「最強」の保険は、マネー誌やビジネス誌の「生命保険商品ランキング」には掲載されないことが多い。保険販売に関わる人を読者と想定し、商品ありきで作られている一面もあるからだ。本稿では後田亨氏の著書『生命保険は「入るほど損」?!<新版>』で取り上げられた、一般の人が真に知るべき保険をご紹介する。

 「正直、雑誌の生命保険のランキングは『商品ありき』で作っています。保険業界関係者による一定部数の購入も見込めるので、定番企画になっているわけです」

 ある媒体の方に「貴誌のランキングは代理店などが扱う商品に偏っているのでは?」と質問したところ、上記の返答をいただきました。
 ランキングに投票しているファイナンシャルプランナーには、保険代理店の仕事に関わっている人が少なくないせいか、大手企業の勤務先で加入できる保険などは無視されがちなのです。

 そこで、本稿では保険販売に関わる人たちが積極的に言及しない保険も含め、ジャンル別に筆者が「最強」と考える保険をご紹介していきます。

1 死亡保険

 一定期間、自立していない子供がいる世帯主の死亡に備える保険は、数ある保険の中で最も検討に値すると思います。
 例えば、妻と子供が1人いる会社員が亡くなった場合、子供が18歳になるまで国から給付される遺族年金の額は、年収により月額11万~15万円程度だからです。

 死亡保険を検討する際、まず確認したいのは、勤務先の保障制度です。大手企業の場合、「育英年金」「死亡退職金」などが社員の遺族に給付されることがあります。
 実際「自分に万が一のことがあっても、住宅ローンは『団体信用保険』で完済され、国の遺族年金と会社からの給付金で、子供が自立するまでの生活費はほぼ賄える」と語る会社員もいます。

 次に見逃せないのが、特定の企業や業界団体に案内されている「団体保険」や各種「共済」制度です。一般個人に販売されている保険より格安で提供されていることが多いからです。
 保険会社の内勤部門では「団体保険で子供が自立するまで死亡保障を確保し、他の保険には入っていない」人が少なくない事実も付記しておきます。
 団体保険が利用できない人は、保険金を月額で設定できる「収入保障保険」が有用だと思います。遺族年金に10万円上乗せするといった使い方をするわけです。

 筆者に幼い子供がいたら、(最安値が期待できる)FWD生命の「FWD収入保障」を含めた相見積もりを代理店に依頼し、商品を選びたいと思います。

最強の医療保険とは?

2 医療保険・がん保険

 「医療保険」「がん保険」については、「健康保険」が最強です。「高額療養費制度」があるからです。複数の媒体で書いた、医療保険とがん保険の商品設計に関わっている専門家の言葉を改めてご紹介しておきます。

 「高額療養費制度で医療費の自己負担額には上限があります。それなのに、なぜ、がん・三大疾病など病名別に商品が存在するのか、僕にはさっぱり分かりません。60代の友人たちにも『老後の医療関連リスクには、健康保険と自己資金で備えるのが賢明』と助言しています」

 筆者も同感です。日経ビジネスの読者の方には、勤務先の健康保険組合に独自の「付加給付」があり、仮に月初から月末まで100万円の医療費がかかっても、自己負担限度額は2万円程度になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 特にリスクが高まる老後の医療保障など、民間の保険に頼りたくなる人たちの気持ちは分かるつもりです。しかし、保険会社から給付を受けるには、会社側の経費や利益も負担する必要があります。私は各種データや専門家の証言から、医療保険やがん保険は「1万円を用意するのに1万5000円から2万円強の保険料を払う」仕組みと見ています。
 商品設計の専門家も「民間の保険商品で備えると費用が高くつく」点を重視し、医療費などは健康保険と自己資金での対応が正解だと言っているのです。

 したがって、「医療保険」や「がん保険」が検討に値するとしたら、貯蓄が少ない現役世代くらいでしょう。入院や大病が他人事ではなくなる世代は「発生しがちな事態に手ごろな保険料で備えられるわけがない」と常識で考えてほしいと思います。

