私がファシリテーターを務める、新しい未来のテレビ「ABEMA」のニュース番組「ABEMA Prime」(通称「アベプラ」)は、個性豊かな論客たちが、毎回さまざまなテーマについて議論を交わす討論型の報道番組です。台本はあるものの、なかなかその通りには進みません。
本音のぶつかり合いで議論がヒートアップして場が乱れたり、本題から脱線したり、激しく言い争ってケンカになりかけたりと、予期せぬ展開になることも。そんな時に、間に入って状況を整理し、軌道修正しながらうまく着地できるように導いていくのが、ファシリテーターの役目です。
いまでこそ「アベプラの猛獣使い」と呼ばれたりもするようになりましたが、私自身、もともと率先して場を仕切るようなタイプではありません。
そんな私が番組でファシリテーターを担えているのは、ひとえにその役割を「演じている」からです。俳優さんが作品に応じて違った役柄を演じるように、私も必要に応じてファシリテーションのスキルを発動することによって、その役割をまっとうしているわけです。ですから、普段のキャラクターや性格に関係なく、その概念やノウハウを知ることで、誰もがファシリテーターとしての役割を担えると思っています。
とはいうものの、いまでも自分自身のファシリテーションに100%満足できる日はありません。出演する人たちによって、場の状況が毎日変わることもあり、完成型があるようで、ない。少しでも気を抜くと、すぐに自分のフォームが乱れてしまうので、本番後のチューニングが欠かせません。放送が終わったら、番組を2倍速で見返しながら、「このタイミングで介入するのは少し早かったかな」「ここはワンテンポ遅れているぞ」「ちょっと自分の発言量が多いな。もっと話を聞かないと…」などと細かくチェックして、フラットな状態に戻してから次の生放送に臨むようにしています。
「平石、ちゃんと仕切れ!」
そもそもファシリテーションの重要性を認識したのは、「アベプラ」を担当することになったのがきっかけでした。当時、番組は4年目。すでに場の雰囲気が出来上がっていたこともあり、当初は出演者の人たちに自由に話してもらうほうがいいと思い、できるだけ介入を控えていました。
ところが、そうすると、相手の話を遮って意見する人がいたり、テーマからずれてしまったりと、なかなかうまくいかない。視聴者の方々からも、「平石、ちゃんと仕切れ!」というコメントをたくさんいただきました。「ファシリテーターがきちんと場をコントロールしないと、有意義な議論にはならない」、そして、「最悪の場合、こんな議論やらなければよかったと、人間関係が壊れることにもなりかねない」と反省しました。
ファシリテーターとしていつも意識しているのは「アウェーな状態の人をつくらない」こと。番組には、毎回テーマに即したゲストがいらっしゃいますが、初めて来た人が疎外感を覚えたり、「言いたいことがあったのに言えなかった」と不満を残したりすることのないよう、きちんと発言できる場をつくるために、状況に応じて介入する。緊張してうまくしゃべれなかったり、横やりが入ったり、誰かの強い言葉でひるんでしまったりする場合もあるので、初参加の方に寄り添うことを心がけています。
ゲストの気持ちが閉じてしまったり、不満を持っていたりしていないか。主張があるのに発言できていない参加者はいないか。鳥の目で俯瞰(ふかん)して場を見渡すことも大切です。そうした意味では、街頭インタビュー、いわゆる「街録」の経験も役に立っています。
突然知らない人に声をかけてインタビューするわけですから、断られることがほとんど。一見すると結果は0か100のように思えますが、実際はグラデーションがあって、インタビュアーの雰囲気、距離感、声掛けのタイミング、どんな言葉で始めるかなど、さまざまな要素の組み合わせ次第で、インタビューに応じてもらえるか、そして、どこまで深く話してもらえるかが変わってきます。経験を重ねるうちに、向き合った瞬間の気配で分かるようになってくるので、成功率も上がっていきます。
