人生100年時代、必然的に働く時間も長くなっています。その人生を仕事中心にするか、ほどほどに働くか。シモーヌ・ストルゾフ著『静かな働き方 「ほどよい」仕事でじぶん時間を取り戻す』に登場する「仕事主義」な人たちは、どのような選択をしたのでしょうか。翻訳者の大熊希美さんと編集担当の三田真美さんを迎え、仕事と人生について語り合いました。今回は1回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
著者はキャリアに迷ったエリート
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回から『 静かな働き方 「ほどよい」仕事でじぶん時間を取り戻す 』を取り上げます。ゲストは、翻訳を担当された大熊希美さんと編集担当の三田真美さんです。まずは大熊さん、自己紹介をお願いします。
大熊希美(以下、大熊) 私は本の翻訳と「WIRED」のウェブ版の記事の翻訳などを手がけています。キャリアとしては、金融業からスタートアップ企業を経て、ウェブメディア「TechCrunch Japan」で翻訳と記者をした後、フリーランスになりました。
尾上 『静かな働き方』の前にも、日経BPでは『爆速成長マネジメント』『モダンエルダー』『KISSジーン・シモンズのミー・インク』などを翻訳していただきましたね。続いて、三田さん、お願いします。
三田真美・日経BP(以下、三田) 書籍の編集歴が今年で21年目になります。担当してきた書籍は書き下ろしと翻訳書が半々くらいで、自己啓発など幅広い分野を手がけています。
尾上 さて、『静かな働き方』はどのような本なのでしょうか。
三田 原題は『The Good Enough Job』で、日本版では「『ほどよい』仕事」というサブタイトルになっています。著者のシモーヌ・ストルゾフさんはイタリア系のお母さんを持つアメリカ人で、ペンシルベニア大学からスタンフォード大学大学院に進学してジャーナリズムを学び、非常に優秀な成績を収めています。その後書く仕事をしながら、デザイン思考で有名なIDEOのデザインリードとしても活躍されていました。
そんななか、自分のキャリアに迷いが生じたことをきっかけに、多くの人に取材を始めました。コロナ禍で苦労しながら図書館で働く人、有名レストランのシェフ、投資会社やグーグルなど有名企業で活躍する人たちの仕事ぶりや、その職場をなぜ辞めることになったのか、辞めた後にどうしているのかをまとめている本です。
尾上 どうして仕事を辞めたのか、そして辞めた後にどうしているのかというさまざまなケースが、この本には出てくるわけですね。ところで、この本を紹介してくださったのは大熊さんだそうですね。
大熊 はい、実は「WIRED」にシモーヌさんが寄稿されていて、それを翻訳する機会があり、この人の本は面白そうだなと英語版を読んでみたのです。ちょうど私もフリーランスになってしばらくたち、自分の働き方を振り返っている最中で。本のなかに多くの気づきがあったので、シェアできたらいいなと思い、日経BPさんにこの本を紹介しました。
アメリカ「ワーキズム」の実態
尾上 本書には著者のシモーヌさんをはじめ、ワーカホリックな感じの人が大勢出てきますね。大熊さんは、ご自分をワーカホリックだと思いますか。
大熊 そうですね(笑)。ものすごく働いてきて、燃え尽きを感じた時もありました。あとがきにも書きましたが、その日の仕事を終え深夜の終電に乗っている時など、ちょっとむなしくなることもありますよね。そのむなしさってどこから来ているのだろうと考えたことが、この本に関わるきっかけだったかもしれません。
尾上 本書では、ワーカホリックではなく、「仕事主義者」「ワーキズム」というワードが出てきます。数十年前の日本だったら仕事主義やワーキズムも分かりますが、現在のアメリカはどうなのでしょう。
三田 おっしゃるように、日本人は相変わらず働き続けているイメージはあるものの、私も今の日本はバブルの時代に比べたらワーカホリックという感じでもないと思っていました。一方アメリカについては、ホワイトカラーのエリート層であればあるほど働いている。それが現在のアメリカのワーカホリックの実態であると、この本を読んでいると見えてくるんですよ。
大熊 しかもアメリカは格差社会で、お金がなければ若い人たちも長時間働かざるを得ません。ギグワーカー(インターネット経由で単発の仕事を請け負う労働者)は時間を選べず、とにかくやらなきゃいけないとも書かれていて、その通りだなと思いました。
あなたの価値は仕事で決まるわけではない
尾上 シモーヌさんがいう仕事主義やワーキズムは、長時間働くこともそうですが、おそらく仕事中心の生活という感じですよね。
三田 もともとアメリカには、プロテスタンティズムといって、すごく真面目に働いたら最終的に神様が認めてくれて天国で幸せになれるという宗教に根差した思想があります。でも今は、それを超えたところで、もっともっと働いてお金を稼いで今、幸せになろうといった考えが加速しているようにも感じます。スタートアップのブームもそうですよね。
尾上 人生のなかで、仕事の影響がどんどん大きくなる感じでしょうか。
三田 頑張って働いてもボスからもっと高い目標を設定されて、餌を与えられながらひたすら上を目指して頑張り続けなければならない人たちが大勢いるということですね。
尾上 それを考えると、プロローグ最後の「あなたの価値は仕事で決まるわけではない」という見出しも印象的に映ります。でも、今のアメリカ人も、おそらく日本人も、自分の価値は仕事で決まると思い込んでいる人は多いかもしれません。
大熊 そうですね。ある意味それを追い求めることは正しくて、お金やステータスがあれば結婚して家族を持てたり、ローンが通りやすくなったりするのかもしれません。でも、それだけを追求してしまうと、どこかで限界が来るんじゃないかとそれぞれのエピソードからも気づかされます。
尾上 この本では、8人のエピソードが紹介されています。次回は、そのなかからお話を聞かせてください。
文/佐々木恵美 編集協力/山崎 綾
