『ATTENTION SPAN(アテンション・スパン) デジタル時代の「集中力」の科学』(グロリア・マーク著/依田卓巳訳/日本経済新聞出版)は、心理学・情報科学のエキスパートが独自の研究と最新の学説をもとに「集中力」の知られざる現状を科学的に読み解き、必要な対処法を示した1冊だ。今回は、デジタル機器に触れる前に行うと効果抜群な「メタ認識」と「事前の考慮」について、同書の抜粋・再構成をもとに紹介する。

集中のコントロールに役立つ「メタ認識」

 行動の「メタ認識」のしかたを学ぶことで、集中と行動を意識レベルに引き上げ、より意図的に選択する強力なテクニックを習得できる。メタ認識とは、自分が経験していることをリアルタイムで知ることだ。

 これは例えば、仕事中に画面を切り替えてニューヨーク・タイムズの記事を読むという選択を意識する、というように、自分の体験をオンタイムで知ることである。逆に、TikTokを見ているうちに時間がたつのを忘れたり、インターネットから抜け出せなくなったりするのは、自分の行動をメタ認識できていない証拠だ。

 メタ認識は、自分の行動やその動機をより深く検討するための分析的な考え方だ。自分の行動を客観的に観察し、それによって習慣化された行動を、意識的なレベルに引き上げるのだ。

 私は研究者として、人間行動を観察する訓練を積んできたが、あるときからその手法を自分の行動にも適用できるのではないかと考えるようになり、実際に試してみたところ、自分のオンラインでの行動をより深く理解し、以前より意識的に行動できるようになった。自分を客観的に捉えることは誰にでもできる。それは磨くことのできるスキルなのだ。

 人は自分が選択するものの価値や、何かをする際に必要な時間を見誤ることがある。しかし、自分の行動にもっと意識的になれば、このようなフレーミングエラーも避けられる。例えば、ソーシャルメディアを見る前に、「このサイトを見ることで何が得られるか」と自問してみよう。

 すでにクリックしてしまったあとなら、「私はここでどれだけの時間を費やしたか? これを見続けることで何か得られるものはあるか?」と自分に問いかけてみよう。メタ認識を用いると、自分の集中を受動的なものから能動的なものに切り替えることができる。私はこのような自問自答を意識的に行うことで、漫然とネットニュースやソーシャルメディアを眺める習慣から脱することができた。

自問自答することで、漫然とソーシャルメディアを眺める習慣から脱することができる(PixieMe/stock.adobe.com)
自問自答することで、漫然とソーシャルメディアを眺める習慣から脱することができる(PixieMe/stock.adobe.com)
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 こうした分析的な考え方はいつでも活用できるものだが、特に次の3つの場面で有効だ。(1)自分の認知リソースのレベルを知りたいとき、(2)自分の仕事とあまり関係のないソーシャルメディア、ニュース、ショッピングサイトを見たくなったとき、(3)単純な慣れた活動をしていて、それがまだ有益かどうかを判断したいとき、である。

 集中リソースが減っていないか、あるいは休息が必要かを知るために、メタ認識を活用しよう。私は以前、十分な休息も取らずに1日中働き続け、疲れきってしまうことがよくあった。しかし今では「自分はどう感じているか?」「働き続けようか、それとも疲れているからやめようか?」「エネルギーを補給する必要があるか?」と自問自答することで、自分の認知リソースのレベルをより深く意識し、消耗しきってしまう前に休息を取れるようになった。

 もちろん、認知リソースが減ると、ついソーシャルメディアを見たり、単純なゲームで遊んだりすることもあるだろう。それはそれでかまわない。頭を使わない慣れた活動は、短い休息にはぴったりだ(何より効果的なのは、席を立って動き回ることだ)。

 しかし、ソーシャルメディアや単純なゲームをしているときでも、それを切り上げるタイミングを意識できるようになる。例えば、こう自分に問いかけてみよう。「エネルギーは補充されたか、それとも、嫌な仕事を避けようとしているだけ?」「そうだとしたらその原因は何か? 誰かに助けてもらえそうなことはないか?」「ソーシャルメディアを見てしまうのは、仕事がつまらないから?」

