日本アマで6勝し、プロよりも強かったといわれた中部銀次郎さん。生涯アマチュアゴルファーとして純粋にゴルフに打ち込んで来たゆえ、中部さんの様々な言葉やそのゴルフ流儀はとても奥が深く、目から鱗(うろこ)が落ちるものばかり。今回紹介する『 中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考 』(本條強著/日経プレミアシリーズ)はそんな中部さんのゴルフ哲学や心の整え方を88の箴言(しんげん)で披露したもの。明日のラウンドからすぐに役立つスコアアップのヒントを贈る。

ゴルフは心のゲーム

『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(本條強著/日経プレミアシリーズ/2022年3月刊)。プロよりも強かったアマチュアゴルファー、中部銀次郎が教えるゴルフ上達の鍵(写真:スタジオキャスパー)
『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(本條強著/日経プレミアシリーズ/2022年3月刊)。プロよりも強かったアマチュアゴルファー、中部銀次郎が教えるゴルフ上達の鍵(写真:スタジオキャスパー)
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 中部銀次郎さんは現役プレーヤーを退いた後、勝手知るアマチュアとゴルフを楽しむようになった。現役時代は練習ラウンドでも一言も発さなかったと言われる人も、われわれアマチュアと好々爺(こうこうや)のごとく笑顔を交えながらプレーしてくれた。

 「私を取材してくれた人が、実は驚くほどゴルフが下手だったのですね。私のことはもう書かなくてもいいのだけど、これからもいろいろなゴルファーを書くことになるわけだから、少しはうまくなって欲しい。だって、そのほうがよりゴルフの深い所が分かって良い原稿が書けるでしょう。そう思って、私が話すことが少しは役に立つかなと思って、ゴルフコンペをするようになったのですよ」

 中部さんは笑いながらそう言った。コンペ名は銀次郎の「銀」をとって、「シルバークラブ」となり、優勝カップは中部さんが所持したものが再利用された。スコアは平凡でも栄誉ある優勝となったのである。

 中部さんは現役時代、常にアマチュア日本一を目指していた。それは単に日本一と言うだけでなく、ゴルフの深みにはまって、究極のゴルフを求めた。ゴルフの求道者であった。なので、常にゴルフのことを考える。であれば、人と談笑することなどできない。誰の助けも得られない孤立無援のゴルフにおいて、孤高の人とならざるを得なかった。だからこそ、日本アマチュア選手権で前人未踏の6勝を挙げることができたのである。

 その頃は中部さん自身のゴルフが発展途上だから、人に自分のゴルフを話すことは少なかった。人にアドバイスをすることなどできなかった。自分一人のゴルフで精いっぱいだったのだ。しかし、現役を引退して、高みを目指すことがなくなって、市井の人のゴルフをじっくり見られるようになった。

 「球聖」と呼ばれた殿上人が下々のゴルフを初めて見たと言ってよい。それゆえに、自分のゴルフについて原稿を書いていた人の下手さ加減に驚いたのである。そして、市井の人たちのゴルフを知り、そこで彼らにアドバイスを行った。それをゴルフライターや編集者が記憶にとどめ、自分の役に立たせるためだけでなく、すべてのアベレージゴルファーの福音になる記事に仕立て上げ、たくさんの書籍が生まれた。その中部さんの言葉は今もなお、多くのアマチュアゴルファーの精神的支柱になっている。なぜなら中部さんの箴言は、ゴルフにおける「心」にまつわる話がほとんどであったからだ。

中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう) 1942年2月16日、山口県下関市生まれ。2001年12月14日逝去。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、高校時代からゴルフ界で頭角を現し、甲南大学時代の1962年に日本アマチュア選手権で初優勝。以来、64、66、67、74、78年と6度の優勝を成し遂げる。亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1(写真提供/オフィスダイナマイト)
中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう) 1942年2月16日、山口県下関市生まれ。2001年12月14日逝去。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、高校時代からゴルフ界で頭角を現し、甲南大学時代の1962年に日本アマチュア選手権で初優勝。以来、64、66、67、74、78年と6度の優勝を成し遂げる。亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1(写真提供/オフィスダイナマイト)
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ミスショットのほとんどが心に起因

