新型コロナウイルス禍の影響が続く中、生命保険の保険料負担に悩む人たちがいる。なぜ、年間数十万円にも達する契約を結んでしまうのか? 保険コンサルタントの後田亨氏は「実は、ほとんど常識で解決できる」と言う。
 今回は、顧客に与える影響が大きい販売員との関係について。後田氏の著書『生命保険は「入るほど損」?!<新版>』で紹介された、簡単で強力な「販売員を遠ざける方法」をご紹介する。

「利益相反」する生保販売員と顧客の関係

 「ほとんど『人災』と呼んでいいのではないか」――十数年間、一般の方の生命保険に関する相談に対応しながら、私が実感していることです。

 「月々の保険料負担が重い」「勤務先の保障制度を無視して、高額な保障を勧められた」「『預金より有利』と言われたが、解約すると大きな損が出る」といった問題は、保険会社の営業担当者や銀行窓口なども含む代理店(以下、販売員と総称)との接点がなければ、発生しなかった可能性が高いからです。

 販売員に頼りたくなる人たちの気持ちは分かるつもりです。保険の場合、日用品のように商品の品質などを、目で見て手にとって確認するようなことができません。
 一方で、印象的な体験談などに接する機会は少なくないため、自分の選択・判断に自信が持てず、販売員に相談する人が多いのではないでしょうか。

 そこで人災が発生しやすくなるのです。もともと、販売員と顧客は「利益相反」の関係だからです。保険は「お金(保険料)でお金(各種給付金など)を用意する仕組み」なので、代理店の報酬なども含む会社側の経費や利益が多くなると、顧客に還元されるお金は減ります。

 販売員には手数料を稼ぐ強い動機があります。新規契約の多寡により収入や評価に影響を受けるからです。また、歩合部分の報酬は、保険料に連動することが多いので、月々数千円程度のいわゆる「掛け捨て」の保険に加えて、月々数万円を積み立てる資産形成目的の保険を勧めたくなる事情もあるのです。
 銀行などで退職金や余剰資金の運用を相談すると、保険料を一括して支払う運用目的の保険を案内されるのも当然です。例えば、投資信託よりも保険の販売手数料は一桁大きいからです。

 こうした販売員の都合に悩む人たちもいます。例えば、数年前まで銀行窓口で働いていた人は「ある外貨建ての『変額個人年金保険』に退職金1000万円を払ってもらうと、手数料が70万円。いきなり原資が930万円に減ってしまう。このような商品を売り、お客様に損をさせるのが仕事かと思うと続けられなかった」と言います。

 また、ある外資系保険会社の営業担当者も「老後資金準備にはiDeCo(個人型確定拠出年金)などを優先すべきだが、会社は(保険料を外貨で運用する)外貨建て保険や(保険料を投資信託で運用する)変額保険の販売を推奨する。どちらも手数料が高く、運用に回るお金が少ないので、資産形成には向かないのにひどい話だ」と言います。

 ほかならぬ筆者も、顧客との利益相反を問題視し、10年ほど前に販売員の仕事を辞めました(ただし、筆者の場合、「どこまでも顧客本位でありたい」というより、「保険会社に貢献するのは嫌だ」という消去法でした)。

「会社側の取り分はどれくらいありますか?」

 余計な契約を結ばないためには、販売員との接点を持たないようにするのが賢明です。やり方は簡単です。「会社側の取り分はどれくらいありますか?」と尋ねるだけです。

 保険の種類などは関係ありません。医療保険やがん保険であっても、貯蓄・運用目的の保険であっても、たった1つの質問をするだけでいいのです。情報が開示されていないので、返答できるとしたら、商品設計の専門家くらいでしょう。販売員は誰も答えられないので、商談は進まなくなってしまうのです。

 同じ金融商品でも投資信託では、販売手数料や運用にかかる費用などが開示されている事実を知ると、保険の現状は不可解かつ不親切だと感じます。

 そこで、一般の人たちから販売員に「会社側の取り分」を尋ねてほしいのです。仮に「販売手数料など『自分の取り分』は分かる。でも保険会社の経費や利益になる部分についてはまったく分からない」と答える人がいても「お金の使い道が不透明なのは納得できないのでやめておきます」と言えます。

 貯蓄目的の保険の場合、契約初年度に営業担当者や代理店に支払われる手数料が分かるだけでも構いません。例えば、月払い契約の外貨建て保険や変額保険では、初年度の代理店手数料率は30~70%くらいのことが多いので、具体的な数字が分かれば、他の情報は不要です。

