『ATTENTION SPAN(アテンション・スパン) デジタル時代の「集中力」の科学』(グロリア・マーク著/依田卓巳訳/日本経済新聞出版)は、デジタル機器が人間の生活や感情に与える影響を研究し続けてきた心理学・情報科学のエキスパートが、現代の「集中力」の現状を解明し、必要な対処法を示した1冊だ。今回は集中力の源となる「認知リソース」を最大化する1日のスケジュールの立て方について、同書の抜粋・再構成をもとに紹介する。

より良い心理的バランスをかなえるために

 私たちは、現代のデジタル世界にふさわしい1日のスケジュールの立て方を学び直す必要がある。それは自分を疲弊させず、幸福度を高める戦略を考え、自分の集中のリズムや、集中の源となる認知リソースは限られているという事実をよく理解することでもある。

 以下では、より良い心理的バランスを実現するためのいくつかの戦略を紹介しよう。

 私は一貫して、認知リソースを消耗させる活動もあれば、補充する活動もあるという認知リソース理論を、日常生活に応用してきた。認知リソースは有限であることをよく理解した上で、1日を設計しよう。リソースを補充する時間を十分に取れば、ストレスや注意散漫が減って、よりクリエイティブになれる。

 現実世界では、家族や友人と過ごしたり、イベントを手配したり、自然散策をするなどの様々な活動が、私たちの身体的エネルギーに影響を与えることが分かっている。では、デジタル世界で精神を消耗させるものは何か。認知リソースを補充するために何をすればいいのか。リラックスするためにはどんな「単純な活動」が有効か。

 1日の終わりに活力に満ち、ポジティブな気分でいたいなら、夕方に自分のリソースを使い果たしてしまうような事態は避けなければならない。翌日にストレスが持ち越されてしまうと、私生活にも影響が生じるからだ。自分の行動が貴重な認知リソースにどのような影響をもたらすかを考え、1日の計画を立てよう。

 まず、自分の仕事を全体的に捉えることから始めよう。

 複数の案件をパズルのように組み合わせ、難しい案件が続いて集中力に負荷をかけないようにする。集中状態が長く続くと消耗してしまうことも忘れてはいけない(一般的な知識労働でフロー状態になれることはほとんどない)。

 1日をどのような仕事で始めたいだろうか。多くの人は、難しい仕事に取りかかる前にウオーミングアップとして慣れた仕事から始めようとする。

 例えば、会議について考えてみよう。その日の会議はあなたの認知リソースにどんな影響を与えるだろうか。できることなら、複数の会議を連続して入れることは避けたい。それは間違いなくあなたを消耗させるからだ。オンライン会議の問題点は、次々とスケジュールを詰め込んでしまい、その間にリセットするチャンスが少ないことだ。

 重要な長い会議の前には、簡単でポジティブな報酬が得られることをして、会議後もリソースを補充できることをしよう。友人とのやりとりや、単純な活動をするのもいいが、一番のお薦めはやはり散歩だ。午前11時に疲れ果ててしまわないように、あなたの貴重な精神的エネルギーを様々な活動に適切に配分しなければならない。

重要な長い会議の前には、簡単でポジティブな報酬が得られることをしよう(写真:Prostock-studio/stock.adobe.com)
重要な長い会議の前には、簡単でポジティブな報酬が得られることをしよう(写真:Prostock-studio/stock.adobe.com)
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自分の集中のピーク時間を知る

 自分の集中のリズムに合わせて1日のスケジュールを立ててみよう。自分の集中のピーク時間を知り、集中を必要とする仕事にその時間を充てる。ピーク時間は各人のクロノタイプ(自然な時間のリズム)で決まるので、まず、自分のクロノタイプを知ることだ。

 私たちの実験でも、ほとんどの人は午前11時ごろと午後3時ごろに集中のピークがあることが分かった。朝型のピークは午前11時より早く、夜型は昼過ぎになっても本調子ではないかもしれない。最も努力と創造性を必要とする仕事を自分のピーク時間に持ってこよう。

