ゴルフが他のスポーツと決定的に違う魅力は、プレーする場所がコースによって異なるということ。いろいろなゴルフコースでプレーすることはゴルフの醍醐味。日本全国、世界中のコースを回ることで、その地の人と触れ合い、料理や史跡、宿なども堪能できる。今回ご紹介するのは1000を超えるコースを取材したゴルフ記者、田野辺薫さんによる一生に一度は絶対に回りたい日本の名コースを紹介した『廣野、川奈はなぜ、日本一なのか』。
様々なコースでプレーするのが醍醐味
ゴルフが他のスポーツと決定的に違う魅力は、プレーする場所がコースによって異なるということ。テニスや卓球、サッカーやラグビー、バスケットやバレーボールなどは、どこであろうが同じ大きさの同じような場所で行われるわけで、野球でもほぼ一緒。ゆえに、ゴルフを楽しむのであれば、同じゴルフコースばかりでプレーするのはこのスポーツが持つ大きな魅力の1つを体験しないことになってしまう。
もちろん、1つのホームコースでコミュニティーを大事にしながら腕を磨くのも楽しいことだ。しかし、それとともにいろいろなゴルフコースでプレーすることはゴルフの醍醐味である。日本全国、世界中のコースを回る。そうすれば、その地の人や料理や史跡、宿などまでも堪能できる。ゴルフは旅をする楽しさを持っているのだ。
とはいえ、ゴルフを愛するゴルファーにとっては、まずはゴルフコースが一番。どんなコースなのか、事前に十分に調べて味わい尽くすことが楽しみになる。どうしてその場所にコースが造られることになったのか、誰が設計していつオープンしたのか、その後どんな変遷があったのかなど。
また、コースの全体的な特徴はどういったものか、名物ホールはどこか、なぜ名物なのか。さらに、自分の実力からすればどういった攻略をしたらいいのか、それを考えるのも楽しい。よいコースほど、多様な攻略ルートを持っているからだ。
そうしたゴルフの大きな魅力を味わってほしいと思って今回紹介する本が、『 廣野、川奈はなぜ、日本一なのか 一度は回りたい、ニッポンの名コース 』(田野辺薫著/ゴルフダイジェスト新書/2007年刊)である。ある程度ゴルフをしている人なら、廣野ゴルフ倶楽部と川奈ホテルゴルフコース・富士コースがなかなかプレーすることができない素晴らしいコースであることを知っているだろう。しかし、日本には他にも名門といわれるコースがあり、魅力的なリゾートコースもある。それなのに著者の田野辺薫さんはこの2つのコースが日本一だと言い切る。その理由はいかなるものなのだろうか。
鋭く厳しいコース分析
田野辺さんは1970年代に日本で最も人気のあったゴルフ雑誌『週刊アサヒゴルフ』の編集長だった。ジャンボ尾崎こと尾崎将司がプロ野球からプロゴルファーに転向、デビュー年の1971年に日本プロで初優勝するや瞬く間に5勝を挙げる。圧倒的な飛距離をもってプロゴルフ界を席巻、男子ゴルフは空前のブームに沸くのである。
その好影響で『週刊アサヒゴルフ』は飛ぶように売れ、ジャンボ尾崎のライバル・青木功も優勝を重ね、中嶋常幸や倉本昌弘といった若手の台頭で男子ゴルフ界はますます盛り上がった。そのときの編集長が田野辺さんであった。
そして編集長を勇退した後も自ら『ゴルフィスタ』という雑誌を創刊し、その編集長に就任。その雑誌では自ら様々なゴルフ界の要人に単独インタビューを敢行し、希少価値の高い雑誌に育てていく。さらにゴルフコースに造詣が深く、2005年から8年間にわたり『週刊ゴルフダイジェスト』に「ゴルフの歴史を歩こう」を連載、『 美しい日本のゴルフコース ゴルフは日本の新しい伝統文化である 』(「美しい日本のゴルフコース」編纂委員会編/ゴルフダイジェスト社)では368コースが1冊にまとめられている。
田野辺さんは1930年、福岡県生まれ。若い頃の作品に百合野薫名義で『小説ゴルフ名勝負物語』(産報)などがある。日本文芸家協会会員であり、筆力のある編集長だった。
ゴルフジャーナリスト
私は新卒で『週刊アサヒゴルフ』の編集部員となり、田野辺編集長のもとで編集と執筆の研鑽(けんさん)に励んだ。田野辺さんはいつも苦虫をかみつぶしたような顔つきで、ひよっこの私からすればとても怖い人だった。とはいえ、私がスポーツライターとして様々な雑誌に執筆するようになり、しかも自分で『書斎のゴルフ』を立ち上げて編集長になってからは何かと気にかけてくれた恩人である。
亡くなる前に命がけで書き残した日本のコースの原稿は素晴らしく、2013年に亡くなったときには業界誌から「特にゴルフ場に関しての造詣が深く、名門コースの生い立ちや設計思想に通じ、独自の視点によるゴルフ場の評価記事は骨太だった」とたたえられている。いかつい九州男児の顔つき通りの鋭く厳しいコース分析だった。
1000を超えるゴルフコースを取材
『週刊ゴルフダイジェスト』で「ゴルフの歴史を歩こう」の連載をしながら、この『廣野、川奈はなぜ、日本一なのか』を書き上げた田野辺さん。初版刊行が2007年だから77歳のときである。ゴルフ記者歴は半世紀を超え、まだまだ精力的にゴルフコースの取材を敢行していた。実際にこの本を書くまでに田野辺さんは1000を超えるコースを取材していた。
各コースに保存されている年史を読み込み、支配人や理事長、クラブチャンピオンやコースの歴史を知るベテランメンバー、グリーンキーパーや所属プロといったスタッフにも取材を行った。ジャーナリストとしては当然の記述や話のウラまで取る念の入りようだった。
この『廣野、川奈はなぜ、日本一なのか』では、そうした1000コース以上も取材した田野辺さんがまず冒頭で名コースとはいかなるものかという「名コースの条件」を述べている。これだけでもゴルフ好きにはなるほどとうならせる説得力がある。
そしてこの本の巻末には、田野辺さんが実際にプレーして選んだ「ニッポンのベストコース50」をとじ込みの表にして掲載している。これだけでもこの本を購入した価値があるほどで、読者はこの50コースは何か、またいくつ回ったかをすぐに勘定してしまうだろう。
そして、自分が回ったコースがあったとして、それがなぜにこの順位であるかを知りたくなる。ちなみに田野辺さんが1位に選んだのは廣野ゴルフ倶楽部であり、2位が川奈ホテルゴルフコース・富士コースである。そして、なぜに廣野が1位であり、川奈が2位であるのかも知りたくなるに違いない。
その理由が分かるのが本書『廣野、川奈はなぜ、日本一なのか』なのである。
(後編に続く)
写真/スタジオキャスパー