自問自答で「メタ認識」を鍛える

 こうして自分の行動を分析することで、私たちは集中の罠(わな)から抜け出しやすくなる。自問自答を続けることで、自分自身を観察するプロになれるのだ。

 例えばニュース記事を読んでいるときは、次のように自問してみるといいだろう。「話の概略はつかめたか?」「まだ何か興味深いことがあるか?」「読み続けても新たに得られる情報は減る一方?」。その答えがイエスなら、読むのをやめよう。これで深刻なサンクコストの罠にはまりこむことは避けられるはずだ。

 メタ認識を習得することは、筋肉を鍛えるようなものだ。最初は立ち止まって自問することを忘れても、練習を重ねるほど自然にできるようになる。例えば、自分への簡単な質問を付箋に書いて、見えるところに貼っておくことから始めてもいい。行動のメタ認識がうまくなれば、それだけ意識的な行動が取れるようになる。実践を重ねるうちに、自分の行動に対する分析的な考え方が身に付くはずだ。

集中力を高める「事前の考慮」

 「事前の考慮」も、集中力を高めるための主体性を習得する上で役立つ。事前の考慮とは、自分の現在の行動が、将来どのような影響を与えるかを想像してみることだ。このプロセスも、自らの行動をもっと意識的なものにする。

 ソーシャルメディアを見たりオンラインゲームをしたりする前に、一度立ち止まってその日の終わりの様子を想像してみよう。自分の行動習慣をよく理解していれば、ソーシャルメディアやニュースサイトの視聴に自分がどの程度の時間を費やすか、見当がつくだろう。

 ソーシャルメディアに没頭しやすい自覚がある人は、SNS(交流サイト)を20分(または2時間)見ることが数時間後の自分の仕事(や私生活)に与える影響を思い描いてみよう。例えば、あなたがパワーポイントでプレゼン資料を作り、メモを書き出し、メールを処理し、Slackでチャットし、さらには新しいアパートも探すという複数の仕事をこなさなければならないとしよう。

 ソーシャルメディアは見たいが、一度見始めたら軽く1時間は離れられなくなることは分かっている。だから、そうならないように、SNSに1時間費やすとどうなるか、想像するのだ。その日の終わりに、あなたの手元には完成したプレゼン資料があるだろうか。それとも、無駄にした時間を取り戻すために残業しているだろうか。

 あなたが学生であれば、この事前の考慮はとりわけ重要だ。大学生を対象とした私たちのある研究では、ソーシャルメディアが学生から膨大な時間を奪っていることが分かった。深夜2時の自分の様子を思い描いてみてほしい。ぐっすりと眠っているだろうか、それともソーシャルメディアに夢中になってしまったせいでまだ宿題をしているだろうか。後悔している姿が目に浮かぶ? 今この瞬間の先まで思考を広げ、自分の行動が1日の終わりに何をもたらすかをよく考えよう。

 目標を持つことは重要だが、その目標に到達するまでの具体的なイメージを視覚化できなければ、抽象的で心に残りにくいかもしれない。自分がどんな感情を抱くかといったことでもいい。視覚的なイメージが詳細であればあるほど、必要なときに軌道修正しやすくなる。ソーシャルメディアの視聴に時間を費やした影響を、短期的または長期的に思い描くことが、集中先を切り替えようとするときの適度な抵抗になる。

 将来を視覚化することで、自分の現在の行動がどのような結果をもたらすかを意識できるようになる。その際は、将来の明確なイメージ(宿題を終えている、リラックスする時間がある、Netflixのドラマの次のエピソードを見ている、寝る前に本を読んでいるなど)が目標を見失わないための動機づけになるだろう。

寝る前に本を読んでいるなどの明確なイメージが、大切な動機づけになる(写真:Syda Productions/stock.adobe.com)
寝る前に本を読んでいるなどの明確なイメージが、大切な動機づけになる(写真:Syda Productions/stock.adobe.com)
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私たちの集中時間(アテンション・スパン)は、日ごとに短くなっている──。スマホやPCなど、デジタル機器が人間の生活に与える影響を長年考察してきた心理学・情報科学のエキスパートが、独自の研究と最新の学説をもとに解き明かす。

グロリア・マーク著/依田卓巳訳/日本経済新聞出版/2420円(税込み)