 そして、ピーク時間にはメールを開かないこと。貴重な認知リソースはもっと重要な仕事に使ったほうがいい。メールはストレスを伴うので、出勤時や退社前など、集中のピークではない時間帯に見るようにしよう。

 そもそもメールは時間の経過とともにすぐに内容が古くなるので、退社前にチェックすれば多くの問題はすでに解決しているかもしれない。時系列を遡ってメールをチェックしてみると、ほとんどの問題が解決ずみであることが分かるだろう。そして、就寝前には絶対にメールをチェックしないこと。さもなければ、ストレスをベッドに持ちこむことになる。

 ちなみに私自身は、朝はまずニュースのヘッドラインに目を通し、それからメールの受信トレイを確認する。しかし、ここでメールを開いて読んではいけない。あとで読むために重要なメールだけを振り分けるのだ。メールを読めばそれが未完のタスクになって、返信しなければとずっと考えてしまう。

 自分の集中のピークに、最もクリエイティブな仕事を充てよう。自分の集中力の計測ゲージがはっきりとイメージできていれば、例えば税法を学ぶことに時間をかけすぎてしまうと、認知リソースが減って他の重要な仕事にも影響が及ぶことが分かる。もちろん、難しい仕事に時間を割かなければならないときは、あなたが疲れていない時間帯を選ぶようにしよう。

 自分のリソースが有限であることを理解していれば、長い記事を読み始めてもサンクコストの罠(わな)にはまる前に切り上げることができる。記事を読み終える時間がないことを知っていれば、そもそも読もうとしなくなるだろう。集中先が移ろう「動的集中」に陥りやすいのは、たいてい1日の終わりである。リソースが枯渇し、注意散漫に対する抵抗力が落ちるからだ。

リセットに必要な「ネガティブスペース」

 1日のスケジュールに「ネガティブスペース」を設けよう。アートの世界では、中心となるイメージの周辺のスペースのことをネガディブスペースと呼ぶ。もちろん、これも作品の大切な一部だ。

 日本では「余白の美」などとも呼ばれるが、絵画や庭園のデザインで、対象物のまわりに美しくダイナミックなスペースを設ける。音楽のなかで意図的に設けられた静寂に近く、これも曲の重要な一部である。

 1日のスケジュールを立てるときも、困難な仕事の前後に意識的にこのネガティブスペースを設け、休息を確保しよう。それによってあなたの集中力をリセットし、一気に集中を高めることができる。メタ認識を使って認知リソースが減っていないかを確かめ、もし少なくなっていたら、リソースを消費しないような(単純で頭を使わない)別の作業に切り替えたほうがいい。それがポジティブな感情や報酬をもたらしてくれる。

 バランスを調整し、ストレスをためすぎないようにしてくれるネガティブスペースは、仕事と同じくらい重要なものだ。

 ストレスのスイートスポットとも呼べる自分の覚醒の最適領域を見つけよう。難しい仕事とネガティブスペースを組み合わせ、散歩や単純な活動で適度な息抜きをして、そのスイートスポットにできるだけ長く留まれるようにしよう。実践を重ねるうちに、自分のリズムと集中リソースの減り具合が分かるようになるはずだ。

散歩や単純な活動で適度な息抜きをしよう(写真:Jacek Chabraszewski/stock.adobe.com)
散歩や単純な活動で適度な息抜きをしよう(写真:Jacek Chabraszewski/stock.adobe.com)
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私たちの集中時間(アテンション・スパン)は、日ごとに短くなっている──。スマホやPCなど、デジタル機器が人間の生活に与える影響を長年考察してきた心理学・情報科学のエキスパートが、独自の研究と最新の学説をもとに解き明かす。

グロリア・マーク著/依田卓巳訳/日本経済新聞出版/2420円(税込み)