ボイストレーナーの佐藤恵氏による書き下ろし『 60歳からは、声を磨きなさい 』は、単に声を良くする本ではなく、声を磨くことによって、人生後半を生き直すための本だ。ICSTの代表取締役で起業家支援活動に長く携わっている横井博之氏に、本書の書評を寄せてもらった。
AIが進化し、映像や情報があふれる現代社会。私たちは日々、膨大な情報の波の中で生きています。しかし、そんな時代だからこそ私は改めて「声」という人間本来の力に注目したいと思います。
地球上の生き物の中で、人間だけが言葉を持ち、その言葉を声に乗せて相手に届けることができます。その「声」の持つ力に着目し、事業として社会に広めてきたボイスクリエーションシュクル代表取締役の佐藤恵さんには、同じ起業家として深い敬意を抱いています。
佐藤さんとは起業前からの長いお付き合いです。互いに事業を立ち上げ、それぞれの分野で挑戦を続けながら、多くの出会いと学びを共有してきた仲間でもあります。
今回、佐藤さんの著書『60歳からは、声を磨きなさい』を拝読し、私が長年大切にしてきた「循環の哲学」と深く通じるものを感じました。
私は経営者として、「人・モノ・情報・お金が良い形で循環することで社会は豊かになる」と考えています。そして、その循環の出発点は、国籍や人種を問わず「人と人との信頼関係」にあります。
では、その信頼関係は何によって築かれるのでしょうか。
私はその大きな要素の一つが「声」だと思っています。
温かい声は相手の心を開き、誠実な声は人をつなぎ、感謝のこもった声は新たな縁を生みます。その縁がやがて協力となり、仕事となり、価値となり、社会へと広がっていく。
つまり、良い声とは、人と人との間に良い循環を生み出す「最初の一滴」なのです。本書は単なる発声法や話し方の解説書ではありません。年齢を重ねても自分らしく生き、人との関係を豊かにし、人生を実りあるものにする「生き方の書」であり、人生哲学の書だと感じました。
特に印象に残ったのは、「どんな言葉で生きているか」という問いかけです。
60歳を過ぎる頃には、その人がどのような人生を歩んできたのかが、容姿だけでなく声にも表れます。この考え方には大いに共感しました。
私自身、会社経営を通じて数多くの経営者やリーダーにお会いしてきました。優れた経営者には共通点があります。それは決して大声ではなく、人の心に届く声を持っていることです。
人を安心させる声、勇気を与える声、未来や夢を語る声。
その声は一朝一夕につくられるものではありません。その人の人生そのものから生まれてくるものだと思います。
優しい声をかければ優しい声が返ってくる。励ましの言葉を届ければ、その人がまた別の誰かを励ます。その連鎖は、目には見えなくても確実に社会を支えています。まさに「社会循環」そのものです。
だからこそ佐藤さんは「声を磨きなさい」と説いているのでしょう。
それは単なるテクニックを磨くことではなく、「声を磨くことで生き方を磨きなさい」というメッセージなのだと思います。
佐藤さんは長年にわたり声の力を信じ、多くの人の人生に寄り添ってこられました。その歩みそのものが本書の説得力になっています。
人生100年時代と言われる今、健康寿命だけでなく「声の寿命」もまた重要になってくるでしょう。人とつながり続ける力、信頼を生み出し続ける力、人生を豊かに循環させ続ける力。その答えの一つが本書にあります。
声はその人の歴史であり、人柄であり、生き様そのものです。本書はそのことを改めて教えてくれる一冊でした。
「声は人生を表す」
本書を読み終えたあと、私の心に最も強く残った言葉です。
