コロナ禍が続くなか、漠然とした不安を抱え、ストレスをため込む人が増えている。「怒りっぽくなった」「イライラして仕事に集中できない」といった怒りに対するコントロールは、生産性向上と健康維持のために不可欠だ。具体的なアプローチについて、 『怒りの扱い方大全』 の著者である戸田久実さんに話を聞いた。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

パートナーとの言い争い、すれ違い

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 『怒りの扱い方大全』では64もの事例があり、そのなかの一つが、男性の「パートナーの長い話にうんざりしてしまう」という例です。

 「話をちゃんと聞けない」という男性パートナーの視点、「聞いてもらえない」という女性パートナーの視点の例に対して、「傾聴ボランティアを演じよう」という回答が面白いですね。

戸田久実・アドット・コミュニケーション代表取締役(以下、戸田) こうした例は実際、たくさん相談を受けます。ある男性は「家に帰ったらひたすらパートナーの長い話に付き合わされて、イラッとする」と。そこで「うるさいな」という顔をすると、相手から「ちゃんと聞いてよ」と始まり、要らぬやりとりが続いてしまって、ますますイライラする。「家でのパートナー同士のコミュニケーションを良好なものにしたい」「家庭平和のため」と相談してきた男性は言うのですが、おそらくパートナーからすると「私の話を聞いて共感してほしい」と願っているんですよね。

 ところが、「ちょっと、聞いてよ」と相談ぽく言われたら、「これは何かアドバイスするべきだろう」「解決しよう」と考える人が多いようです。だから「こうしたほうがいいんじゃないか」と答えたのに、なぜか「ちゃんと聞け」と怒られる。「じゃあ、どうしたらいいんだ」という、すれ違いが起こってしまうんですね。お互いに「こういうときはこうするものだろう」という部分がすれ違っているんです。

 私からは、相談してきた男性に「家庭内でムダな言い争いをせずにコミュニケーションを円滑にしたいのであれば、相手が望むように『そうか、そんなことがあったんだ』『ああ、それは大変だったね』と共感し受け止めること、受容が大事ですよ」と伝えています。「ちゃんと聞いてもらえた」という部分が満たされれば、感情のもつれから起こる無用な言い争いやギクシャクした雰囲気も避けられると思いますよ。

カッとして言い返したくなったら、まず6秒待ってみる
カッとして言い返したくなったら、まず6秒待ってみる
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「売り言葉に買い言葉」を防ぐには

尾上 なるほど。このコロナ禍で家にいる時間が多くなった人には、大事なポイントですね。それから、私が気になった事例は「反論する相手に怒りが湧いてしまう」です。それについては「まずは6秒待ちましょう」という回答ですが、反論されたことに対して、つい反射的に「いや、そうじゃないでしょう」と言い返してしまうことも日常の場面ではありますよね。

戸田 相手に反論されるとムキになり、「売り言葉に買い言葉」という状況になることはよくあります。でも、イラッとした瞬間に怒りにまかせて出てくる言葉には、相手をたたきのめすような物言いや、論破しようと圧力をかけるような言い方が多くなりませんか。

 そうなると、本来は「話し合いの場を持ちたい」という方向だったはずのコミュニケーションが、「打ち負かしたい」「論破したい」という間違ったほうへ行ってしまう。ですから、怒りにまかせた行動をしないよう「6秒待ちましょう」というアドバイスをしています。

尾上 それから先ほどの「怒りの仕組み」のお話にもありましたが、「こうするべき」という自分の価値観に人が従わないと、ついイラッと感じて指摘してしまうという事例も取り上げられています。それには「自分の価値観の押し付けはやめよう」という回答ですね。

戸田 今は価値観が多様化していますから、皆さんがいろいろな「べき」を持っています。そして、「こういうときはこうするべき」「こうあるべき」という思いから、つい「これが当たり前だ」「常識なんだ」という押し付けが起こることもあります。でも、相手にも相手の大事にしている「べき」があるはずですよね。相手だって、押し付けられたものに従いたくないという反発を感じますから、そうなると、いい話し合いやコミュニケーションはしづらくなります。自分と同じように、相手にも相手の「べき」があると理解しておくことは大事ですね。

尾上 確かに職場でも、自分と上司、自分と部下では、それぞれの「べき」が違うこともありますね。そこは尊重していきたいと思います。

 では最後に、戸田さんはこの『怒りの扱い方大全』の読者に、改めてどんなことを伝えたいですか。

戸田 本書の帯に「怒るのは悪くない。」と書いてある通り、怒るのは悪いことではない、自分の感情をちゃんと認めて、振り回されないでほしいとまずは伝えたいですね。怒りの感情をうまく扱うことは誰にでもできます。この本にある64の事例を読んでもらえれば、「こうすればいいのか」「私にもできるかも」と知ってもらえると思いますので、自分の怒りをうまく扱えるようにトレーニングしてほしいですね。

尾上 やはり1つでも2つでも実際にやってみる、続けてみるというのが、怒りの扱い方を身に付けるには大事なんですね。私も本書で紹介されていた「怒りに点数を付けて仕分けする」「アンガーログを取ってみる」というアドバイスは、早速始めたいと思います。

構成/三浦香代子

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