コロナ禍が続くなか、漠然とした不安を抱え、ストレスをため込む人が増えている。「怒りっぽくなった」「イライラして仕事に集中できない」といった怒りに対するコントロールは、生産性向上と健康維持のために不可欠だ。具体的なアプローチについて、 『怒りの扱い方大全』 の著者である戸田久実さんに話を聞いた。今回は1回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

このイライラ、どうしたらいい?

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 戸田さんは、アドット・コミュニケーション代表取締役を務め、研修や講演の講師、また日本アンガーマネジメント協会の理事として協会の運営等にも携わる傍ら、2020年3月に日経文庫『アンガーマネジメント』、21年7月『怒りの扱い方大全』という書籍を出版されましたね。

戸田久実・アドット・コミュニケーション代表取締役(以下、戸田) はい。『アンガーマネジメント』は20年6月にパワハラ防止法が施行されることを見据えての企画でした。私のところには組織のリーダー層や管理職のかたから「パワハラ防止法が施行されるが、部下を叱るときはどうしたらいいのか」という相談が寄せられていました。一昔前に、いわゆる鬼上司が部下に怒鳴っている姿を見ていたかたが多いんですよね。「パワハラはダメだと分かっているが、部下にどうやって注意したらいいのか」だけではなく、「怒りという感情をどう扱ったらいいのか」という相談が本当に多かったです。

 そこで、そもそもアンガーマネジメントとは何か。組織においてどう活用し、ハラスメント防止のためにはどう叱ったらいいのか。さらに、怒っている誰かの怒りに巻き込まれないためにはどうしたらいいのか。そうした課題を1冊にまとめたのが『アンガーマネジメント』です。

尾上 『アンガーマネジメント』は話題になり、中田敦彦さんの「YouTube大学」でも取り上げられましたね。

戸田 はい、ありがたいことに。本来はリーダー層以上を読者に想定していたのですが、「YouTube大学」で紹介してくださったことで、思いのほか若い方々が読んでくれたり、SNSでも取り上げてくれたりしました。

尾上 若い世代はどういう部分に共感したのでしょうか。

戸田 怒りって、年代を問わずに感じますよね。

尾上 もちろん。

戸田 若い人も、人間関係のなかでお付き合いしている相手、職場の上司、世間に対してもイラッとすることが日常的にあると思います。そしてコロナ禍ともなればさまざまな制限を余儀なくされ、「どうして」という怒りもあるでしょう。

尾上 コロナ禍で世の中の環境がガラッと変わり、老若男女問わず、怒りだけではなく「不安」や「不満」を何となく感じているのでしょうね。

戸田 そうですね。コロナ禍では、かなりストレスを感じる人が多いのではないかと思います。でも、負の感情、ネガティブな感情の扱い方を分かっている人は、多くはないのではないでしょうか。負の感情に振り回されて、ますます悪循環に陥って、余計にイライラしてしまう。「どうしたらいいの」という声は、年代問わず、研修や講演先でも本当によく耳にします。

尾上 なるほど。そこで『アンガーマネジメント』では、アンガーマネジメントの全般的な話や背景を1冊にまとめたということですね。

あなたの今のイライラ、解決策があるかもしれません
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Q&A形式で事例と対策を紹介

尾上 2021年7月に出版された『怒りの扱い方大全』は、どのような本ですか。

戸田 『怒りの扱い方大全』は「大全」というタイトル通り、約300ページのボリュームがある本です。『アンガーマネジメント』は基本的な内容でしたが、『怒りの扱い方大全』は、「こんなときの怒り、どう扱ったらいいの?」「どう伝えたらいいの?」という事例を集めたので、「ああ、私にもこういうことがあるかも」と多くの人に感じてもらえると思います。

 64の事例を掲載していて、ちょっと「生々しい」という言葉が当てはまるような事例も入っています。Q&A形式で、Qで「こんなときにどうしますか」という具体的な事例を示し、そのAとしてアンガーマネジメントの考え方や、私の専門のアサーティブコミュニケーションの領域から「どう扱って、どう伝えたらいいのか」という実践方法を伝えています。知識として理解するだけではなく、「こうすればいいのか。じゃあ、今からでもやってみよう」と思ってもらえるよう、読者の背中を押せる本にしたいと思いながら作りました。

尾上 『怒りの扱い方大全』は、実際の場面を想定した内容ということですね。64もの事例が紹介されていて、きっと誰しも何か思い当たりそうです。

戸田 そうですね。実は、64まで絞ったんですよ。最初は、事例を集めたら100くらいになってしまって。これを全部は載せられない、と64に絞りました。

 事例のなかには、職場だけではなく、プライベートや子育て、パートナー同士、それからカスタマーハラスメントなど組織やチームとして対応しなくてはいけないようなものもあります。それから「自分に対しての怒り」もあります。

尾上 確かに、自分に対しての怒りを感じる場面はあると思います。さまざまな角度から事例を集めた、実践的な本なんですね。

構成/三浦香代子

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