元『日経ビジネス』編集長で、現在はテレビやラジオで解説者として活躍する山川龍雄さん。さまざまなメディアを通して情報を伝え続けてきた山川さんの著書『「話す・聞く・書く」伝え方のシン・常識 半分にして話そう』を基に、「半分にして話す」ことの真意からコミュニケーションの極意まで、お話を伺います。今回は3回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)

冗舌な人が話し上手とは限らない

尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回も、『 「話す・聞く・書く」伝え方のシン・常識 半分にして話そう 』の著者、山川龍雄さんにお話を伺います。これまで、なぜ半分にして話すのか、そして具体的な話し方・書き方として「PREP法と逆三角形型」について教えていただきました。今回は、そうはいってもPREP法や逆三角形型を簡単に使うことができるのだろうか、というあたりについてまずは伺いたいです。

山川龍雄(以下、山川) 最近はSNS文化もあり、「対面で話すのは苦手だ」「緊張してしまう」「話すのが面倒臭い」という人が増えているようですが、伝え方・話し方は必ずしも素質で決まるものではありません。あくまでも経験値が一番重要です。立て板に水のごとくすらすらとしゃべる人が話し上手かというと、必ずしもそうではないんですよ。

 例えば、就活の場面でずっとしゃべり続ける人が採用されるわけではないし、営業でもそういう人が結果を出しているわけでもないですよね。ですから、すらすらと話せないから自分はできない、という苦手意識をなくすことがまずは大事です。

尾上 本書でも「素質でなく経験がモノを言う」と書かれています。PREP法にしろ、逆三角形型にしろ、その型を繰り返し使って身に付ければ、人に伝わるようになるでしょうか。

山川 時々意識するだけでも全然違うと思いますよ。普段、思いついたことをだらだら話してしまう人が「PREP法や逆算角形型という考え方があり、とても大事なことだ」と頭に入れておくだけでも、変わってくると思います。

SNSで伝えられるから、AIがあるから、という考えにとどまっていると、周囲からの評価は下がってしまうかもしれません
SNSで伝えられるから、AIがあるから、という考えにとどまっていると、周囲からの評価は下がってしまうかもしれません
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山川 経験が大事だという点についてお話ししたいのですが、例えばバスケットボールなら有名選手や憧れの選手のまねをしてドリブルしたり、シュートの練習をしたりするじゃないですか。ところが話し方では、誰かの録音や録画をまねしようとは思わないですよね。

尾上 そうですね。

山川 不思議ですよね。コミュニケーションは、生きていく上でずっと付きまとう大事なスキルです。同じ会社に30年間、定年まで勤めている人は男性で3割、女性は1割に届きません。ということは、その会社で専門スキルを磨いたところで、転職したらそのスキルが通用するかどうかは分からないわけです。しかし、コミュニケーションスキルはいつでもどこでも求められる。そのくらい大事なのに、我々は誰かのまねをするということすら訓練していない。ちょっとした努力によって人生はずいぶん変わっていくので、伝え方はできるだけ早いうちに基本を身に付けた方がいいと本書でも繰り返し説いています。

尾上 基本として型を知る、型を意識して伝えていくと変わってくるのですね。

山川 そう思います。

就活の選考は「AI対AI」になりつつある

尾上 本書では他に「生成AI時代の伝え方」についても書かれていますが、この点はどのような変化を感じますか。

山川 いろいろなメディアに携わるなかで、常識が変わりつつあると感じます。そのひとつが生成AI(人工知能)です。ご存じの通り、自分が伝えたい要素を生成AIに投げ込めば、それを文章にしてくれます。論理構成を自分で考えなくてもAIがやってくれて、そのまま文章にしてくれる。しかし、あまりにも依存し過ぎると危険です。

 実際、就活のエントリーシートでは、かなりの学生が生成AIを使っています。以前よりも簡単に、大量にエントリーできるようになっているのです。人気企業だと何万通とエントリーシートが来るので採用する側はさばけなくなり、実は企業も最近はAIを使って一次選考をしていると聞きます。つまり就活の現場で、一次選考はAI対AIになっているわけです。AIだから、AIが書いたありきたりな文章は当然はじいちゃいます。

 私がある人事担当の役員にそういう話をしたら、「いや、AIに頼り切っている学生を採用するくらいだったら、AIを使うよ」と。まあ、それはそうですよね。AIを使っていい部分は積極的に活用すればいいけれども、「ここ一番」という勝負どころでAIに頼る人は、どこかで損をしてしまう、評価されないと肝に銘じた方がいいと思います。

尾上 本書では、依存し過ぎてしまうことへの警鐘も鳴らしていますね。

山川 はい。生成AIに頼ることで一番心配なのは、最終的には話し方がおかしくなっていくのではないかということです。生成AIに何でも頼ってしまうと、自分のなかで論理的思考を繰り返していくような作業や経験をしなくなる。また、文章を書くときは相手が待ってくれたり、それなりに時間が与えられたりすることもありますが、話すときはもうその場でですよね。

 私たちは小さい頃からずっと読み書きの訓練を受け、話すときも頭の中で論理的にどの順番で話したらいいかを考えています。その訓練を怠ってしまうと、話すときにたどたどしくなってしまう人が増えるのではと心配しています。

言語情報で相手に伝わるのは7%

尾上 そうならないために、自分で考えたことを自分の言葉できちんと伝えていきたいですよね。

山川 そうですね。我々がメールやSNSなどで伝えているものは、ごく一部です。言語だけで多くが伝わると思われがちですが、本書では「視覚情報が全体の55%を占めている」という「メラビアンの法則」も紹介しています。

 実は、人とコミュニケーションをとるとき、視覚情報が全体の55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%の割合で、相手に影響を与えるそうです。つまり、身ぶり手ぶり、表情、声色と一緒にしないと、きちんと人には伝わらないのですね。ですから「自分にはSNSやメールがあるから対面で伝えなくてもいい」と思うのは大きな間違いで、ここ一番の勝負のときには、対面で伝えたいことが伝わるように訓練していないと、いざというときに困ってしまいます。

尾上 伝え方には普遍的な部分もありつつ、やはり時代が変わると、人間の能力そのものが変わってしまうこともある。もう一度、伝える力を養った方がよさそうですね。

山川 そうですね。怖いですよ、仕事で上司が「これ、どうなっているんだ」と若い部下に言ったら、部下は「ちょっと待ってください」と生成AIに全部やってもらって、その文章を確認してから上司に伝えるとか。そんな部下はやはり評価したくないですよね。

尾上 先ほどの採用の例もそうですが、それだったら「もうAIでいいじゃん」ということになってしまいますね。

山川 AIを活用できる場面では活用していいけれど、それに踊らされないようにしないと、公私ともに人生を有意義にできなくなります。本書では、そういう警鐘も鳴らしたつもりです。ぜひ、手に取っていただければと思います。

文/三浦香代子 編集協力/山崎 綾 構成/市川史樹(日経BOOKプラス編集)

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