「やりたいことは山積みなのに、なぜか一つも終わらない」「気づいたらスマホで時間をムダにしてしまう」――これはやる気の問題ではありません。脳が無意識にフル稼働し、休めなくなっているからです。休ませるカギは、タスクの切り替えを最小限に抑えること。その具体策を、神経心理学と実践知の両面から解き明かした書籍が『 脳をオフにせよ 仕事も人間関係もうまくいく集中術 』(マルク・ティッヘラー、オスカル・デ・ボス著/児島修訳)。オランダで10万部超えのベストセラーの本書から一部を抜粋・再構成してお届けします。今回は「気が散る仕組み」についてです。
私たちの気が散る仕組み
完全に集中した状態とは、いわゆる「フロー状態」に近いものです。この状態に入ると、仕事が驚くほど捗り、労力もほとんど感じません。しかし、このフロー状態に入るには準備が必要です。
まずは、エンジンを温めなければなりません。ここで邪魔が入ると、振り出しに戻ってしまいます。再び集中モードに入るには、しばらく時間が必要になります。
つまり、いったん作業を切り替えて気を逸らしてしまったら、集中力はそこで途切れてしまうのです。この切り替えは一見すると無害に思えるかもしれませんが、実際には私たちの想像以上に脳に大きな影響を与えています。その仕組みを見てみましょう。
たとえば、あなたが長いあいだ後回しにしていたレポートの執筆にようやく着手したとしましょう。次第に調子が出てきて、自然と文章が湧き出てきます。ところが、そのタイミングで同僚が近くにやって来て「ちょっといい?」と声をかけられます。
こうした小さな中断が起きたとき、私たちはその新しいタスクにどれくらいの時間がかかるかに注目しがちです。「同僚の簡単な質問に答えるくらい、大したことはない。ほんの数秒で終わるだろう」と考えるのです。
しかし、実際に問題になるのは「そのタスクにかかる時間」ではなく、タスクの切り替えによって生じた「脳への影響」なのです。
タスクを切り替えても、脳の一部はそれまでしていたタスクに気を取られているので、認知的なパフォーマンスは一時的に落ちてしまいます。その結果、新しいタスクに集中するのが難しくなります。これは神経心理学で「注意残余」と呼ばれる現象です。
つまり、注意の一部が前のタスクに残り、結果として作業のスピードが落ち、ミスが多くなります。この集中力の低下が、私たちの生産性を低下させている大きな要因なのです。
具体的な仕組みを見てみましょう。
1日1時間も11歳児並みの脳になっている?
それまでしていたタスク(レポートの執筆)を中断して、同僚の質問に答えるというタスクに切り替えると、脳は2つのことを同時に行おうとします。片方の脳は同僚からの質問への答えを考え始めますが、もう片方の脳は前の作業をそのまま続けようとします。
なぜなら、それまでやっていたことを忘れたくないからです。こうして、私たちの心は2つに分裂します。
元の作業に戻る頃には、また同じことが起きています。脳の一部は先ほどの同僚の質問にとらわれていて、別の部分はどこで作業が中断したのかを思い出そうとしています。このため、思考の速度が鈍くなります。それによって、ミスの発生率が約20%も増加することがわかっています。
不思議なことに、この現象はほんのわずかな注意の切り替えでも発生します。
受信トレイやスマホをちらっと見ただけで、知能指数(IQ)は一時的に10ポイントも低下し、元の状態に戻るのに1分以上かかります。
もしメールを1日60通受信し、スマホの通知音が鳴るたびに読んでいるとしたら、私たちは1日に1時間も11歳児並みの脳の処理能力で作業をしていることになるのです。

しかも、タスクが複雑だったり、割り込みのタスクが少しでも頭を使うようなものだったりすると、回復のために必要な時間はさらに増えます。集中した状態に戻るまでに、15分以上かかることも珍しくありません。
同じことは、次から次へと会議をはしごするときにも起こります。
次の会議が始まっても、脳の一部は前の会議の内容を引きずっています。その結果、脳の処理速度は徐々に落ち、鋭さが失われていきます。この問題への対処策の1つは、難しく重要な会議ほど先にスケジュールすることです。
(第3回に続く)
マルク・ティッヘラー、オスカル・デ・ボス著/児島修訳/日経BP/1980円(税込み)


