ゴルフジャーナリストの田野辺薫さんは日本各地のゴルフコースを1000以上も取材し、『廣野、川奈はなぜ、日本一なのか』を著した。自分で歩きプレーし、そのコースをよく知る設計者や支配人、所属プロや名物メンバー、グリーンキーパーなどから話を聞き、名コースと呼べるか否かを吟味した。そうした中で見いだした名コースの一つの条件が、自然や地形を生かした「戦略性」だ。
前編 「1000超のゴルフコースを取材した記者が教える名コースとは?」
名コースとはいかなるものか?
『 廣野、川奈はなぜ、日本一なのか 一度は回りたい、ニッポンの名コース 』(田野辺薫著/ゴルフダイジェスト新書/2007年刊)を著した田野辺薫さんは、ゴルフ記者歴半世紀以上で日本各地のゴルフコースを1000以上も取材した。自分で歩きプレーし、そのコースをよく知る設計者や支配人、所属プロや名物メンバー、グリーンキーパーなどから話を聞いた。そのコースが造られた背景や由来、設計意図などをつぶさに調べあげ、名コースと呼べるか否かを吟味した。
名コースとはいかなるものか? 田野辺さんはまずこの本の冒頭でコース設計家、井上誠一さんの言葉を紹介している。それは、第1に世界のトッププロが自分の判断だけで初めて回ってパープレーであがれるコース、第2にトーナメントを開催したときにアンダーパーとオーバーパーが全体の10%であるコースである。つまり、極端なアンダーパーが出ないコースだと言っているわけだが、田野辺さんはそれは表面的であって本質ではないと言う。
井上さんは関東平野に平坦(へいたん)でありながら松の樹木でセパレートされたコースを多く造ったが、それらは景観の良さと正確なショットが求められるため、それこそが名門の条件のように言われたことがある。
例えば霞ヶ関カンツリー倶楽部や武蔵カントリークラブ、大利根カントリークラブ、龍ヶ崎カントリー倶楽部などである。しかし、そうしたコースはホールごとの変化を付けることが難しく、ショット技術も複雑さが求められず、井上さんだからこそ戦略性を富ませることができたと田野辺さんは言う。つまりは井上さんの設計ゆえに名コースと成り得たわけで、それは一時代前の評価だと言い切る。
それを井上さん本人の言葉で証明しようとする。井上さんは自分の代表作である大利根カントリークラブを「平坦すぎて各ホールの変化など付けようもなく、自分が今いるホールが何番か分からない」と言い、チャールズ・ヒュー・アリソンが設計した廣野ゴルフ倶楽部を、「廣野は池あり流れあり森ありと地形の変化があって非常に面白くできている」と評価している。
つまり、平坦なコースは面白みに欠け、戦略性を富ませる地形の変化があるコースが面白いというわけで、そのことに田野辺さんも共感する。そして、やはりアリソンが設計した川奈ホテルゴルフコース・富士コースが断崖の地形を駆使した面白いコースだと判断するわけである。
また、田野辺さんは「マスターズ」が行われるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブを設計したアリスター・マッケンジーの言葉を用い、「自然をフルに生かして人の手が入っていないように見えるコースが素晴らしい」と語る。これはスコットランドの名コースがまさにそうであり、近代ゴルフコース設計の父といわれるハリー・コルトの設計思想もそうであったとしている。さらにはマッケンジーの具体的な設計理念を例に出して、「戦略性」こそ名コースの条件と書きつづっている。
さらに田野辺さんは、コースは自然の中の芸術作品であるとし、いかに自然に溶け込んだ美しさがあるかにも重点を置く。広大な大自然を前にしてゴルフコースがより輝きを放っているか、美しい風景画となっているかもまた、名コースの条件だと言っているのである。
私は田野辺さんと一緒にいくつかの名コースを回ったことがある。廣野ゴルフ倶楽部や富士カントリークラブ、大洗ゴルフ倶楽部などである。廣野では大波のようなクロスバンカーに目を見張り、富士では目の前の雪をかぶった巨大な富士山をながめ、大洗では太平洋の荒波と強風で鍛え上げられた男性的なコースに感嘆した。
井上さんが設計した大洗を回ったとき、田野辺さんはコースの輪郭に女性的な曲線をうまく取り入れたことに注目し、「井上さんはコース設計のアントニオ・ガウディだ」とつぶやいた。コースの良しあしが難易度でしか判断できなかったその頃の私は、田野辺さんのコースを見る眼力に驚かされたものだ。
考える楽しみがあるのが名コースの条件
田野辺さんはあとがきでも述べている。「私の名コースランキングは、まずは自然がどう扱われたかに終始こだわった。つまり、マザーネイチャー、自然が母のコースであるかどうか。自然をどれだけ十分に、過剰にならずに表現しているかが重要」というわけである。それに加え、「様々な腕前のゴルファーが楽しめる戦略性を持ったコースであるかどうか」。さらに「そのコースにどれだけの謎が込められているか」も採点基準になったという。
つまり、プレーヤーがショットごとに各人それぞれの解釈でコースを読み解きながらプレーできるコースであるかどうかということである。田野辺さんにとっては考える楽しみのあるコースが名コースの一つの条件なのだった。
こうした田野辺さん独自の観点から名コースランキング50が作られ、本の冒頭と巻末で表になって示されている。第1位は廣野ゴルフ倶楽部であり、第2位は川奈ホテルゴルフコース・富士コース、第3位が大洗ゴルフ倶楽部であり、まさになるほどである。名門といわれる霞ヶ関カンツリー倶楽部が第4位、東京ゴルフ倶楽部が第5位と後塵(こうじん)を拝してしまうのも、田野辺さんなら一時代前の名コースと言い切ってしまえるのだ。
『廣野、川奈はなぜ、日本一なのか』では、名コースの条件とランキングの後で、田野辺さんが魅力的だと思うコースを4つの章に分けて北は北海道から南は沖縄まで全国65コースを紹介している。
どれもこれも生涯をかけて回ってみたいコースばかりであるが、ページ数の都合でさらっと特徴だけが述べられているコースも多い。物足りないと思う人は田野辺さんがライフワークとして書いた『 美しい日本のゴルフコース ゴルフは日本の新しい伝統文化である 』(「美しい日本のゴルフコース」編纂委員会編/ゴルフダイジェスト社)や、桜ゴルフのホームページで田野辺さんが連載した「田野辺薫の名コースめぐり」(*)を読んでほしい。
また私からすれば、こうしたコース巡りは、ぜひとも心に余裕を持ってコースを味わうことを念頭にプレーしてほしいと思う。もちろん、よいスコアであがれるに越したことはないが、初めて回るコースなのだから、主眼をそこに置いてはいけない。スコアよりもコース自体を楽しむこと。そのコースを設計した人が何を考えたか、いかにそこの自然を生かしているか、戦略性に富んだ面白いルートがあるか、風景にマッチした美しさがあるか、単なる海外コースのまねではないオリジナリティーがあるかなどを考察してほしいのだ。
さらに言えば、そのコースのある土地の文化を知ることがコースをいっそう深く知ることにもなる。その土地に暮らす人々、旅館やホテル、地酒や郷土料理や特産品なども堪能することである。ゴルフをする楽しさが何倍にも膨れ上がり、自分がゴルファーであることを大いに感謝することになるはずである。
写真/スタジオキャスパー