 中部さんは日に焼けた笑顔を私にも向けてくれた。
 「ゴルフをすればするほど分かってくることがありますよね。ゴルフは心のゲームなのです。上級者だけでなくアベレージゴルファーも一緒です。心が乱れたらショットも乱れる。ミスショットの原因のほとんどが心に起因しているんです。心が乱れてスイングが乱れ、ショットが乱れる。それがゴルフというゲームなんです」

 確かにゴルフは走るわけでもなく、反射神経を競うわけでもなく、ただ棒きれを振るだけのシンプルな動きそのものだ。中部さんからすれば、ゴルフはスポーツと呼べるものではなく、ゲームと読んだほうがふさわしいと思っていたのだろう。

 とはいえ、毎日走り、無数のボールを打ち、真夏でも真冬でも雨の日でもラウンドを欠かさない厳しいものだった。よって、100m走のランナーやマラソン選手といったアスリートとは違う、サッカー選手やラグビー選手のような体を張るものとも違う、ボクシングや柔道といった格闘技とも違う「ゲーム」と思っていたのは確かだった。

 子供の頃から体が弱かった中部さん。大人になっても大柄ではなく、スリムだった中部さん。そんな人間が日本一になれたのは、ゴルフが「ゲーム」だったからという意識が強かった。それもアマチュアというテリトリーでの勝負が向いていると考えた。そして、そんな人間が日本一になるとすれば、心を鍛えること、心を整えることが重要だと認識したのだ。

 中部さんは言う。
 「目の前のショットにすべてを賭ける。いくら練習しても打てるのは1回限りのショットです。そのショットを成功させるには心を整えなければいけない。不安があっても、欲が勝ってもいけない。心を落ち着かせ、集中してボールを打つこと。それしか成功する方法はないわけです。しかし、それが難しい。でも、難しいからこそ面白いわけですね」

 そしてこうも言う。
 「ゴルフは誰でもできるゲームです。身体的に優れていなくとも大丈夫。足が遅くても、反射神経が鈍くても問題はまったくない。クラブが振れさえすればいいんです。特別にショットが飛ぶ必要もないし、体力がうんとあればいいということもない。普通でいいんです。技術だってそれほど際立ったものがなくてもいい。シンプルでいいんです。だって、私など多彩な技など何も持っていない。ただ、真っすぐに打つことしかできない。それでもそれが際立てば、日本一になれる。

 心を鍛えて、整えられれば、良いショットが打てるわけです。その程度の差こそあれ、一般のアマチュアの皆さんとて同様です。心を鍛えて整えることができれば、良いショットが打てて、自然にスコアも良くなるのです」

 そしてこう言い切る。
 「だから、多くの人にゴルフをしてもらいたい。普通の人が普通に楽しめるのがゴルフ。そして普通の人が上手になれるのもゴルフなんです。ゴルフというゲームの大きな魅力ですね」

 というわけで、まずはこのコラムを読んでいる人で、ゴルフをしたことがない人はとにかく始めてほしい。私の経験では、ゴルフを嫌っていた人ほどゴルフにはまりやすい。断言してもいい。ですから、ゴルフなんてと思っている人ほど、ぜひゴルフを始めてほしい。

 そして、中部さんが話してくれた「ゴルフは心のゲーム」という、中部さんのその「心」を著した本書、『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』をぜひとも読んでほしいのです。

 この本は今月、 オーディオブック にもなりました。読む時間のない人は聴いていただくだけでいいのです。車や電車に乗っているときなどに、これを流して耳を傾けてほしい。ゴルフを始めた人も熟練ゴルファーも「なるほど」と膝を打つ言葉ばかりです。そう、いまだゴルフをやっていない人は「始めてみようかな」と思える内容なのです。その具体的内容は後編に書くと致しましょう。

(後編に続く)

プロよりも強かったアマチュアが教える「心の鍵」

「飛ばさない心が、飛ばすことにつながる」「技術を磨くのではなく、感覚を磨き、心を鍛える」――。前人未到の日本アマ6勝、アマチュアの理想といわれた中部銀次郎の箴言(しんげん)に、心のゲームを制する「鍵」を知る。

本條強著/日本経済新聞出版/990円(税込み)