ベストセラー『 認知症世界の歩き方 』(ライツ社)の著者であり、認知症との新たな向き合い方を社会に提案してきた筧裕介さん。そんな筧さんが「働き盛りの人にこそ読んでほしい」と薦めるのが、下畑享良さんの新刊『 医者が教える 一生パフォーマンスする脳 』(日経BP)だ。認知症は老後になって突然始まるものではない。その事実を、最新の知見とともに分かりやすく伝えてくれる一冊であるという。
「認知症にだけは、なりたくない」。
脳神経内科医・下畑享良さんの『
医者が教える 一生パフォーマンスする脳
』を読み始めると、そんな不安が湧き起こる。
しかし、読み終えたあとに残るのは、「自分にも、今できることがある」という感覚だ。
本書が伝える大きなメッセージは、認知症は年を取ってから突然始まる病気ではない、ということだ。
アルツハイマー病では、アミロイドベータの蓄積は症状が現れる約20年前から始まるとされる。つまり、40代からすでに脳の未来はつくられている(P119)。これは、働き盛りのビジネスパーソンにとって重要な指摘だと思う。
今日の睡眠や運動、血圧、新しいことを学ぶ習慣、人とのつながり。そうした一見ささやかな日常が、20年、30年先の認知機能につながっている。
本書は、大人になってからの知的活動や社会活動も「認知予備能(=脳に病的な変化が生じても、それを乗り越えて認知機能の低下を抑える能力)」を育む可能性があると説明する。新しいことを学ぶ。楽器や外国語に挑戦する。初めての場所を歩く。こうした経験そのものが、記憶や注意、判断など、脳のさまざまな働きを使う機会になる(P234–235)。
これらは、私が『ビジネスパーソンのための認知症世界の歩き方』(issue+design)で伝えたいことにもつながる。認知症は、親の介護が始まってから初めて関係するテーマではない。自分自身の将来にも、仕事にも、これからの社会にも関係している。
一方で、予防を強調しすぎると、「認知症になったのは本人の努力不足だ」という自己責任論にもつながりかねない。著者は、認知症になった人を受け入れ支えることと、発症を予防したり遅らせたりすることは「決して矛盾しない」と述べる(P285)。
認知症とともに豊かに生きられる社会をつくること。そして、自分の脳と身体を大切にすること。その二つは対立しない。認知症を「遠い老後の病気」ではなく、「今日の自分の生き方を考えるテーマ」へと引き寄せてくれる一冊である。
