新しい未来のテレビ「ABEMA」のニュース番組「ABEMA Prime」(通称「アベプラ」)で進行を担当してはや5年半。日々、真剣勝負でファシリテーションと向き合うなかで、経験も蓄積されてきました。まだまだ道半ばではあるものの、自分なりのスタイルも見えてきています。

 ただ、そうなると、警戒しなくてはいけないのが「慣れ」です。

 慣れてくると、つい刀を抜きたくなるのが人間のさが。いろんなスキルが身に付いて、発動スイッチをいつでも押せる状態だからこそ、間違った使い方をしないように自制しなくてはいけません。

いいこと言ったと思っている時点で、周りはシラけている

 「場を仕切り過ぎていないか」「自分のしゃべりが加速して、誰かを置いてきぼりにしていないか」など、その都度、振り返るようにしています。特に、長くそこにいる人に対しては、どうしても場を支配する雰囲気が出て優位な立場になりがちです。ですから常に「謙虚に」「おごりは禁物」と自分に言い聞かせるようにしています。

 よく「ファシリテーションをしていて、自分の意見を言いたくならないか」と聞かれることがありますが、ファシリテーションは参加者たちのためのもので、自分が優位に立ったり、意見したりするためのものではありません。むしろ、何かを言うことで心地よくなったりしている時は、フォームが崩れている証拠で、「今、(自分は)いいこと言ったな」と思っている時点で、周りはシラけていると考えたほうがいい。

「慣れというのは怖いもの。中堅以上になったら特に意識しておかないと」
「慣れというのは怖いもの。中堅以上になったら特に意識しておかないと」
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 拙書『 マンガでカンタン!ファシリテーションは7日間でわかります。 』(Gakken)を書いたのは、そんな自分への戒めでもあります。この本にも書いた「聞く力が大事」「準備が9割」は、ファシリテーターとして「初心忘るべからず」と心にくさびを打つ意味も。

 いまでも「あの発言はズレていた」とか「余計な一言だった」と反省することばかりですし、参加者の発言をうまくキャッチできなかったり、変な方向にボールを投げてしまったりすることもあります。だからこそ、自分の慣れやエゴでフォームが崩れないように、毎回基本に立ち返って刷り込み続けるようにしています。その時のコンディションなどで、反射的に的確な言葉が降りてこなかったりすることもありますが、それは仕方がない。でも「心構え」の部分で、しくじってはいけないと思っています。

「今回、出版した『マンガでカンタン!ファシリテーションは7日間でわかります。』は自分への戒めにもなっています」/画像クリックでAmazonページへ
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 そのために欠かせないのが、事前の準備です。うまくいくかどうかは、「準備が9割」と言っても過言ではありません。

 「アベプラ」は2時間の生放送で、その日の生放送終了後、翌日のテーマと大量の関連資料が渡されます。本番まで22時間しかないので、やみくもに取りかからず、やるべきことに優先順位をつけてから着手します。その際に大切にしているのが、テーマに対して最初に抱いた印象です。何に対して自分が興味関心や引っ掛かり、違和感を覚えたのか。そのテーマについて調べるうちにだんだん詳しくなって、視聴者に近いフラットな目線で考えられなくなっていくので、知識のないまっさらな状態で抱いた、最初の印象を忘れないようにしています。

 情報収集を終えたら、いったんクールダウン。人と雑談したり気分転換をしたりして、覚えたことをいったん「手放す」ようにしています。詰め込んだ情報で頭がパンパンの状態だと、「これを言わなければ」と自分自身に意識が向いて、相手の話に集中できなくなってしまいがちです。たとえ情報を手放しても、頭の中に要点だけは残っているので、ファシリテーションをしている時も芯を外さず、その場に応じた言葉が出てくると感じています。

自分への戒めとして常に手元にある名著

 慣れを警戒し、「謙虚であれ」という自分への戒めとして、常に手元に置いている愛読書が、世界的なベストセラー『 人を動かす 』(D・カーネギー著、山口博訳、創元社)です。

写真は、平石さんの本棚から持ってきてくれた、何度も読み返している私物の『人を動かす』(D・カーネギー著、山口博訳、創元社)/画像クリックでAmazonページへ
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 この本には、人とのコミュニケーションにおいて欠かせないことが「人間関係の30原則」として解説されています。なかでも、「アベプラ」をやっている今の自分にとって教訓になるのが、「人を説得する十二原則」の第1章に書かれている「議論を避ける」です。人を説得しようとするなら「議論を避ける」「誤りを指摘しない」──まったくその通りだと思います。

 つまり、議論をすること自体がそもそも無謀なのだから、「うまくやろう」と肩ひじを張らず、「失敗しない」という最低ラインを意識する。「自分たちは難しいことをやっている」と自覚し、高望みせずに臨むようにしています。

 この本のすごいところは、目次を見ただけで、自分を初心に戻してくれるところ。

 何度も読み返している本ですが、実践するのはとても難しい。目次を見るだけでも、「ああ、最近これができていないなあ」などと、わが身を振り返るきっかけになります。その時の置かれた状況によって心に響く箇所が違ったりして、何度読んでも学びの多い本です。

「人を説得する十二原則」 平石さんはこの目次を何度も読み返している
「人を説得する十二原則」 平石さんはこの目次を何度も読み返している
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フラットでいるために、アンチコメントも参考にする

 そもそも人を変えることは難しいわけですが、ファシリテーションのノウハウをうまく活用すれば、メンバーに気づきを促したり、チームのムードづくりや方向づけはできるのではと思っています。

 例えば、会議中に話の長い人がいるときは、「ありがとうございます。いったん引き取らせていただいて、他の方にもご意見を伺いましょうか」と言えば、「ああ、自分の話は長かったんだな」と気づいてもらえることもあるし、言葉が強くて周りが委縮するような発言には、「ありがとうございます。たいへん貴重なご意見ですが、言い方を変えるとすると…」とやわらかい表現に言いかえて伝えることで、「そういう言い方のほうがいいよね」と、発言した人だけでなく、参加者たちにも共通認識ができ、場が調整されていきます。

 バランサーでもあるファシリテーターにとって、「フラットであること」は重要なポイントです。

 ものの見方や価値観が偏らないように、普段から「俯瞰(ふかん)して見る」ことを心がけています。世間の声を知るのもその一つ。番組に対するコメントには、できる限り目を通します。

 もちろん、なかにはアンチコメントもありますが、本音が潜んでいることも多いので、フィードバックとして参考にして、自分が間違っていると思ったところは、次から改善するようにしています。

 世論は強く意識しますが、単に迎合するということではなく、逆にいただいたコメントを生かして、「世間では今、こういうふうに思われているかもしれませんが、一方でこんな考え方もありますよね?」とあえて投げかけることもよくあります。絶妙な変化球を投げるには、世の中の大きな流れや、世間の関心がどこにあるのかを把握しておくことが欠かせないので、そこはいつも意識しています。

取材・文/西尾英子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 写真/稲垣純也