生命保険は今も昔も対面販売が主流だが、営業現場は想像以上に顧客不在だ。今回は、後田亨氏の著書『生命保険は「入るほど損」?!<新版>』で取り上げられた「おいしい客」の特徴を通して、販売員の事情などをキレイごと抜きでご紹介する。

 保険販売に関わる人の報酬体系は様々です。ただ、新規契約の獲得が大きく評価される点は共通しています。

 「営業効率」「成果の大きさ」などを考えると、どんなお客様が狙い目でしょうか。筆者自身の営業経験と現役の販売員たちと意見交換する中で出てきた話から浮かび上がってきたのは、5タイプの顧客像です。

保険の「おいしい客」① お金を持っている

 一般に販売員の増収には、獲得した契約の保険料が高いことと、短期解約が少ないことが重要です。したがって、長期間、高額な保険料負担に耐えられる人は魅力的な見込み客になります。

 実際、ある外資系保険会社の販売員は「非正規の派遣社員などは最初から相手にしない。契約の継続率に不安がある。差別ではなく選別」と言い切ります。
 また「優良企業の社員の伝手(つて)をたどっていくのが王道。高い役職の人ならなお良い。お金持ちの知り合いはお金持ち」と言う人もいます。

 お金があれば保険は不要なのではないか、と感じる人もいるかもしれません。しかし現実は違います。「入院時は絶対に個室に入りたい」といった理由で、差額ベッド代目的で複数の保険に加入し、日額3万円の保障を確保するようなケースがあるのです。

 ほかにも、販売員の間では「時間ばかりかかって、高額契約獲得は難しい庶民の相手は通販やネット生保に任せる」という声も聞かれます。

 歩合制の販売員は、大会社の看板を借りている個人商店のようなものです。「お金持ちしか相手にしない」人ばかりではないとしても、背に腹は代えられなくて当たり前と認識したいところです。

保険の「おいしい客」② 面倒なことが嫌い

 保険について自らネットで調べたり、提案された保険について別の販売員から相見積もりを取ったりするようなことをしない人です。
 こうした人たちには「一般の人が保険について正しい選択をするのは大変です。ぜひ、お手伝いをさせてください」とアピールしやすくなります。

 また、自発的に情報収集を行わない人の場合、判断材料が限られるため、販売員の好感度で、契約の是非を決める傾向もあります。「商品ではなく人で選ぶ」というわけです。
 確かに、高齢のお客様であれば「孫かペットの話を振って聞き役に徹し(人として)気に入ってもらえば、契約は後からついてくる」と笑う販売員もいます。

 さらに「大手」や「銀行」といったブランドに弱い一面もあります。「商品はよく分からないから、会社で決める」のです。

 実は、現状、大手や銀行で買うべき保険はほとんどありません。大手の保険料は相対的に割高で、銀行は手数料が高い商品を優先して薦めているからです。

 しかし「大手だから(人・モノ・サービスなどが)良いとは限らないのではないか?」などと考えること自体、気が進まない人もいるのです。結果として保険選びの時間と手間をお金で買ってくれるため、販売員にはありがたい存在です。

保険の「おいしい客」③ 不満を抱えている

 「預金金利が低い」「保険の担当者が訪問してこない」といった不満を持つ人たちも歓迎されます。

 「今の契約に100%満足。何も言うことはない」人では、次の展開が見えないからです。逆に、現状に納得していない人が、尋ねてもいないのに話し続ける商品やサービスへの不満は、その人を「攻略するポイント」そのものなのです。

 「なるほど」と思いを受け止めておき、預金金利が不満な人には「長期的には預金より有利な貯蓄商品」を、担当者が訪問して来ないことが不満な人には、訪問販売における学びや喜びなどを語り、継続訪問を約束するわけです。

 そもそも、保険金請求が断られたばかりでもない限り、人が不平不満を言い続けていられる時間は長くありません。知人の販売員にも「苦情処理、大好き」と言う人がいます。「お客様と一緒に会社への不満を語れば簡単にお友達になれる」からです。

 自分に落ち度がない話を聞くばかりではつまらないので、「確かにうちの会社には理解に苦しむ。新規契約重視の報酬体系なのに、アフターフォローは万全とかよく言える」などと話し、お客様と思いを共有しつつ継続訪問につなげるのです。

