ここ数年で、仕事にも日常にも浸透してきた「生成AI」。子どもたちも例外ではなく、2025年の調査では、実に8割の小学生が、「授業以外でAIを使っている」と回答しています。一方AIは、大人でも安易な使い方が危惧されているもの。子どもが、AIによって学びそのものを放棄してしまったり、個人情報を書き込んで犯罪に巻き込まれてしまったりするのは、避けなければなりません。そこで本連載では、子どもが安全に使うために、そしてAIを自分だけの家庭教師として自由な学びを広げていくために必要な知識や考え方を『 「考える力」と「好奇心」をぐんぐん伸ばす AI×学び入門 』(安井政樹著、日経BP)から抜粋します。2回目は、子どもがAIで思考力や探究心を伸ばしていくための親のふるまいについて。

親は「教える立場」に立たないでいい 新たな役割とは

 古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、「無知の知(自分が知らないということを知っていること)」が真の知恵への第一歩であると説きました。この教えは、AI時代においてますます輝きを増しています。

 親が陥りやすい最大の罠(わな)は、「親として正解を知っていなければならない」「知らないと言うと威厳がなくなる」という思い込みです。しかし、本当に残念な大人の姿とは、「そんなの知らないし、知らなくても困らない」と、新しい知識や技術に対してシャッターを閉ざしてしまう姿です。
「お父さんもこれ、わからないな。どういうことだろうね?」
「お母さんも初めて見たよ。一緒に調べてみようか」

 そう言ってパッと検索を始めたり、AIに問いかけたりする姿を見せてください。知らないことを放置せず、それを「伸びしろ」として楽しむ。その「生涯学び続ける姿勢」こそが、子どもに受け継がせるべき最高のリテラシーです。

「わからない」を「最高の伸びしろ」に変える親の言葉がけ

 今の時代、知識の量だけで競っては、人間はAIには勝てません。だからこそ、私たちは子どもに対する声かけのパラダイムシフトを起こす必要があります。

 子どもがあることを知っていれば、
「すごい、物知りだね」
 と称賛し、知らなければ、
「それは最高の『伸びしろ』だね」
 と面白がる。このポジティブなスタンスが、子どもの知的好奇心を守ります。

「おいしそうな料理だね。この料理を食べられる地域に行くには、どれくらい時間がかかるんだろう?」
「この不思議な生き物、どこに住んでいるんだろう? 行ってみたいな」

 日常の何気ない会話のなかに、思考のヒントはいくらでも転がっています。しかし、これらの「問いの種」は、親子で同じ時間を過ごし、同じものを見て、心を動かしていなければ決して芽吹くことはありません

 効率を追求するAI時代だからこそ、あえて「一緒にテレビを見る」「一緒においしいものを食べて感動する」という、一見すると学びとは無関係な共有時間を大切にしてください。
 その温かな時間に生まれる「なぜ?」「どうして?」という会話こそが、AIを最高の学びのパートナーとして使いこなすための最強の「問いの力」を育てていくのです。

子どもが自分で学び始める「この質問」

 人間が成長するのは、実は「ああでもない、こうでもない」と悩んでいる時間です。この「悩むプロセス」を親子で共有することこそが、子どもの思考力を開花させる最強の栄養になります。

 たとえば、家族でクイズ番組を見ているとき、あるいはひらめきが必要なパズルを解いているとき。親であるあなたも、あえて一緒に本気で悩んでみてください。
「これ、どういうことだろうね?」
「うーん、難しいなあ」
 そうやって親子で悩み、考え、やがて「わかった!」とひらめく。この「わからない」が「わかる」に変わる瞬間のカタルシス(快感)を共有すること。これこそが、AIには絶対に提供できない、人間ならではの知的興奮の伝播(でんぱ)です。

 もし、テレビを見ていて子どもが正解を言い当てたら、絶好のチャンスです。
「すごい! よく知ってるね!」
 と驚くだけでなく、
「どういうこと? お母さん(お父さん)にも教えて」
 と、一歩踏み込んで聞いてみてください。子どもが自分の言葉で、
「これはね、こういうことなんだよ」
 と説明できたなら、それは知識が自分の血肉になっている証拠です。反対に、もし説明に詰まってしまったなら、「じゃあ、一緒に調べてみようか」と、その場で探究を始めてしまえばいいのです。

