コロナ禍以降、利用者が急増! 自分では出合えない本に出合えると人気の「選書サービス」。「本選びのプロ」が人生の景色が変わるおすすめの3冊を厳選。今回は、文喫・及川貴子さんのおすすめ本を紹介します。

小学生の頃に感じた「本の力」。相手を想像して本を選び抜く

 「本と出会うための本屋」をコンセプトに営業する東京・六本木の「文喫」が、オンライン限定で選書サービスを行っている。副店長の及川貴子さんも選書人のひとり。

 「選書のためのヒアリングシートをもとに、依頼理由や読書の好みにとどまらず、読書以外の趣味や現在の生活などから、複数のスタッフが相談し合い、時間をかけて本を選んでいます」

 選書後、依頼主に送付する本には、1冊ずつ“栞”を挟む。「本のおすすめポイントを含め、なぜこの本をご依頼主に選んだかをスタッフがつづった栞です」。本を受け取った人からは「生活の光みたいな本との出合いでした」などと感想が寄せられることも。

 及川さんが本の“人をつなぐ力”に気づいたのは、小学校低学年のとき。男の子はガサツで相容れないと思い込んでいた時代、転校する及川さんに寄せられた、ある男の子からのメッセージにハッとした。「君の書いた、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の読書感想文が、とても素敵だった。同じシーンが自分も好きで、もっと話をしたかった」とあった。

 「性別でひとくくりにして、ちゃんと人を見ることができていなかったこと。本を通して、人と同じ景色を見ることができることに気づかされました

及川貴子さん
及川貴子さん
文喫 六本木 副店長

大学卒業後、書籍や雑誌の取次を行う日本出版販売に入社。広島支店で書店営業を3年務め、自ら志願して企業ライブラリーなどをプロデュースする新規事業部へ。2021年6月から「文喫」勤務。

私の“人生の景色を変えた”本
『ぶらんこ乗り』 いしいしんじ 著/新潮文庫
「高校生の頃、古書店で買ったこの本に、前の持ち主から『次の持ち主=私』への手紙が挟まれていました。前の持ち主を意識したことから、本が人の手に届くまで、たくさんの人が関わっていることに思いを馳せたことがきっかけとなり、本を届ける仕事に興味を持つようになりました

小手先の技法や話術ではなく、心地よい人生をつくる「話し方」

『話すことを話す』
『話すことを話す』
キム・ハナ 著、清水知佐子 訳/CCCメディアハウス

 「話すことが苦手だったという韓国の人気ポッドキャスターが、語るようにつづる、小手先のテクニックや話術ではない、話すことの技術の本です。楽しく気軽に読めるエッセイのなかに、話すことについて改めて考えたくなるような視点やアイデアがちりばめられていて、これからの日々にきっと生かしたくなると思います」

サラッと一首から読める短歌で、ふわっと心が軽くなる

『地上絵』
『地上絵』
橋爪志保 著/書肆侃侃房

 「帯にある『I am a 大丈夫 ゆえ You are a 大丈夫 too 地上絵あげる』という短歌が好きで、すべての人に大丈夫だよ、と伝えたい気持ちに。日常的で、ふとした瞬間に飛躍する短歌たちは、疲れているときも心地よく染み入り、さりげなく寄り添い、心を軽くしてくれます。リフレッシュ代わりに一首読むという楽しみ方もおすすめ」

人種、ジェンダー、家族にまつわる価値観が更新される短編集

『なにかが首のまわりに』
『なにかが首のまわりに』
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ 著、くぼたのぞみ 訳/河出文庫

 「TEDでのスピーチタイトル『We should all be feminists』が2017年のディオールのコレクションに登場したことでも有名なナイジェリアの女性作家の短編集。遠い地域の文化・生活と、私たちにも身近な問題が、絡み合いながら胸に迫ります。どの短編も力強く、読むと自分の世界が更新されたような気持ちになります」

取材・文/宇佐見明日香

日経WOMAN 2023年1月号より転載]