様々な質問に高度な回答を提供してくれる「ChatGPT」をはじめとする生成AI(ジェネレーティブAI<人工知能>)が注目を集めています。どのように活用すればいいのか、そして、今後、人間の仕事はどうなっていくのか。アクセンチュアの執行役員でAIグループ日本統括の保科学世さんに、生成AIのインパクトや効果的な利用方法を聞きました。保科さんは『 責任あるAI 』『 HUMAN+MACHINE 人間+マシン 』などの著書があり、以前よりこの課題に取り組んでいます。

インターネット以上のインパクト

 今、生成AIの1つであるChatGPTが大きな注目を集めているのは、皆さんもご存じの通りです。わずか2カ月でユーザー数は1億を突破しました。ここまで急激に普及が進んだ理由は、その驚異的な性能にあると言えるでしょう。米国のMBA(経営学修士号)にも合格するほどの実績が評判を呼び、ユーザー数を増やしてきました。資格試験での成績は分かりやすいですからね。最新バージョン(GPT4)では、米国の司法試験や日本の医師国家試験にも合格するほどの実力を持っています。

 生成AIにできることを大きく分けると、テキスト生成(文章の生成、校正、要約、翻訳など)、イメージ生成(絵や動画の自動生成、3Dモデル生成など)、サウンド生成(音声合成、楽曲生成など)の3つがあります。さらに、これらを関連づけて処理するAIへと進化する流れもできつつあります。

 今後、生成AIは、私たちの仕事だけでなく、生活にも大きな影響を及ぼしてきます。影響を受けない分野はないでしょう。インターネットが普及し始めたときと同等、あるいはそれを超えるインパクトを与えるだろうと私は考えています。今では仕事も生活も、インターネットなしでは考えられない世の中になっていますが、生成AIも同じようなものになっていくでしょう。

平均40%以上の仕事が影響を受けることに

 アクセンチュアが「大規模言語モデル(LLM/Large Language Model)による潜在的なビジネスへの影響」を調査したところ、業界平均で40%以上の仕事が影響を受けるとの結果が出ました。職種別の調査では事務作業やアシスタント業務で60%以上、これまで人の仕事と考えられていた営業・販売でも、同じくらいの割合で影響が出ると見込まれています。

図表1 大規模言語モデルによる潜在的なビジネスへの影響(業界別)
図表1 大規模言語モデルによる潜在的なビジネスへの影響(業界別)/(出所)Accenture Research(米国労働統計局による職業情報ネットワーク<O*NET>の分析に基づく)
(出所)Accenture Research(米国労働統計局による職業情報ネットワーク<O*NET>の分析に基づく)
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 具体的なユースケースとしては、例えば法務部での契約文書の生成や文言のレビュー、知的財産権侵害に関する調査・分析などが考えられます。また、情報システム部門では、設計文書からコードを生成したり、逆にコードから設計文書を生成したりするほか、ユーザーからの質問に自動応答するヘルプデスクでの利用も可能です。

AI社員が会議をサポート、提案まで行う

 アクセンチュアでは実際に、自社開発のエンジンにChatGPTを組み合わせたAI社員「ブレイン・バディ」さんに会議をサポートさせる取り組みを始めています。若手社員は、会議の議事録をとったり、資料作成のために社内データや外部の情報源などから事例を調べてリポートにまとめたりする作業を任されがちですが、こうしたことをブレイン・バディさんに担当してもらうのです。

 あるクライアントに出す提案について、会議を開いたときの模様を紹介しましょう。出席者は人間の担当者3人に、AI社員であるブレイン・バディさんを加えた“4人”です。会議冒頭、クライアントの業界でのポジションや経営課題を確かめるため、担当者がブレイン・バディさんに声をかけ、リポート作成を依頼します。ブレイン・バディさんは社外の情報プラットフォームやインターネットの情報から、そのクライアントについての情報を集めてパワーポイントでリポートを作り、ディスプレーに表示します。その間、わずか数分です。

 担当者らがそれを精査して、どの課題をテーマにするかを決めたら、今度はブレイン・バディさんに社内のデータから類似事例をピックアップしてもらいます。中には数百ページもある報告書もありますが、ブレイン・バディさんはそれを要約して表示してくれます。さらに深掘りしたいポイントがあれば、やはり声で頼むだけで詳細が表示されます。

 詳細情報を見ながら担当者らがブレインストーミングをしている間も、ブレイン・バディさんはその内容を聞いています。そして話題となった言葉を拾って必要な資料を集めたり、話題には上っていなくても関連すると思われること、やったほうがよいと思われることを提案してくれたりします。担当者らのアイデアをまとめるだけでなく、足りないところを補足してくれるわけです。参加している担当者らが驚きの表情を浮かべているのが分かるほどのサポートぶりです。

選択肢を広げるための利用を

 AI活用というと、多くの人は、「今やりたいことにかかる時間をAIでいかに短縮するか」という発想にとどまってしまいがちですが、私は先ほど紹介した会議での事例のように、AIに選択肢(着想/創造)の幅を広げてもらうような使い方をしたいと考えています。また、AIから人間が学び、反対に、人間がAIの教師になるという関係を築くことも大事です。相互に教え、教えられることで、両者が育っていくということですね。

 これからAIは、さらに様々なことができるようになり、あらゆるシーンで利用されるでしょうが、私は、単に「人の仕事を代わりにやらせる」だけの使い方はすべきではないと考えています。では、AIをどう使いこなしたらいいのか、そしてその際、人間に求められることは何か、次回考えてみましょう。

後編に続く

保科さんは「人間とAIが相互に教え、教えられることで、両者が育っていくことが重要」と言う
保科さんは「人間とAIが相互に教え、教えられることで、両者が育っていくことが重要」と言う
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取材・文/暮 論子 写真/鈴木愛子