ゴルフ雑誌では、スイングにしてもどう振れ、コース攻略法にしてもこうすべきと、あたかも正解があるかのように書く。レッスンプロも持論を展開し、自分が言うことこそ正解であると言い切ってしまう。しかし、そのどれもが誰にでも当てはまるということはない。そこで、25人のアマチュアと3人のプロが、ゴルフの悩みや練習方法、考え方を徹底討論したのが『ゴルフ白熱教室』(本條強著)だ。

悩みを討論して解決するレッスン書

 何気なくテレビをつけてみたら、学生たちが自分の意見を述べていた。先生のような人がこの意見に感想を述べ、他の意見のある学生を指名する。学生たちの意見の対比、それらの意見をどう捉えるか、どう考えるかを多くの学生に促す先生の教えぶりがいい。

 番組はマイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」だった。ハーバード大学で史上屈指の人気講義だ。噂は聞いていたが、実際に見たり聴いたりすることはなかった。「JUSTICE」と題される哲学講義。「正義」についてディスカッション、ディベートを行う。ある問題に関し、正解はいろいろある、あるいはないともいえるテーマ。意見を出し合うことでいろいろなものの見方、考え方、感じ方があると分かる。それがいい。

 例えば私が見たものは、「殺人に正義はあるのか」がテーマだった。船が沈没し救命ボートで漂流した人たちが食べるものがなくなったとき、瀕死(ひんし)の人間を殺して食べてもよいものか。このテーマには、ある人を助けるために他の人を犠牲にしてもよいのかといった倫理的問題がある。また、人肉を食べることへの是非を問う宗教的問題など、様々な意見があった。このテーマは戦争などの問題にも発展するだろう。そして、万人に合う正解はない。あるのはその人の正義であり正解である。

 他の回のテーマは「命に値段をつけられるのか」「富は誰のもの」など、やはり正解がないと思える事柄をみんなで話し合う。意見を出し合って議論し、それぞれの意見を尊重する。こうやっていろいろな人の考え方を知ることで、人々の争いが少なくなっていき、世の中に平和というものが訪れていくような気がした。

 正解がないことを議論する。一見、無駄なようだが、まったくそんなことはない。とても重要なことに思えた。そして、この番組を見終えた私は「あっ」と思った。『書斎のゴルフ』という、ゴルフというものを深く考えようと意図したゴルフ雑誌の編集長をしていた私は、正解のないテーマを多くの人と話し合うことで、多くのゴルファーが抱える悩みを解決することができるのではないか。多くの人の意見を聞くことで自分のゴルフをより知ることができるのではないか。正解のないテーマを議論することはゴルフにおいても必要なことであり、とても大事なことであると思ったわけである。

 ゴルフ雑誌では、スイングにしてもどう振れ、コース攻略法にしてもこうであれと、あたかも正解があるように書く。レッスンプロも持論を展開し、まさしく自分が言うことこそ正解であると言い切ってしまう。しかし、そのどれもが誰にでも当てはまるということはない。万人に合う理論など決してないのである。

 そのため、記事やプロの言うことを鵜呑(うの)みにしてしまうと、ゴルファーの多くが迷える子羊になってしまう。悩み深いドロ沼につかってしまい、抜け出せなくなってしまう。袋小路に入り、迷いさまようゴルフの日々となってしまうのだ。

 だからこそ、多くの人に意見を出し合ってもらい、それらに耳を傾ければ袋小路を抜け出せるかもしれない。答えがいろいろある、あるいは答えはないともいえる「ハーバード白熱教室」の「JUSTICE」のテーマは、ゴルフにおいてもいえることであり、議論し合う価値があると思ったのである。

すべての人に当てはまる正解はない

 ゴルフはティグラウンドからボールを打ち、グリーンのカップにボールを沈めて、そのホールでのスコアが出る。どのようにそのホールを攻略するかは、プレーするゴルファーの実力で変わるし、勝負する相手やライバルとの関係、自然や芝などの状況でも変わる。風や気温や湿度、芝の種類や長さや方向、フェアウェイかラフか、傾斜によっても変わる。グリーン周りの状況やグリーンの硬さや傾斜、ピンの位置によっても変わる。OBや池、バンカーなどの障害物もある。こうした事柄をすべて考えるとコース攻略の正解はなかなか分からない。