「アベプラ」の場合はグループトークなので、目の前の相手だけではなく、周りの参加者たちにも気を配り、皆がWin-Winになるように進めていかなくてはいけません。価値観や考え方の違う人同士が本音をぶつけ合うことで生まれる化学反応こそが番組の醍醐味なので、鳥の目で俯瞰しながら、必要に応じて介入し、場を活性化させていく。ファシリテーターがそのカギを握っているので、責任の大きさを感じながら放送に臨んでいます。
会議参加者のモチベーションを維持する有効な一言
そうしたノウハウを体系化し、読みやすいように漫画によるストーリー仕立てにしたのが『 マンガでカンタン!ファシリテーションは7日間でわかります。 』(Gakken)です。
「会議がうまくいかない」という、この本の編集者さんの切実な思いを受けて、これまで培ってきたファシリテーションのエッセンスをまとめました。意見を引き出すセリフ集や相づちの種類、不満を残さないための方法など、具体的なノウハウを盛り込んだことで、会議やチーム運営にすぐに実践できる内容になっています。
この手順を踏んでいけば、会議はもちろん、人が集まる場で、活気に満ちた心地よい空間があちこちに生まれるのではないかと期待しています。ファシリテーションは、人が集まる場に必ず求められるスキル。ぜひ皆さんにも活用していただきたいです。
最近では、オンライン会議も増えてきました。オンラインでファシリテーターを担う場合は、いつも以上に場が活性化するような仕掛けを取り入れていく必要があります。どうしても発言者が不安を感じたり、孤独になりやすいので、ファシリテーターが意識的に相づちを入れたり、発言が終わったら「ありがとうございます」と伝えたりして、「あなたの意見を聞いていますよ」「貴重なご意見に感謝しています」という姿勢を示す。普段よりも介入する頻度を増やして、しゃべりやすいムードをつくるように心がけています。
参加者のモチベーションを維持するために有効なのが、「後ほど皆さんにひと言ずつ伺います」と最初に伝えておくこと。自分ごととして参加してもらえるようになるので、良い緊張感を保つことができます。その際、「質問でもいいですよ」「パスもありです」とひと言添えれば、心理的なハードルが下がり、参加者にとっても安心できる場になります。
「圧勝」も「嫌な思い」もない、ファシリテーションの極意
ファシリテーターは、バランサーの役割も兼ねているので、「どちらかが圧勝して、もう一方が嫌な思いをする形では終わらせたくない」と思っています。
対等に話を聞き、意見を述べてもらうわけですが、現実には賛成派と反対派というシンプルな二項対立ではなく、その人のキャラクターやその日の機嫌など、さまざまな変数があるなかでバランスよく議論を深めていくことは、簡単なことではありません。とはいえ、そもそも予定調和の情報交換や意見表明をするだけなら、集まる意味がありません。多様な意見が出て、それを受けて議論が活性化していくからこそ面白いし、その場を設けた意味もある。ファシリテーターとしてうまく立ち回ることができれば、密度の濃い議論になり、人間関係を構築することもでき、とても有意義な場になります。
ある時、番組のなかで激しく言い争っていた別の組織の代表同士が、放送後、握手をして連絡先を交換して帰っていかれました。意見が異なる人同士が「そういう考え方もあるよね」と、お互いに歩み寄るきっかけをつくることができ、ファシリテーションの力を実感しました。
ただ、私は普段から「うまくやろう」とは思わないようにしています。それよりも、まずは「その場を失敗に終わらせない」ことが大事。参加した人たちに気持ちよく話してもらい、不満を残さずに帰ってもらうことが、私にとっての防衛ラインです。そこを破られることのないよう死守することを意識しています。
ちなみに、「そもそもそう簡単にうまくいかない」と、防衛ラインを下げ気味に設けておくほうが、いい感じに肩の力が抜けて、「丁寧に話を聞こう」と、自分よりも周りの人たちに意識が向いて、結果的に広く参加者たちの話をうまく引き出すことができると感じています。
取材・文/西尾英子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 写真/稲垣純也



