DX導入で大きな成果を上げた愛知県の自動車部品メーカー「旭鉄工」。同社がいかにAIを活用し、仕事のやり方を変革したのかを丹念に追った新刊が『 AIファースト経営 利益を10億円増やした旭鉄工の成功モデル 』(木村哲也著、日経BP)だ。本書の読みどころを、日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役会長の冨山和彦氏が解説する。
AI(人工知能)導入の本は多い。しかし本書がユニークなのは、「会社の哲学」そのものをAIに実装しようとしている点だ。
ここでいう哲学とは、経営者や現場が日々どのような基準で問題を捉え、何を重視して判断し、どう改善していくのかという“意思決定の型”である。
本書は、現場に蓄積された暗黙知を形式知化し、それを“思考プロセス”とともに生成AIによって組織へ埋め込み、再現可能な経営システムとして構築しようとしている。
さらに重要なのは、生成AIが、特別なIT知識を持たない人でも、現場に蓄積された知識や改善ノウハウをAIに実装できるようにしている点だ。
AIが認知・分析を担い、人は判断・実行に集中する――その役割分担を、実際の製造現場で機能する形にまで落とし込んでいる点に、本書の実践性がある。
特に興味深いのは、“AIの指摘で現場が動く”という世界観を、単なる構想ではなく、IoT(モノのインターネット)とカイゼンを積み重ねてきた旭鉄工の実例を通じて具体化していることだ。データ取得、問題の見える化、改善提案、人の行動変容までを一気通貫でつなげようとしている。
多くのAI活用論が技術論や局所的な効率化にとどまる中、本書はAIを「付加価値を生む経営基盤」として捉えている点に、大きな意義がある。
人口減少が進み、熟練者の経験やノウハウの継承が難しくなる日本において、この方向性は製造業だけでなく、多くの企業経営にとって重要な示唆を含んでいる。
単なるAI本ではない。経営そのものの再設計を問いかける一冊である。
