リーダーと部下は、役割が違うだけで、人間としては対等です。頭ごなしに叱る、下心からほめる、ぶっきらぼうに命令する──対等な相手に対して、そのような態度になっていないか、いま一度振り返ってみる必要がありそうです。『叱らない、ほめない、命じない。 あたらしいリーダー論』の著者、岸見一郎さんに詳しく聞きました。今回は2回目。(聞き手は、「日経の本ラジオ」パーソナリティの尾上真也)
リーダーと部下は対等である
尾上真也・「日経の本ラジオ」パーソナリティ(以下、尾上) 今回は、『 叱らない、ほめない、命じない。 あたらしいリーダー論 』の2回目です。本書の第1部「自信が持てない『心若きリーダー』との対話」では、「リーダーと部下は対等」ということを前提としていますね。
岸見一郎(以下、岸見) 役割が違うだけで、人間としては対等であるというのが前提です。
岸見 数年前に娘が結婚して、結婚式の最後に、親への手紙を読んでくれました。「考えてみたら、私はお父さんから一度も叱られたことがない」と。ちょっと会場がどよめきました。僕は普段から、いろいろな場面で「子どもを叱らない」という話をしているのですが、自分の子どもが、それが真実だと証言してくれました。子どもや若い人を対等に見られない人に会うと、むしろちょっと不思議に思います。
尾上 私なんかは、子どもから「叱られた」「怒られた」と言われてしまいます…。
岸見 子どもは、親がひどいことを言っても許してくれます。でも親は、子どものその優しさに甘えてはいけません。もし、職場のリーダーが部下を対等に見ず、ひどい言い方をしたら、さっさと見限られるかもしれない。そういう危機感をリーダーは持ったほうがいいでしょう。
「対等の関係」というと漠然としていますが、具体的にいうと、相手が誰であれ、「この人は私の親しい友人だ」と思って付き合うことに通じます。友人を頭ごなしに叱りつけることは、あり得ないでしょう。
それから、アドラー心理学では「課題の分離」といいますが、相手が自分の力で解決しなければならないことに、踏み込まないことも大切です。悩んでいる友達がいたら、いきなり相手の課題に踏み込んだりはせずに「ずいぶん悩んでいるようだけれど、一度話をしてもいいかな」という断りを必ず入れるでしょう。それが対等な関係です。
尾上 対等な関係のなかのキーワードとして、「尊敬」もありますね。
岸見 アドラー心理学では、「唯一無二の存在として認めること」「あなたはあなたであると認めること」「相手がそのまま伸びていくことを援助する」のが尊敬であると言っています。
でも、ありのままを見ていない人も多いです。リーダーのなかには、目の前にいる相手を自分の理想から引き算して見てしまう人もいる。それは相手を尊敬することからはほど遠いです。
尾上 「ほめる」も相手のことを対等に見ていないのでしょうか。
岸見 ほめることの背景には、時に相手を操作する、支配するということもあるのです。「この人をほめておくと、後々都合がいい」という下心から発せられた言葉は、相手には響かないし、ばかにされたという思いを抱く人も多い。当然できることをわざわざほめるのは、相手を対等に見ていないからです。
率直に意見を言い合い、伝わる関係
岸見 仕事では基本的には失敗してはいけないし、結果を出さないといけない。仕事ですから。そのことは、わざわざリーダーに言われなくても若い人は知っています。そして部下からすれば、仕事に全力を尽くすけれども、失敗したときには上司に責任を取ってもらいたいと考える人もいます。でも、若い人たちがそう思ってしまうと創意工夫をしなくなり、スケールの小さい部下が育ってしまう。
いろいろな若い人と仕事をしてきた僕の経験でいうと、イエスパーソンではなくて、率直に意見を言い合える人と一緒に仕事をしているときは本当に楽しいですね。
尾上 そうですね、分かります。
岸見 若い人の感性や知性のほうが、自分のそれよりも優れていると思っています。これが尊敬ということです。
リーダーは、やがて現役ではなくなるかもしれない。野球のコーチに喩えるなら、コーチは自分でホームランを打てないけれど、そのコーチから指導を受けた若い人が満塁ホームランを打てるかもしれない。リーダーは若い人がのびのびと動けるように援助していく役割を持っています。自分よりも優れた部下が育っていくことを、リーダーは喜びましょう。
部下が失敗ばかりしていても、それは部下の責任ではありません。それを叱ることは結局、リーダーが指導者、教育者として無能であるということを皆の前であらわにしているのと同じです。
尾上 叱らない関係性を築いていけるかどうかが課題ですね。
岸見 そのような関係性を築けていないと、むしろリーダーは言うべきことが言えなくなります。仕事の現場では、成績が振るわず失敗ばかりしている若い人に、「このままだったらどうなると思うかね」という言葉をかけないといけないときも、当然あります。
でも、関係性が悪ければ、若い人は「ただ侮辱された」「分かっていることをわざわざ言われた」とすごく嫌な思いをし、皮肉としてしか受け止めないでしょう。
尾上 「このままだとどうなると思う?」「これからどうする?」という声かけがちゃんと伝わる関係性ですね。
岸見 そうです。普段から、皮肉や威嚇、強制としか受け止められないような関係を築いていてはいけないということです。
また、これからリーダーになる人は、敬語をきちんと使う必要があると思っています。「命令」しないで、「お願い」をする。今どき「コピーを取ってこい」と言う人はいないと思いますが、「このコピーを取ってきていただけませんか」「このコピーを取ってくれるとすごく助かります」と伝える。これは言葉の問題ではなく、やはり対等な関係かどうかの問題だと思います。言葉遣いを少し振り返ってみると、自分が部下と対等な関係を築こうとしていたのかどうかが分かります。
構成/三浦香代子