大切なのは「知識を増やす」ことよりも「考えることを楽しむ」こと

 知っていることを再生させるだけではなく、考える楽しさを経験させることも大切です。たとえば、次のような「なぞなぞ」を一緒に考えてみましょう。
「冷蔵庫のなかにいる生き物はなあに?」

 さて、皆さんは、何と答えますか? きっと多くの方は、どこかでこのなぞなぞを聞いたことがあり、答えは「ぞう」と知っているのではないでしょうか。それで「ぞう」と答えたならば、それは考えているのではなく、知識を再生しているだけです。もし子どもが知識の再生で答えてきたならば、
「ほかにもあるよ?」
 と問い返してみてください。そこから知的活動が始まります。
「え? 何だろう」
「ヒントある?」
 というやり取りを通して考える楽しさを味わえるのです。ちなみに「1文字」のものも、「3文字」のものもありますが、思いついたでしょうか?
 子どもの年齢が上がれば、「reizouko」とローマ字表記にすると、さらに答えは広がります。「細菌?」と答えてくれた子もいます。大人はこうした答えを聞いて、「なるほど、よく考えたなぁ」と思うわけです。

 「答えを知る」という結果だけではなく、答えというゴールに辿り着くまでの過程も楽しめる子にしていくことが大切ですし、私たち大人もそうありたいものですね。

親自身の「自己実現」が、子どもの学びの刺激になる

 子どもに「学ぶ楽しみ」を知ってもらうために、保護者の皆さんにやっていただきたいことがあります。それは、保護者の皆さん自身が楽しそうに何かを生み出す姿を、子どもに見せることです。
 かつて漫画家になりたかった、作曲をしてみたいと思っていた、あるいは小説を書いてみたかった……。そんな、「いつか諦めてしまった夢」を、AIという道具を使って今こそ蘇(よみがえ)らせてみてください。
 親がAIを「自分の夢を叶(かな)える魔法の杖(つえ)」として使いこなし、目を輝かせて創作にふけっている姿。それを見た子どもは、自身も同じようにAIを使い始めるだけでなく、
「大人になっても、新しい道具を使って自分の世界を広げられるんだ!」
 という確信
を持つでしょう。

 わからないことを恐れず、AIとともに未知の海へ漕(こ)ぎ出す。その冒険を楽しむ大人の背中こそが、子どもたちが未来を生き抜くための、何よりの道標(みちしるべ)です。

「子どもに追い越される」という最高の喜び

 AIを使いこなすスピードにおいて、いずれ子どもは親を追い越していくでしょう。
「こんなプロンプトを見つけたよ!」
「AIでこんなアプリをつくってみた」
「こんな歌を作曲したよ」
 そんなふうに、子どもが自分を追い越していく瞬間が必ずやってきます。そのとき親に求められるのは、素直に「負け」を認め、その成長を全力で喜ぶことです。

「すごい! お父さんには思いつかなかったよ。どうやったの? 教えて」
 親を教える立場になったとき、子どもの自己肯定感は爆発的に高まります。

 もし、子どもが家庭内の困りごとを解決するアプリをAIでつくってくれたなら、それはもう立派な「社会課題の解決」への第一歩です。それが発展していけば、学生のうちに起業する道も見えてくるかもしれません。AI時代の子育てとは、「親の想像力を超えていく子ども」を、親自身がワクワクしながらプロデュースすることでもあるのです。

(写真:bephoto/stock.adobe.com)
(写真:bephoto/stock.adobe.com)
AIは“敵”でもなければ“救世主”でもありません。本書では、AIを禁止する方法でも、無条件に推奨する方法でもなく、子どもの「考える力」と「感じる力」を育てるための、AIとの向き合い方を提案します。AI時代の子育ては、技術の問題ではなく、人間観の問題です。本書がご家庭での対話のきっかけとなり、親子で「考える」時間を増やす一助となれば幸いです。

安井政樹(著)/日経BP/1980円(税込み)