 例えばアプローチショットを例に取ろう。ピンまで30ヤードの状況でどんなアプローチショットを打つか。何も考えなければ、単純にサンドウェッジで打ってしまうだろう。うまく打てればいいが、ミスをすることも多い。ミスをしたら、練習しなければと反省する。

 しかし、サンドウェッジではなく、7番アイアンでパターのように打ち、グリーンの手前から転がしてグリーンに乗せることを考えればミスは極力減らすことができる。とはいえ、ピンにぴったりと寄せられるかといえば確率は高くない。少ないミスでグリーンに乗ればOKと考えるか、うまく打てればピンに寄る確率が高い方法を選択するか。すべてはプレーヤーの考え方一つだ。正解はあるようでない。

 ティショットでもいつもドライバーで打てばいいということはない。フェアウェイが狭く、OB杭が目に入ればアイアンで確実に打ってもよい。セカンドショットでも確実にボギーオンを考えるなら、ピンはおろか、グリーンさえ狙わなくてもいい。ミスが起きそうなクラブを使うこともない。ミスショットの多くは技術不足と考える人が多いが、クラブ選択のミスであることが本当に多い。つまり、練習をさほどしなくとも、安全確実なクラブと打ち方を選択するだけで大たたきを防ぐことができ、よいスコアであがることができるのだ。

 迷える子羊であるゴルファーはミスショットが出る度に考え込む。自分のスイングがおかしいのではないかと疑心暗鬼になる。いろいろな書物を読み、レッスンプロに指導を仰ぎ、その結果、スイングをいじりまくって、自分が持っていたよいものまでなくしてしまう。

 スイングがよくなってナイスショットが増える人はほんのわずか。ますます自信をなくし、わけが分からなくなってしまうのがオチだ。それよりも今持っている自分の実力で成功する確率の高いプレーを選択するほうがよほどいい。しかし、それがなんだか分からない。だからこそ、多くの人の意見を聞き、参考にして、自分で試して、よいと思うことだけを取り入れることが上達への近道なのだ。

 ゴルフにおいて周囲の人はどんなことを考えてプレーしているのだろうか。それを知ることは自分を知ることになる。様々な考え方を知ることはとても勉強になる。「ハーバード白熱教室」の授業のように、あるテーマに対して、自分はどんな考え方でプレーしているかを言い合ってみる。すると、自分の実力やそのときの状況にもっとも効果的な方法を知ることができる。

 だからこそ、いろいろな実力のアマチュアの意見、押しつけをしないレッスンプロの意見を聞いてみる必要がある。それこそが上達の秘訣なのである。そして、こうした意図の元に作られた一冊が今回紹介する拙著『 ゴルフ白熱教室 』(ちくま新書/2023年刊)だ。

『ゴルフ白熱教室』(本條強著)。ゴルフには誰にでも合う正解はない。25人のアマチュアと3人のプロが、ゴルフの悩みや練習方法、考え方を徹底討論し、克服法を話し合う白熱教室
『ゴルフ白熱教室』(本條強著)。ゴルフには誰にでも合う正解はない。25人のアマチュアと3人のプロが、ゴルフの悩みや練習方法、考え方を徹底討論し、克服法を話し合う白熱教室
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 この本は、プロが一方的に教えまくる、自分の型にはめようとする押しつけのレッスン書とはまったく異なるディスカッションとディベートによるレッスン書だ。迷える子羊であるゴルファーを救う福音書であり、自分だけの正解を見つけ出せるのだ。

 では、どんなことにゴルファーは悩んでいるのか。ゴルフプレーにはどんな方法があり、どんな選択があるのか。後編でそれらを紹介していこう。

(後編に続く)

写真/スタジオキャスパー