地政学リスクや気候変動、AIの急速な進化など、サプライチェーンを取り巻く環境は変化の渦中にあり、複雑を極める。そんな今、サプライチェーンマネジメントに必要な新たな変革について、国内外の先進事例と様々な研究をベースに指針を示した新刊が『 AI時代のサプライチェーン・エコシステム 価値を生成し続けるジェネラティブSCM 』(フォーティエンスコンサルティング 笹川亮平著、日経BP)だ。本書の魅力と読みどころを「パーパス経営」の重要性を説く京都先端科学大学ビジネススクール教授の名和高司氏が解説する。
先が読めない時代には、計画経済型のSCM(サプライチェーンマネジメント)は役に立たない。変化を先取りし、新たな価値創出を目指す中で、SCMをいかに進化させていくか。本書はこの経営現場の最先端の問いに、正面から取り組んだ意欲作である。
キーワードは「生成」だ。異次元の成長を見せる生成AIを駆使しつつ、ヒトや組織も生成学習を身に付けることによって、未来志向のSCMを生成し続けることが必要だと本書は説く。そのためには、3つの軸におけるパラダイムシフトが求められる。
1つ目は空間軸で、中央(ハブ)から現場(エッジ)へのシフトだ。ただし、現場に任せるだけでなく、現場の知恵を融合させ、組織知に高めていく高度な知識創造経営を目指さなければならない。本書では、生成AIを活用することで野中郁次郎先生のSECIモデルや私のメビウスモデルをバージョンアップさせていくことを提言している。
2つ目の時間軸では、直線型から曲線型へのシフトだ。ただし、それはデジタル論者が説く指数関数的成長ではなく、らせん型(スパイラル)成長でなければならない。複雑系の中での因果ループは、想定外のプラスもマイナスも生む。本書では、試行や失敗をAIとヒト、そして組織の学習機会とすることで、より高い次元を目指し続けることを提唱している。
そして、3つ目の価値軸は、モノからヒトへのシフトを示す。それは人間性の回復といった懐古調のものではなく、拡張知能としてのAIと一体になった、拡張人間への進化でなければならない。そのためには環境変化への適応という受動的な「変身」ではなく、異次元の価値を自ら生成するような能動的な「変態」を目指さなければならない。それを本書ではセルフ・トランスフォーメーションと呼ぶ。
本書は、SCMという経営の根幹にかかわるプロセスを切り口に、従来型、そして最先端の経営モデルを幅広く紐解きながら、次世代経営モデルを展望するという丁寧なアプローチをとっている。また、欧米型モデルを世界標準と勘違いしている風潮の中で、本書が紹介するアジアの先進企業の事例には、新鮮な気づきがあるだろう。
暗黙知という無形資産を抱え込む日本企業にとって、生成AIは価値創造の絶好のパートナーとなるはずだ。かつて全社的品質管理(TQC)を組織資産に高め、カイゼンというプロセスイノベーションを生み出した日本企業が、生成SCMを武器に世界のフロントランナーに躍り出ることも決して夢ではない。
本書は、そのようなシン・日本流経営を目指す次世代経営人材にとっての福音書となるだろう。