 仮に初年度の代理店手数料率が50%であれば「25年でならしても毎年2%の手数料が引かれる計算だ。お金が増えにくいに決まっている」と言えるからです。

 もちろん、確率の問題で、保険から給付金を受け取るような事態は、人を選ばず、きょう・あすにでも起こります。そのため「情報開示を待っている場合か? 保険料は安心料だろう」と感じる人もいるかもしれません。だからこそ、会社側の取り分が不明な場合、手を出さないことにするのです。「安心のために」とあらゆるリスクに備えると、お金がいくらあっても足りないからです。

 ひょっとしたら「的外れな質問だ。保険料は給付金を支払う確率や運用利回りなどの『見込み』から設定されているので、最終的に会社側の取り分がどれくらいになるのか、分かるほうがおかしい」といった返答もあるかもしれません。

 その場合「では、見込みを知りたい」と言いましょう。複数の商品設計の専門家によると、金融庁から商品の認可を受ける際、「保険会社にとって、十分、余裕がある保険料設定になっているのか」確認されるそうですから、情報を共有させてもらうのです。

「会社の取り分」を尋ねることで、生保の販売員を退散させることができる(polkadot_photo/Shutterstock.com)
「会社の取り分」を尋ねることで、生保の販売員を退散させることができる(polkadot_photo/Shutterstock.com)

1万円払って6000円未満の給付を受ける仕組み

 例えば「経費や利益を引くと、保険料のうち、給付に回るのは60%未満の見込み」といった説明があると、「1万円で6000円弱の受給権を買うようなもの?」と考えることができます。

 「給付に回るお金が60%未満とはほとんど暴利ではないか?」と感じる向きもあるかもしれません。しかし、現実離れした話ではありません。この例はライフネット生命の開示情報を元に書いているからです。
 同社は、保険料に見込みで含まれる会社の運営費を賄うお金(付加保険料)の割合を例示しています。2021年度の同社のディスクロージャー誌に掲載されている「代表的な契約例における付加保険料」の表によると21%から45%です。

 ただし、付加保険料率21%の契約例から「保険料の79%が給付金に使われる」と見るのは間違いです。同社に限らず、あらかじめ給付額を高めに見込んでおくことで会社側に残るお金もあるからです。
 実際、同社の20年度決算説明資料を確認すると、保険料から各種給付金などを支払い、さらに将来の給付金などの支払いに備えるお金を積み立てた後に残るお金の割合は、19年度で45%、20年度で43%に達しています。

 あくまで単年度の数字なので、加入者の加齢に伴い給付額が増え、会社側に残るお金の割合は減るという見方もできます。しかし、将来の給付のために積み立てるお金には、加入者が高齢化していく傾向も反映されているでしょうから、劇的には変わらないかもしれません。

 いずれにしても「インターネットで保険を販売できるので、経費を抑えられる」とうたっている会社の商品でも「1万円払って6000円未満の給付を受けるような仕組み」とみられそうなのです。
 一定期間の死亡保障がある「定期保険」の場合、大手生保の商品では、実に保険料の70%超が会社の経費や利益になると試算される例もあります。

 08年にライフネット生命が付加保険料を開示して以降、他社が情報を開示しないままなのは、合理性が疑われる料金設定になっているからかもしれません。

 したがって、「保険会社側の取り分」を聞くのは、販売員による人災の防止に加え、保険料の適正化にも役に立つのです。

 なお、仮に販売員との接点がなくなっても、正しく保険と付き合うことは可能です。予想以上に簡単だと思います。
 次回、ご説明します。

日経ビジネス電子版 2021年10月21日付の記事を転載]

「医療保険やがん保険は、ギャンブルより損が出やすい」「貯蓄性がある保険は、お金が増えにくい」――。

「高額商品」であるにもかかわらず、生命保険はその中身が分からない「ブラックボックス」だ。保険の有料相談を行う保険コンサルタントである後田氏が、具体的な商品を取り上げながら、生保のカラクリを明らかにして好評を博した同名書の最新版。「結局、その保険に加入するのは得なのか?」が分かり、「いつの時代にも通用する根本的な保険との付き合い方」を学ぶことができる1冊。

後田亨(著) 日本経済新聞出版 1650円(税込み)