家族を救い、将来のために、自らの命を絶とうとしていたランディ・クラーク。『ゴルファーズ・キャロル』の主人公は死のうと思っていた日の前日、幽霊から誕生日プレゼントを受け取ることになる。幽霊はランディの大学ゴルフ部の先輩で、プロゴルファーのダービー・ヘイズ。彼はその日、酔っ払い運転で事故死を遂げていた。友人からの贈り物は4人のレジェンドとの4つのラウンド――。逆境を生きるすべての人に贈る物語を紹介する。

著者は弁護士で法廷ミステリー作家

 文豪チャールズ・ディケンズの名著に『 クリスマス・キャロル 』(越前敏弥訳/角川文庫)がある。冷酷なスクルージ老人が相棒だった男の亡霊と出会い、血の通う温かい人間に改心していく物語。アメリカの作家、ロバート・ベイリーはこの作品をオマージュ。プロゴルファーになる夢を断念させられ、愛する息子を白血病で失い、自殺を決意した男が友人の幽霊に会って変わっていく様を描いた。それが今回紹介する『 ゴルファーズ・キャロル 』(ロバート・ベイリー著/吉野弘人訳/小学館/2021年刊)である。

『ゴルファーズ・キャロル』(ロバート・ベイリー著)。プロゴルファーになる夢を断念させられ、愛する息子を白血病で失い、自殺を決意した男が友人の幽霊に会って変わっていく様を描いた大人のためのファンタジー
『ゴルファーズ・キャロル』(ロバート・ベイリー著)。プロゴルファーになる夢を断念させられ、愛する息子を白血病で失い、自殺を決意した男が友人の幽霊に会って変わっていく様を描いた大人のためのファンタジー
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 『ゴルファーズ・キャロル』の著者、ロバート・ベイリーはゴルフやスポーツものを書く小説家ではない。彼はアメリカのアラバマ州で育ち、アラバマ大学ロースクールを卒業後、地元のハイツビルで弁護士として活躍。2014年にこれまでの経歴を生かし、法廷ミステリーの小説を書き出した。

 最初の一冊、『 ザ・プロフェッサー 』(吉野弘人訳/小学館文庫)がヒット、シリーズ化となってこれまで4冊が刊行、邦訳されている。その他の作品もミステリーもので、それだけにこの『ゴルファーズ・キャロル』はベイリーとしては異色のスポーツものである。しかし、この作品もまたベイリーらしい人間臭いもの。挫折しながらも決して諦めない男たちを描くという点ではまったく他の物語と同様である。熱い魂が宿る作品なのである。

 『ゴルファーズ・キャロル』の主人公、ランディ・クラークは弁護士事務所に勤めている弁護士。アラバマ大学のゴルフ部では主将を務め、プロゴルファーになるのが夢だった。しかし、プロテストに1打差で合格できず、浪人しようとするが厳格な父が制する。父、ロバート・クラークは言った。

 「すべての男は、人生のどこかで自分がジョー・ネイマスにはなれないと気づくときがある」。ジョー・ネイマスはアラバマ大学出身でアメリカンフットボールのスーパースターだった男。つまり、父は大言壮語して夢など追わずに、堅実な人生を歩めと息子に諭(さと)したわけだ。父は明日の仕事があるか分からないというレンガ職人だった。ランディの妻、メアリー・アリスが妊娠したこともあり、家族を幸せにすることこそ男の役割だと言ったのだ。

 ランディはプロテストを諦めて、アラバマ大学ロースクールに入る。弁護士の資格を得たが、うれしくはなかった。弁護士事務所に勤務し、確実な収入を得られる保険の被告側弁護士となった。娘のデイヴィスが生まれ、息子グラハムも誕生した。その息子が白血病で亡くなったとき、助けられなかった後悔と莫大な借金が残った。病院からの督促状を見て、ランディは自殺を決意する。自殺しても保険金が下りる保険に入っていたからだ。

 「これで妻を救い、娘を大学に進学させられる」

 ランディにとって窮地を救える選択肢は自殺しかないと思えた。そして、プロゴルファーを諦めてから16年がたった40歳の誕生日の翌朝に、テネシー川の橋から飛び降りることに決めたのである。

 ところが、誕生日に思わぬことが起きた。懇意にしていた大学の先輩でプロゴルファーになったダービー・ヘイズが自動車事故で死んだのだ。ダービーはPGAツアーで優勝を数度成し遂げていた。マスターズに出場、ビッグスターとも一緒にプレーし、ランディの果たせなかった夢を実現していた。憧れでありヒーローでもあった。

 そのダービーがジンを飲み過ぎ、酔っ払い運転の末に事故を起こしたのだ。ランディのヒーローは、実際は荒(すさ)んだ生活をしていた。酒、女、麻薬に浸っていたのだ。プロになる夢は果たしたが、決して幸福ではなかった。

幽霊になって現れた友人

 そんなダービーが幽霊となってランディの前に現れた。そして次のようなことを言ったのだ。

 「俺はお前のヒーローじゃない。お前にはヒーローがいる。それら4人のヒーローと4つのラウンドを行う。それが贈り物だ」と。

 4人のヒーローとは誰のことなのか。そのヒーローとどんなラウンドを行うのか。そして、それがなぜ自分への贈り物なのか。訳の分からないバースデープレゼント。ランディは贈り物の意味がさっぱり分からずに混乱する。憧れの友人、それも幽霊となった友人からの遺言めいた謎の言葉。まさに今、死のうとしていた自分へギフトなど送られてどうなるというのだろう。

 しかし、この『ゴルファーズ・キャロル』の物語はまさにそこから始まると言っていい。ロバート・ベイリーの専売特許、ミステリーともいえる謎の提案が出されたというわけである。読者は主人公のランディと共にこの謎を解いていく道程から目を離すことができない。

 4人のヒーローと4つのラウンドの意味とは? それを考えていくと、もはやこの物語から逃れることは決してできなくなる。ただただずぶずぶと物語の沼にはまっていくだけなのだ。

(後編に続く)

写真/スタジオキャスパー