たくさん発売されている本のなかから、どのようなものを選べばよいのか。そして、どのように読み進めればいいのか。経済財政諮問会議議員など公職を歴任した経済学者、伊藤元重・東京大学名誉教授に、自身の豊富な経験から導き出された効果的な読書術を紹介してもらいました。経済学・経営学の本をお薦めする連載第4回。

本は2回読むと印象が変わる

 フード・フォー・ソート(food for thought)。

 これは「考えるための材料」という意味で、英文で書かれた本によく出てくる表現です。本はまさにフード・フォー・ソートで、要するに本は食べ物なんです。

 本を読む上で大事なことは、知識を得ることよりも自分で考えることだと思います。読んで考える力を養うこと = 食べて消化すること。軽く読み飛ばせるファストフードのような本だと、考える力は付きにくいかもしれませんね。だからといって、最後のまとめになかなかたどり着けない大盛り料理のような本も、消化不良に陥って自分のものになりにくいでしょう。

 早く読む本とじっくり読む本を分けて考えるといいと思います。今や、あらゆる情報をネットで集めることができる時代ですから、ちょっと気になることやすぐに解決法を知りたいことは、ネットで調べれば十分だったりします。いつでもどこでもスマホでササッと調べられて、何でも知った気になれます。ただ、だからこそ、じっくり本を読む時間を持つことの重要性が高まっていると思います。読書とは、本来、そういうものですから。

じっくり本を読む時間の重要性が高まっている
じっくり本を読む時間の重要性が高まっている
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 まとまった時間が取れるときには、ぜひ本と向き合う時間を持ってください。いい本だな、と思った本は2回読むのもお勧めです。これはよく話すことですが、1回目より2回目に読んだ方が得ることが多いからです。いい本ほど繰り返し読むことで味が出てきます。難しい本も、2回目には違う印象を持つことがあります。例えるなら、気難しくて怖いと思っていた人と食事に行ったら、案外気さくで打ち解けられた、という感じでしょうか。

 気になったところは線を引いたり、思い付いたことがあれば欄外にメモしたりしてもいいですね。その次は気になったところをノートに書き出してみてください。できれば手書きで。書き出してみると、読んだときには気づかなかった新たな発見があったり、新しい考えが浮かんできたりします。すると頭の中に定着しやすく、より自分のものにできます。

1テーマにこだわる楽しみ

 私は今、学者を半分引退したようなものなので、かつてほど読まなくなりました。以前は朝から晩まで読みふけっていました。では、すごい数の本や論文を読んでいたかというとそうではなく、20ページの論文を3日かけて読み込むことも。本は、平均すると、週に2冊ぐらいのペースだったでしょうか。

 前述の通り、本はじっくり読んだり繰り返し読んだりすることが大切。数は重要ではないと思ってるので、たくさん読んでいたときでもその程度です。いい本なら、1冊あれば1カ月でも1年でももちますから。

「いい本は繰り返し読む」と話す伊藤さん
「いい本は繰り返し読む」と話す伊藤さん
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 そんな読書歴を振り返って思うのは、ある時期にある1つのテーマにこだわったときがあったということです。例えばあるとき、私は小売業に関心を持ち、小売業に関連した本を続けて何冊も読みました。おかげで、他の人より小売業に詳しくなれました。

 この経験から感じるのは、いろんなテーマをバランスよく読まなくてもいいんじゃないか、ということです。バランスよく読んで偏りのない知識を得たい、と思うかもしれませんが、自分が関心のある分野をこだわって読むのも、読書の楽しみ方の1つだと思います。

紙と電子書籍、両方買う良さ

 そうした読み方をするには、前に読んだことがあって面白かった著者の新刊を買うのがお勧めです。 連載第2回 で取り上げた『絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか』(日本経済新聞出版)は、同じ著者が書いた別の本、『貧乏人の経済学 もういちど貧困問題を根っこから考える』(みすず書房)を読んで面白かったので購入しました。

 もちろん、人がいいと言っていた本を買ったり、書店に行って気になるものを手に取ったりしながら買うこともあります。いずれにしても、私は、最初は紙の本を買います。「最初は」というのは、この本いいな、と思ったら電子書籍でも買うからです。読みたくなったときにスマホやタブレットですぐ開ける状態にできるので。

 私の場合、大学の研究室にも自宅にも本がたくさんあって、読みたい本を探すのにとても苦労します。でも、電子書籍アプリのライブラリーであればすぐに見つかります。

 また、専門外の歴史の本などを英語で読むとき、分からない単語がたくさん出てきますが、電子書籍だとその単語をタップするだけで意味が出てきます。そのおかげで読書効率がずいぶん上がりました。さらに、老眼が進んでいるので、字を大きくできるのもメリットです。紙の本と電子書籍の両方を買うのはぜいたくですが、いい本だと思ったものは両方買ってもよいでしょう。

 読書によって、自分以外の視点に立って物事を考える力が養えます。これは、新しいことを始めるイノベーティブな力の土台になるもので、ビジネスパーソンにとって必要不可欠でしょう。まずは1冊、じっくりと向き合える本を。それが、今回紹介した3冊のなかにあるとうれしく思います。

取材・文/茅島奈緒深 写真/小野さやか