なぜパフォーマンスが高い人ほど休むのか、そして私たちが陥りがちな間違った休み方とは。エグゼクティブコーチ・吉川ゆりさんの書籍『 なぜ、あなたは時間に追われているのか 「時間がない」から解放される15の仕組みと思考法 』(日経BP)から、高い集中力を生むために重要な「アクティブリカバリー」(積極的休養)について紹介します。
アスリートに学ぶ回復の科学
私が出会った企業経営者などのハイパフォーマーたちは驚くほど上手に、戦略的に休んでいます。彼らにとって休息は、仕事が終わった後のご褒美や余った時間ではなく、スケジュールに最初から組み込まれた「絶対に欠かせないサイクル」なのです。
パフォーマンスが高い人ほど休むと聞くと、多くの人はこう考えるのではないでしょうか。
「あの人は成果が出て余裕があるから、休むことができるんだ」と。
しかし、実際は逆です。しっかりと休んで回復しているからこそ、高いパフォーマンスを発揮して稼ぐことができる。つまり「成果が出たから休む」のではなく、「回復してから成果を出す」という順序なのです。
休息時間は単なる「空き時間」とは異なります。両者の決定的な違いは「意図があるか」です。
日常によくあるシーンを思い浮かべてみてください。例えば、会議と会議の間の10分間。あるいは、クライアントのオフィスへ向かうタクシーや電車の中。家に帰ってお風呂が沸くまでの十数分。これらはすべて空き時間であり、予定と予定の間に生まれたエアポケットのような時間です。そんな空き時間をあなたはどのように過ごしているでしょうか。
例えば、オンライン会議が終わり、次の会議まで10分。「ふう、終わった」と一息ついたら、無意識にメールやチャットツールを開いて返信を始めていませんか?
休息の方法を間違えてしまうと、回復しないどころか、疲れを増幅させてしまうこともあります。
暇つぶしにダラダラとSNSを見てしまうことは、現代の最も深刻な問題です。少し時間が空くと、SNSやショート動画を開き、次々とスワイプする。少しだけのつもりが、気づけば1時間経っていた、なんていうこともあるのではないでしょうか。
これらの行動は気分転換や休息のつもりで行われていると思いますが、実は脳を休ませることができない行為なのです。その理由は大きく3つあります。
なぜスマホを見ることは休息につながりにくいのか
やってはいけない休み方(1)SNSや動画を見る
まず、脳の視覚野が休まらないことです。私たちの脳は、目や耳から入ってくる情報を常に処理し続けようとします。たとえ、ぼーっとしているつもりでも、移動中にスマホの画面を眺めたりしている限り、脳の「視覚野」は働いています。文字を読む、色を認識する、動画を追う。これらは脳にとっては重労働です。
この状況はコップに水を注いでいる状態に例えられます。すでに仕事で情報という水がいっぱいなのに、休憩中にも水を注ぎ続けたらコップから水があふれ出します。回復するためにはまず蛇口を閉めること、つまり情報を物理的に遮断することが大切です。
2つ目は、「認知機能(判断する力)」の無駄遣いです。認知機能とは、記憶、理解、計算、判断などを行う脳の働きで、スマホのバッテリーのように使えば使うほど減っていく資源です。
会議の合間にメールを返す時は「どう返信しようか」と考えます。また、SNSを見ている時も「この投稿に『いいね』しようか」「次の動画を見ようかな」と無意識に小さな決断を繰り返しています。
こうした些細な意思決定こそが、脳のエネルギーを消耗させる原因です。仕事で重要な決断をするために取っておくべきエネルギーを、空き時間のどうでもいい決断で消費しているのです。認知機能を回復させるためには、こうした判断・決断のプロセスをストップする時間が必要です。
3つ目は自律神経が切り替わりにくいからです。休憩中にスリリングな動画を見たり、SNSのメッセージを処理したりすると交感神経が優位なままで、休憩中もアクセルを踏んでいる状態です。副交感神経はなかなか優位にならず、見終わった後はむしろ疲れているかもしれません。
まずは今日の帰宅後、スマホをしまって目を閉じてみてください。新しい情報が入ってこない静かな時間によって脳がどれほど休まるか、きっと違いを感じられるはずです。
お酒やエナジードリンクは?
やってはいけない休み方(2)お酒を飲む
張り詰めた仕事から解放されて、冷たいビールやワインを一口飲んでリラックスできる時間が楽しみだという人は多いと思います。しかし、アルコールは、一時的に緊張を解いてくれますが、脳の回復という点ではマイナス要因になります。
なぜなら、アルコールは睡眠の質を悪化させるからです。お酒を飲んで寝るとすぐに眠りにつくことができますし、睡眠の前半では、一時的に徐波睡眠(深いノンレム睡眠)が増えることがあります。しかしこの効果は長続きせず、アルコールが分解され始める睡眠後半では脳が再び覚醒しやすくなり、睡眠が浅くなったり中途覚醒が増えたりします。
さらに、感情調整や記憶の整理に重要なレム睡眠も抑制されてしまいます。これにより、翌日は集中力が続かず、判断力が鈍り、パフォーマンスが低下します。また、連日の摂取によって体が慣れてしまうため、さらなる効果を求めてお酒の量が増えていく悪循環にも陥りかねません。お酒は一時的なリラックスになっても、脳や体の根本的な回復にはつながらないのです。
やってはいけない休み方(3) エナジードリンクを飲む
疲れたときやもうひと頑張りしたいときに、エナジードリンクを飲んで「元気になった」と感じた経験を持つ人もいるかもしれません。しかし、実は回復したわけではなく、エナジードリンクに含まれるカフェインや大量の糖分によって、脳が疲れていないと錯覚しているだけです。いわば疲れを先送りにしている状態です。
一時的な興奮作用で元気が出たように感じますが、その効果が切れると、先送りした疲れが大きくなって襲ってきます。また、エナジードリンクの成分は商品によってさまざまです。何本も飲むとカフェインや糖分の取り過ぎにつながる恐れもあるので注意が必要です。
やってはいけない休み方(4) 愚痴を話す
誰かに愚痴を聞いてもらってスッキリした経験がある人もいるでしょう。しかし、愚痴は一時的にスッキリしたように感じても、実はネガティブな感情を増幅させてしまいます。脳は言葉にしたことを重要な情報として再認識し、記憶に定着させてしまうからです。
何より、愚痴を言う行為は、聞いてくれる相手からエネルギーを奪う行為でもあります。
アクティブリカバリーの目的は、自分で回復することであり、誰かからエネルギーを奪うことではありません。運動や瞑想、良質な睡眠など、自分で自分を満たすことを大切にしましょう。
[日経ウーマン Web 2026年4月24日付の記事を転載]
構成/久保田智美(日経ウーマン編集)
吉川ゆり著/日経BP/1980円(税込み)



