コロナ禍が続くなか、漠然とした不安を抱え、ストレスをため込む人が増えている。「怒りっぽくなった」「イライラして仕事に集中できない」といった怒りに対するコントロールは、生産性向上と健康維持のために不可欠だ。具体的なアプローチについて、 『怒りの扱い方大全』 の著者である戸田久実さんに話を聞いた。今回は2回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

「怒り」で自分を守るケースもある

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 「怒りの仕組み」について教えていただきたいのですが、その前に、「怒りの感情」って何なのでしょう。

戸田久実・アドット・コミュニケーション代表取締役(以下、戸田) 怒りは、私たち人間にとって自然な感情です。怒ることは「悪い」「よくない」「みっともない」とネガティブなイメージを持つ人が多いのですが、そもそも「うれしい」「楽しい」「悲しい」といった感情と変わりはありません。怒ることが悪い、怒りを感じたらダメだということは、まったくありませんよ。

尾上 「当たり前にある感情だ」と思うことが、最初の一歩ですね。

戸田 はい。まず、否定しないということです。

尾上 そして、怒りには自分を守る働きもあるということですが。

戸田 「防衛感情」です。身の危険を感じるとか、心身ともに自分の安心や安全が脅かされるとか、そういったときに怒りをもって対応する本能があります。

 例えば、尾上さんが車を運転しているときに前を走る車が急ブレーキを踏んだり、横から急に割り込んできたりすると、その瞬間にイラッとしたり、「危ないじゃないか!」と思ったりしませんか?

尾上 そうですね。「危ないじゃないか」と思います。

戸田 または、階段を降りている最中に後ろから走って降りてきた人がぶつかってきて、危うく転げ落ちそうになった瞬間には、「危ない!」と怒りを覚えると思います。さらには自尊心が傷つけられるようなことを言われると、カーッとしたり、怒りをもって対応したりということも想像できると思います。

尾上 はい、そうですね。

戸田 そんなふうに自分自身の心身が脅かされる事態に、怒りをもって対応する。これが防衛感情という役割です。

アンガーマネジメントも、実践してこそ身に付く
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怒りと上手に付き合おう

尾上 怒りって、他の感情と比べると強い感じがしますよね。

戸田 確かに、エネルギーが強いので振り回されやすいんです。まずは、「防衛感情という役割があるから、私たちは怒りを持ち合わせているんだ」と知っておく。そしてどうして怒りが生まれるのかというと、「自分の思い通りになっていないからだ」と理解しておくといいですね。

 例えば、「こういうときはこうするべき」「こうであるはず」など、自分の理想や願望、譲れない価値観を表すときに「べき」などの言葉を使うことがあると思います。しかしそれが思い通りにならないと感じるときに、怒りが生まれるという仕組みがあるのです。

尾上 よくありますね。自分の考えと違う行動を取られると、怒りというか、イラッとする感情が湧いてきます。自分だったらこうするのに、こうしなきゃおかしいんじゃないの? と、つい思ってしまいますね。

戸田 えっ、なんで? とモヤモヤすること、ありますよね。そういうとき、「私はこんなことがあってイラッとしているんだな」と冷静に考えたり分析したりしておくと、エネルギーの強い「怒り」という感情に自分自身が振り回されなくて済みますよ。

尾上 本書で例として挙げられていますが、「10時から会議スタート」というときに、例えば私だったら「だいたい5分前には席に着く」という自分の中の基準があるんですけれど、皆さんけっこう違いますよね。

戸田 「10分前に席に着く」と考える人もいれば、「社内だったらギリギリでいいんじゃない?」「3分前くらいでいいでしょ」という人、もしくは「5分くらい遅れたって構わないんじゃない?」という人もいるかもしれない。本当にさまざまですよね。

尾上 そこがすれ違うと気持ちがモヤモヤして、怒りの感情につながってしまうのでしょうね。

戸田 そうですね。「普通はこうする」「これが当たり前なのに」という思いから、ますます怒りを強くする人もいます。

尾上 そうした感情への対策が分かるのも、この本のポイントですね。

戸田 はい。怒りという感情は身近でありながら実はよく分かっていないかたも多いので、「まず、どうすればいいの?」というところから取り扱っていこうと思いました。チャプター1では「そもそも怒りとは何か」「どうやって扱ったらいいのか」という立ち位置から紹介しています。

尾上 チャプター1の最後では、「アンガーマネジメントとは何か」を解説していますが、改めてアンガーマネジメントとは何なのでしょう。

戸田 一言でいうと、「怒りと上手に付き合うための心理トレーニング」です。決して、怒ってはいけない、怒らない人になろう、ということではありません。どうして怒りと上手に付き合うかというと、「怒りで後悔しないため」です。例えば、「あのときあんな怒り方をしなきゃよかった」「あのタイミングでちゃんと怒っておけばよかった」という後悔をしないよう、怒る必要のあること、必要のないことを見極め、線引きができるようになろうということです。

尾上 そのときの感情にまかせるのではなく、自分なりの基準をつくり、叱り方も含めてコントロールできるようにする。そのためのトレーニングが、アンガーマネジメントですね。

戸田 そうです。怒る必要があるときは怒りましょう。ただ、適切な怒り方をしましょう、という考え方です。そして、「じゃあ、どんなふうに怒ればいいの?」という実際の場面に対応するための、怒りと上手に付き合う心理トレーニングなのです。ただ、知識や情報を知るだけではうまくいかず、ダイエットや筋トレと一緒で、本を読んだだけでは痩せないし、筋肉もつきません。日々、少しずつでもいいから取り組んでいくことが大切です。

構成/三浦香代子

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