ここ数年で、仕事にも日常にも浸透してきた「生成AI」。子どもたちも例外ではなく、2025年の調査では、実に8割の小学生が、「授業以外でAIを使っている」と回答しています。一方AIは、大人でも安易な使い方が危惧されているもの。子どもが、AIによって学びそのものを放棄してしまったり、個人情報を書き込んで犯罪に巻き込まれてしまったりするのは、避けなければなりません。そこで本連載では、子どもが安全に使うために、そしてAIを自分だけの家庭教師として自由な学びを広げていくために必要な知識や考え方を『 「考える力」と「好奇心」をぐんぐん伸ばす AI×学び入門 』(安井政樹著、日経BP)から抜粋します。1回目は、AIを家庭教師にして、自律的に学びを広げるための使い方について。

AIへの質問には、その子の「学ぶスタンス」がすべて現れる

 お子さんは、AIに対してどのような質問をしていますか? ここで注目したいのは、「プロンプト(命令文)のテクニック」ではありません。 実は、AIへのたった数十文字の質問に、その子の「学ぶスタンス」がすべて現れています。

 AIを学びの相棒にできない子は、こう問いかけます。
「〇〇について、答えを教えて」
「この問題を解いて」

 一方で、AIを学びの相棒として、自分の脳の拡張として使いこなす子は、こう問いかけます。
「僕はこう思うんだけど、君はどう思う?」
「他にも考えたほうがいい視点はある?」

 この差は決定的です。前者はAIを「自分の代わりに作業をさせる下請け業者」として扱っていますが、後者はAIを「自分を高めてくれる伴走者(パートナー)」として扱っています。宿題以外の学びにおいても、それは同じ。本来は自分が考えるべきことをAIに代行させてしまえば、その先の学びはありません。

学ぶ楽しさが奪われた先に待つ「思考の空洞化」

 AIに「答えを聞く」習慣がついてしまうと、子どものなかで「ある変化」が起き始めます。それは「考えることを無駄だと感じてしまう」という、思考の空洞化です。
「AIがやれば一瞬で済むことを、なぜわざわざ人間がやる必要があるの?」
 そう感じてしまえば、学ぶ楽しさは消え、ただAIに外注して得た「正解」という作業結果を右から左へ流すだけの状態になってしまいます。これは教育において、最も避けなければならない事態です。

 たしかに、AIがやれば一瞬で済むことはたくさんあります。たとえばAIは、膨大なデータから情報を探したり、計算の正誤を確かめたりするのが得意です。
 一方で、できないこともたくさんあります。その代表が、
「なぜその答えになるのか、自分なりの言葉で説明する」
「その問題を通じて、どんな発見があったかを面白がる」
 といった、意味を感じ、心を動かすプロセスです。

 また、AIは高度な回答を生成することはできますが、
「AIと一緒にヒントを出し合いながら、最後は自分で解けたんだね!」
「すごい力がついたね!」
 と子どもの成功を一緒に喜ぶことや、誇らしげに笑って見せることはできません。

 子どもたちの学びにおいて本当に大切なのは、情報を速く探し出して高度な回答文をつくりあげたり、正しい計算を素早くしたりすることそのものではありません。プロセスを通して「学ぶ喜び」を感じ、「自分の頭で考える力」をつけることにあります。たとえ時間がかかっても、AIが出してくれた回答よりも粗くても、子どもが自分で考えたそのことに意味があるのです。
 テストの点数や成績は、その結果に過ぎません。

AI時代だからこそ、ますます重要になる親の役割

 何かを成し遂げた瞬間の「あ、わかった!」という子どもの姿を見逃さないこと。
「自力でここまで辿り着いたね。この発見は、AIが教えてくれる正解よりもずっと価値があるよ」
 と声をかけること
。こうした温かな声かけや肯定的な眼差(まなざ)し、言い換えれば、ビジネスでいう「コーチング」の役割を果たすことこそが、AI時代における親の役割です。子どもにとって、親に認められるという体験は、AIが提示する「正解」よりもはるかに大きなエネルギーになります。

 親子の関係性を軸に、「わからなければAIと一緒に探究し、最後は自分の力で納得する」というサイクルを回していく。この「人間だからこそできる、心の報酬を与える関わり」が、AIを単なるカンニングの道具から、一生モノの学びの道具へと変えるのです。

 なお、「教育用AI」のなかには、子どもが安易にAIに答えを聞いた場合にも、そのまま答えるのではなく、「まず一緒に考える」という設定にできるものもあります。これはたしかに便利ですが、この設定があるからと解決した気になってはいけません。
 その設定はあくまで補助輪であり、自分の力でその補助輪を外していくことができなければ、結局ほかの(汎用的な)AIを使った場合に、もとの安易な使い方をすることになるからです。
 大切なのは、自制的に「自分を高める」という視点でAIを活用できる子に育てていくこと。その子育ては、AI頼みや機能頼みにしてできるものではないのです。

親のひと言が「学びを進める力」になる

 本来、宿題の結果をもとに「どこを授業で補うか」「次に何を教えるか」などを考えるのは、教師の大切な役割でした。しかし現実には、先生方の仕事は非常に多く、宿題のチェックがスタンプや丸付けだけになってしまうことも少なくありません。
 これもまた、宿題が形だけのものになり、子どもは「出せばいい」と考えるようになる一因です。

 こうした現実があるからこそ、家庭でAIと一緒に、宿題を振り返りながら、
「ここはできたね」
「ここはどう直せばいいんだろうね」

 と対話していくことが、子どもの学びを前に進める大きな力になります。

 そのときに「こんな簡単な問題を間違えて」とか「さっきもできなかったじゃないか」などの言葉がけは厳禁です。皆さんも、健康診断で数値が悪かったとき、医師から、
「こんな基本的な数値が悪いなんて」
「前回も悪かったじゃないですか」
 なんて言われたら嫌な気持ちになりますよね。医師も当然、こうした言葉がけはせず、建設的な改善のアドバイスをして、それをもとに私たちは生活を見直すはずです。

 学習においても同じです。「間違いを責める」のではなく、「間違いの原因をAIと一緒に探し、次の一歩を考える」視点が大切です。

 宿題をただの消化試合にしてしまえば、AIは「近道の道具」「ズルの片棒」にしかなりません。
 そうではなくて、宿題を「自分の力を確かめ、さらに伸ばすための営み」と捉え直すことで、AIは子どもの学びを支える頼もしいパートナーになるのです。

(写真:アオイハチドリ/stock.adobe.com)
(写真:アオイハチドリ/stock.adobe.com)
AIは“敵”でもなければ“救世主”でもありません。本書では、AIを禁止する方法でも、無条件に推奨する方法でもなく、子どもの「考える力」と「感じる力」を育てるための、AIとの向き合い方を提案します。AI時代の子育ては、技術の問題ではなく、人間観の問題です。本書がご家庭での対話のきっかけとなり、親子で「考える」時間を増やす一助となれば幸いです。

安井政樹(著)/日経BP/1980円(税込み)