 本稿では詳述しませんが、「介護」や「認知症」に備える保険についても考え方は同じです。「長寿化が進み給付対象になる人が増えるのであれば、民間の商品で合理的に備えるのは難しいはず」と認識すべきでしょう。
 現役世代が期間限定で入院などに備えたい場合、都道府県民共済の「入院保障型」を利用する手があると思います。決算の実績から、民間の制度としてはおそらく最も運営側の取り分が少ない良心的な仕組みと見られるからです。
 掛け金2000円の場合でも、決算時の剰余金が9割以上払い戻しされているので、実質的な負担は1400円未満になります。「新がん特約」を付加するのもありかと思います。

働けなくなったときに備える

3 就業不能保険

 長期間、病気や怪我(けが)で働けなくなったとき、収入を補填する「就業不能保険」は、検討に値すると思います。ただし、会社員や公務員の場合、健康保険でほぼ足りると考えられそうです。大まかに言うと、欠勤4日目から最長1年6カ月、標準報酬日額の3分の2が給付される「傷病手当金」があるからです。

 全国健康保険協会の「現金給付受給者状況調査(2020年度)」を見ると、保険加入者総数に占める傷病手当金受給者の割合は、例年1%程度です。また、支給期間を見ると60日以下が36%、63%が180日以下となっています。

 一方、民間の「就業不能保険」では、給付対象にならない期間が60日や180日に設定されています。また、健康保険と違って、持病がある人などは加入しにくいので、単年度の給付率は1%を大きく下回るはずです。

 保険数理の専門家によると、死亡保険金の単年度の給付率が0.3%程度とのことですが、就業不能保険の給付率もそれに近いのではないかと推察します。したがって、会社員の休業補償は傷病手当金が一番でしょう。

 「傷病手当金」がない「国民健康保険」の加入者の場合、就業不能保険の必要性は増すかもしれません。とはいえ、自営業者である筆者は、傷病手当金の支給期間の分布から「1年くらい暮らしていけるお金を蓄えておくほうが良い」と判断しています。
 361日以上給付を受けている人の割合は0.17%未満で、死亡保険金の給付率の半分くらいと見られるからです。

 それでも加入を検討する場合、個人向け商品では、保障内容と保険料のバランスから、アクサダイレクト生命「働けないときの安心」が良いと思います。

 また、勤務先に「団体保険(長期所得補償保険)」がある会社員は、そちらを優先するといいでしょう。

本当の「最強の保険」は、ランキングに登場することはない(Gearstd/shutterstock.com)
本当の「最強の保険」は、ランキングに登場することはない(Gearstd/shutterstock.com)

貯蓄商品には手を出さない

4 貯蓄商品

 貯蓄商品は視野に入れないほうが無難です。「手数料が高く、積み立てや運用に回るお金が少ない」仕組みだからです。保険料を外国債券や投資信託で運用する「外貨建て保険」「変額保険」は特に手数料が高いので、貯蓄・運用目的での利用は厳禁と書いておきます。

 例外としては、明治安田生命「じぶんの積立」があります。5年間、保険料を積み立て、さらに5年間据え置いて、解約すると払戻率103%が約束されています。

 お金の増え方に魅力は感じませんが、元本割れ期間がないので、生命保険料控除目的での利用はありでしょう。

5 相続対策のための保険

 一生涯の死亡保障がある「終身保険」は相続対策に有用です。遺産分割・納税資金準備・節税のいずれにも使えます。具体的にはソニー生命の変額終身保険「バリアブルライフ」を基準に比較検討するといいでしょう。保険料が安いからです。

 以上、検討に値する民間の保険は極めて限られている、とまとめておきます。
 「筆者が加入している保険」については、8回目に書きます。

日経ビジネス電子版 2022年3月28日付の記事を転載]

「医療保険やがん保険は、ギャンブルより損が出やすい」「貯蓄性がある保険は、お金が増えにくい」――。

「高額商品」であるにもかかわらず、生命保険はその中身が分からない「ブラックボックス」だ。保険の有料相談を行う保険コンサルタントである後田亨氏が、具体的な商品を取り上げながら、生保のカラクリを明らかにして好評を博した同名書の最新版。「結局、その保険に加入するのは得なのか?」が分かり、「いつの時代にも通用する根本的な保険との付き合い方」を学ぶことができる1冊。

後田亨(著) 日本経済新聞出版 1650円(税込み)