことになります。

 また、枠の再利用ができる点もメリットです。お子さんの教育費や住宅購入などでお金が必要になったときには一部を解約してその資金に充て、余裕ができたら再び投資に回すということもできます。ただし、あまり頻繁に引き出して使ってしまっては資産形成に支障を来します。あくまでも資金が必要になったときに解約するのが基本です。

 いずれにしても、ライフイベントに応じて、積立額をふやしたり、減らしたりする以外に、一時的に解約して引き出すといった、より柔軟な使い方ができるようになりました。

新しいNISAはライフイベントに応じて柔軟な使い方ができる(写真/shutterstock)
新しいNISAはライフイベントに応じて柔軟な使い方ができる(写真/shutterstock)
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現在のNISA口座の商品は移管できない

 ただ、新しいNISAがスタートするのは2024年から。23年は従来のつみたてNISAか一般NISAで投資をすることになります。23年までに現行NISAで投資した分は、新しいNISAの生涯投資枠である1800万円とは別枠で非課税枠をそのまま利用できます。慌てて現行のNISA口座で保有する商品を売る必要はなく、非課税保有期間の間はそのまま非課税で運用を継続しましょう。

 注意したいのは2024年からスタートする新しいNISA制度は、新旧分離、つまり23年までのNISAとは別のものとしてスタートすることです。そのため、これまでNISA口座(つみたてNISA・一般NISA)で購入してきた商品を、24年スタートの新NISAにロールオーバー(移管)することはできません。

 つみたてNISAはもともとロールオーバーの仕組みはありませんが、一般NISAについても23年末に非課税期間5年が終了するものから、順次課税口座に移管されることになります。これまでは新しい非課税枠(NISA口座)にロールオーバーするという選択肢もあったからいいのですが、24年以降は5年の非課税期間が満了したものから課税口座に払い出す(または売却)しか選択肢がなくなる点には注意が必要です。

新制度の活用に参考となる本

 新しいNISAがスタートするのは2024年から。23年はそのための準備をじっくり行いましょう。

 ただ、NISAはあくまでも制度です。めいっぱい使おうとか、効率的に使おうとする前に、まずは家計の現状把握や投資する目的、運用できる期間、投資に回せる金額などを整理しましょう。大事なのは、稼いだお金の一部を投資に回してお金を育てていくこと(=資産形成)や、今ある資産をどう活用するかです。そして、投資対象にも目を向けましょう。

 新しいNISAについてはまとめた書籍はまだありませんが、つみたて投資枠、成長投資枠ともに対象となっている投信についてじっくり学ぶことをおすすめします。これから投資を始めたいという方は、私の著書『 改訂版 一番やさしい! 一番くわしい! はじめての「投資信託」入門 』(ダイヤモンド社)をご一読ください。

 40~50代の方は、同じく私の著書『 50歳から始める! 老後のお金の不安がなくなる本 』(日本経済新聞出版)をお読みいただくと、公的年金や企業年金なども併せてトータルで資産形成や取り崩し方などを考えることができます。

平均ではなく、「自分ごと」で考えよう。

「老後資金2,000万円不足!?」老後に必要なお金は一人ひとり異なります。平均ではなく、「自分ごと」として考えましょう。もらえる年金額や家計を見える化し、お金のふやし方・使い方を知れば、もう振り回されない!

竹川美奈子著/日本経済新聞出版/1650円(税込み)