自分だけでなく部下や家族など周囲の人のミスを防ぐために使える独自のツール「失敗マップ」。この画期的なアプローチを紹介した書籍『 失敗マップのすすめ 2つの質問に答えるだけで「ミスしない・させない」を仕組み化できる新ツール! 』(飯野謙次著)の魅力を、失敗学の伝道師であり、東京大学名誉教授である中尾政之氏が自身の視点から深く掘り下げて紹介します。
人間には失敗が付き物である。でもほとんどの人は、将来起きそうなリスクを漠然と不安視するだけである。具体的に認識できていないから事前対策も打っていない。
この時に、本書の「失敗マップ」が有効である。
自分でもリスクを列記して試しに使ってみた。たとえば、定年後の非正規職員として働く職場から解雇される、駅の階段で転んで骨折する、常用のPCが突然に動かなくなる、などで明日の仕事ができなくなることが最も困る。
このようなリスクを、まず、横軸に失敗の頻度(本書では定番を左、稀(まれ)を右)、縦軸に失敗に関連した人数(組織を上、個人を下)に設定した座標(失敗マップ)上にプロットする。次に、そのプロットしたリスクが、縦横4つに大別した座標象限(エリア)のどれに位置するかを確認する。最後に、エリアごとに共通的で有効な対策案を、多くの失敗具体例を参考に決定する。
上記の自分のリスクは、稀に個人が犯す失敗(右下の第4エリア)に属することが認識できた。自分は失敗学の伝道師なので、頻繁に起きる個人の失敗(左下の第3エリア)は対策済みである。たとえば、約束を忘れぬためにメモ魔になる、目覚まし時計を2個用意して寝る、カードやキーを財布に入れるたびに指差し確認する、などで対処している。
組織の失敗(左上の第1エリアと右上の第2エリア)は仕方がない、という感じで深く考えない。たとえば、トランプ関税で不況になる、成果未達でプロジェクトが解散する、首都圏地震で自宅が崩壊する、などの被害甚大なリスクが存在しようとも開き直って不安も感じない。なるようになるサ。だから、結果として、稀な個人(右下の第4エリア)のリスクだけが残ったのである。
納得した。でも、対策が打てなかったら、本書を読む意味がない。上記の稀な個人のリスクはまさかの失敗である。定型的な対策を人工知能(AI)に聞いても、データが少ないのでピント外れが関の山である。本当に稀な失敗が起きたら、貯金や保険で急場をしのぐ、家族や友人に助けを求める、で対処するしかない。
本書では「事前にマニュアルを用意して、いざというときはそのマニュアルに従え」と述べている。マニュアルを書くことは、発生確率が低くとも自分で熟考して対策を練っておくことに他ならない。
さらに最終章では「具体的にどこのエリアの失敗でも、あらかじめ定型的な対策を用意して、それを少人数で決定することが成功の早道である」と主張している。言い換えれば、役人や教師に教わるのでなく自分で状況を仮想演習して考えよ、ということである。
真面目で従順な日本人が最も不得意とする能力かもしれない。自分は著者の飯野氏と失敗学会や創造演習で一緒に活動してきたが、彼は英語が得意で米国で働いて、思考形態は日本人離れしていた。思い起こせば、自分で考えて自分で決めていた。
確かに、これが失敗学の奥義であり、成功の早道である。