 営業の仕事で難しいのは、見ず知らずの人に同じテーブルについてもらうことです。しかし「不満を持つあなたと思いは同じ私」であれば、ハードルが下がります。

 尋ねてもいないのに自分のツボを教えてくれる人は、「とても助かる人」なのです。

販売員の事情を知ることで、「おいしい客」にならずに済む(polkadot_photo/shutterstock.com)
販売員の事情を知ることで、「おいしい客」にならずに済む(polkadot_photo/shutterstock.com)

保険の「おいしい客」④ テレビが情報源

 ある販売員によると「紙媒体やネットで情報収集する人に比べ、テレビに頼っている人は情報量に左右されがちで話が早い」そうです。

 例えば「よくCMで見るから安心」というイメージ先行型の人には、保険料が割高でも認知度が高い保険会社の商品が提案しやすくなります。逆のタイプの人には「プロが好みます」と、あえて情報が少ない会社の商品を薦めるのです。

 「入院が心配だから医療保険を検討すべきだ」「がんは人ごとと思えないのでお薦めの保険を教えてほしい」と言う人たちは、CMなどの文脈に沿って保険を考えています。したがって、不安材料を確認したら、すぐに商品を提示できるので楽なのです。

 来店型保険ショップを利用して「様々な会社の保険から良いものを選んでくれるとはいえ、ずいぶん高額なプランを提示され驚いた」と言う人が多いのもこのタイプです。
 人が集まりやすい場所に店舗を構え、大量広告で認知度を高め、無料で相談に応じる業態であれば、高額契約を提示されて当然、とは考えないのです。

 筆者は2008年以降、様々な媒体で情報発信をする機会に恵まれていますが、テレビが最も「言えないこと」が多いと認識しています。
 保険会社や銀行などの金融機関は、テレビ局の重要な広告主ですから、広告主に都合が悪い情報は発信されにくい状況なのです。そのため、テレビが情報源になっている人は、いつのまにかセールストークに乗りやすい状態になっていることが多いのではないでしょうか。

保険の「おいしい客」⑤ 寂しい人

 最後に付け加えておきたいのが「寂しい人」です。心外だ、大きなお世話だ、と感じる人もいるかもしれません。
 しかし、重要なことだと思うのです。もとより、手数料ビジネスにおける販売員とお客様は「利益相反」の関係だからです。

 営業成績には締め切りもあり、面談時間相応の成果が求められますから、お客様の側からすると、担当者と過ごす時間が長くなるほど危険だとも考えられます。販売員が「手ぶら」で帰りたいわけがないからです。
 それなのに「近くまで来たので……」といった理由(口実です)で訪問してくる販売員を、繰り返し自宅や職場に迎え入れる人がいるのです。

 うまく言えませんが、世の中には「誰かに構ってもらいたい人たち」がいるのだと思います。販売員は、そんな人たちを相手に好感度が高い接遇を行う強い動機を持っています。技術もあります。構ってくれるどころか、心地よい会話ができたりするのです。

 一歩引いてみると、とても怖いことだと感じます。時間制の接遇料でも発生しない限り、高額商品の購入に誘導される可能性が高いからです。

 販売員に対してどこかガードが甘い状態になっている人たちは、悪い人たちではないと思います。性善説に立っている人が多いのかもしれません。しかし、そういう人を単に「御しやすい商談相手」と見る販売員もいることをお伝えしておきます。

 高額の保険契約に悩む人たちには、往々にして優秀な成績をあげている担当者がついています。筆者は、一般の方が保険に関して最も留意すべきなのは、対面販売における「人災」リスクだと思っています。

日経ビジネス電子版 2022年3月30日付の記事を転載]

「医療保険やがん保険は、ギャンブルより損が出やすい」「貯蓄性がある保険は、お金が増えにくい」――。

「高額商品」であるにもかかわらず、生命保険はその中身が分からない「ブラックボックス」だ。保険の有料相談を行う保険コンサルタントである後田亨氏が、具体的な商品を取り上げながら、生保のカラクリを明らかにして好評を博した同名書の最新版。「結局、その保険に加入するのは得なのか?」が分かり、「いつの時代にも通用する根本的な保険との付き合い方」を学ぶことができる1冊。

後田亨(著) 日本経済新聞出版 1650円(税込み)