元『日経ビジネス』編集長で、現在はテレビやラジオで解説者として活躍する山川龍雄さん。さまざまなメディアを通して情報を伝え続けてきた山川さんの著書『「話す・聞く・書く」伝え方のシン・常識 半分にして話そう』を基に、「半分にして話す」ことの真意からコミュニケーションの極意まで、お話を伺います。今回は2回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
2分を過ぎると人は話を聞かなくなる
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 前回は、著書『 「話す・聞く・書く」伝え方のシン・常識 半分にして話そう 』を書いたきっかけや、なぜ半分にして話すことが大事なのかという導入部分をお話しいただきました。今回は、具体的にどう話すのか、伝えていくのかを伺います。
その前に、本書にも書かれていますが、「人は最後まで話を聞いてくれない」のも、確かにその通りなんですよね。
山川龍雄(以下、山川) テレビでは、30秒くらいでテンポよく会話が交わされているときは視聴率はそれほど落ちないのですが、同じ人がだらだらと2分間くらい話していると、ほぼ視聴率が落ちていきます。普段の会話でも、誰かがずーっと話し続けているときなど、聞いてるふりをしてしまうこともありますよね。
尾上 でも話が乗ってくると、しゃべり続けてしまう人はけっこういます。
山川 新鮮な話をずっと続けられる人はいいと思います。でも、そう簡単にはいかないですから、やはり話は短めに。反対に、自分が聞く側のときはできるだけ根気強く聞いてあげる姿勢が大事ですね。
伝え方の極意「PREP法」
尾上 そして伝えるときに重要なのが、本書に書かれている「話す順序」なのですね。
山川 そうですね。基本は「PREP法」です。PREPの「P」はPoint、最初の結論です。次の「R」はReason、結論の根拠です。「E」はExampleで、根拠をさらに具体例で傍証するもの。最後にもう1回、結論を言うからPREP法です。
例えば、私がニュースで「中国経済が厳しい」とコメントするとします。そうすると最初に結論として「中国経済の先行きが非常に厳しい」と言います。その根拠として「なぜならGDPの3割くらいを占める不動産セクターが非常に厳しい」。その根拠の具体例として「最近、中国では1棟のマンションを売るときに『もう1棟プレゼントします』と、バナナのたたき売りのようなやり方まで出てきています」と話します。そして最後に「やはり最近の中国経済は先行き不透明だと思います」と、もう一度結論で締める。時間があるときは根拠を2つ、3つ挙げることもあります。
PREP法では「自分は何を言おうとしているか」という結論をまず設定するので、「思いつきで何か話すと結論に対してネガティブな要素になってしまうから、排除しよう」と、頭の整理ができます。
尾上 なるほど。今の中国経済の例は、すんなり頭に入ってきました。
山川 他にも、例えば就活で「御社が第一志望です」と最初に結論を言いますよね。なぜなら「自分にはこういう理由があるから」と。「いや待てよ、本音ではあっちの会社の方が第一志望なんだけど」「この会社はちょっと給料が安いかな」と雑念があったとしても、ある程度は振り払って、自分の結論はこれだと頭を整理する。就活、上司への相談など、ビジネス会話のほとんどはPREP法で成り立っています。
尾上 そうですね。成り立っているし、うまく使うと伝えやすい、伝わりやすい、聞いてもらいやすい。
山川 はい。ただ、ちょっと工夫は必要です。結論があまりにもありきたりなときなどは、「掴み」が必要なのです。中国経済の例で「マンションを1棟買ったら、もう1棟プレゼント」という話をしましたが、こういう話には「おっ?」と思いませんか。このようにインパクトのある話題を最初の掴みに持ってきて、その後「最近、私は中国経済についてはかなり悲観的に見ていて、不透明だと思っています。なぜなら、中国のGDPの3割を占める不動産セクターが厳しいからです」と、少し順序を変えていく。テレビでも雑誌の記事でも、一番面白いところを掴みに持ってくるのです。
尾上 PREP法だけだと、ビジネスライクに寄ってしまうかもしれませんね。
山川 そうなんです。PREP法だけだと、論理的ではあるけど話を全部丸めてしまってディテールが乏しくなり、話を聞いていてもつまらないという事態になってしまうことがあります。
例えば、私が海外出張に行ってきて、尾上さんから「現地の物価はどうだった?」と聞かれたとしますよね。それに対して私が「物価は高かったですよ」と答えたら、その通りかもしれませんが、つまらないでしょう。こういうときは、「いやいや、オレンジジュースが1500円もしましたよ」と言った方が、はるかにインパクトがありますよね。
尾上 PREP法は型としては大事だけど、それだけでは人に伝わらない。
山川 そうです。あくまでも基本形で、それを崩してナンボのところもある。ただし、崩し過ぎて、自分が面白いと思ったことをただ羅列するのは完全にPREP法から逸脱してしまうので、誰にも伝わりません。
新聞記事の「逆三角形型」とは
尾上 PREP法は、誰でもできるようになりますか。
山川 残念ながら、社会人になってもPREP法の基本ができていなくて、思いついたことを羅列して話をする人は、一定数います。
私が『日経ビジネス』の編集長をしていた頃、面白いネタを取ってくるのに、原稿を書かせるといまひとつ、という記者もいました。取材は上手だし、面白い要素を取り上げるのだけれど、原稿が論理的ではなく、事柄をずっと羅列しているだけという。これはかなり残念なので、やはりPREP法や新聞記事の「逆三角形型」といった基本を、できるだけ早いうちに磨いた方がいいと思います。
尾上 新聞記事の逆三角形型とは?
山川 新聞記事で一番大事なのは「5W2H」。よく「5W1H」といわれますが、それにHow muchの「H」を加えて2Hです。経済報道番組や経済誌、新聞では金額の要素を加えるのは当然ですよね。そして、5W2Hに沿った一番重要なことを、文章の頭やトップに持ってくる。これを「逆三角形型」といい、つまりこれも結論から先に言うということなのです。
例えば、尾上さんが野球の試合で一番知りたいことは何でしょうか。
尾上 試合結果とハイライトです。
山川 ですよね。ただ試合結果について、1回から順番にたどっていくと結果に行き着くのは最後になってしまいます。これは新聞記事ではあり得ないので、その試合結果を含めた5W1H、2Hにまつわる部分を必ず記事の最初に持ってきます。
実はビジネスの世界でもまったく同じで、「新商品をローンチします」「新規事業を始めます」などの報告書やプレゼン資料では、必ず一番重要な5W2Hを最初に持ってくるのです。その後、次に大事なことを持ってくる。後ろにいけばいくほど、重要性がそれほど高くないというのが基本的な新聞記事の書き方で、それはそのままビジネスの報告書や我々の普段の会話のなかでも使えます。
忙しい人が見出しとリードだけをパパッと読めば伝わるように、新聞記事は逆三角形型になっているのです。ビジネスシーンでも同じように、忙しい人を相手に話したり書いたりしているわけですから、一番大事なところから話し、書く。できれば早いうちにこういった構造も頭に入れておくといいですね。
尾上 PREP法と新聞記事の逆三角形型、この2つを使うだけで時間短縮になるし、それでうまく伝わるのなら一石二鳥ですね。
山川 この2つの基本を頭のなかに入れておくと、本当に世界が変わります。ビジネスシーンでは、起承転結や小説のような話を求められることはほとんどありませんから、まず結論なのです。
文/三浦香代子 編集協力/山崎 綾 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集)
