この数年、都心マンション価格の高騰が話題になっていますが、近い将来の不動産市場はどうなるのでしょうか? 不動産コンサルタントの長嶋修氏によると、東京郊外の人気エリアでも駅から徒歩15分、20分の地域には値崩れの危険性があるとのこと。日経プレミアシリーズ『2030年の不動産』より抜粋します。

「なだらかに下がる地域」とは?

 前回の記事「 85%が下落でも価値が落ちない物件は? 不動産『三極化』の未来 」では、「価格維持・あるいは上昇する地域」「なだらかに下落を続ける地域」「限りなく無価値、あるいはマイナスの地域」に分かれていくという、不動産の三極化について紹介しました。

 このうち、「なだらかに下落を続ける地域」に該当するのは、都心からやや離れたエリアです。

 観光地などを除き、不動産価格は都心からの距離、それに最寄り駅からの距離に応じて決まります。

 昔から、東京の都心に通勤する人は手頃な物件を求めて、東京の都下や神奈川、埼玉、千葉、茨城といった郊外の住宅街に流れてきました。平成バブル期には、都心で異常なまでに不動産価格が高騰しましたが、その余波で国道16号を越えたエリアを含む広範囲で地価が上昇。首都圏を環状に走る国道16号は、都心から約30㎞圏の1都3県を通り、沿道には神奈川県の横浜市や横須賀市、東京都の町田市、八王子市、埼玉県の川越市、さいたま市、千葉県の千葉市、柏市などがあります。沿道都市の人口を合計するとざっと1000万人とも言われ、日本の中でも特に人口が密集するエリアです。

 2025年初頭時点で都心部のマンション市場はバブル的な高騰を見せ、値上がりしすぎて買えなくなった層が少しずつ都心を離れて物件を物色することから、周辺エリアの不動産価格も上がっています。

 それでも、平成バブルの頃とは異なり、国道16号を越えるエリアまでは上昇の波が押し寄せていません。今後も押し寄せることはないでしょう。国道16号を越えるエリアでは、主要駅の駅前など一部の例外はあるにせよ、全般的に地価は下落基調です。

「国道16号の外」は厳しい戦いになる

 国道16号は、不動産業界で「ルビコン川」と呼ばれています。「ルビコン川を渡る」とは、後戻りのできない道を進むことを意味する決まり文句で、「ブルータス、お前もか」のセリフでおなじみのカエサルの決断に由来しています。不動産業者からしてみると、国道16号を渡るのはルビコン川を渡るようなもので、渡った先のエリアでは不動産を売るのも貸すのもかなり難しく、厳しい戦いになるというのが共通認識なのです。

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 国道16号の外側エリアで車を走らせていると、駅から離れたエリアにいくつもアパートが並んでいるのを見かけることがあります。こうした物件は、アパートを1棟丸ごと買っても3000万円くらいだったりするので、手頃さと目先の利回りなどに惹かれて投資する人もいます。

 しかし、このような下落必至のエリアで、長期にわたってコンスタントに家賃収入を確保し続けるのは難しいもの。借主を確保するために家賃を下げざるを得ず、利回りが低下したり、空室だらけになって借金だけが残ったりするリスクもあるため、投資対象として魅力的とは言えません。

「郊外で駅から徒歩15分以上」は値崩れも

 国道16号の内側の主要駅の駅前・駅近エリアは、今後も価格上昇の可能性があります。ただ、駅から離れれば離れるほど地価の下落は急ピッチになるでしょう。

 東京都心の港区であれば、駅から徒歩15分かかる物件でも買い手がつきますが、国道16号近辺の郊外エリアで駅から15分となると、買い手は激減します。理想は徒歩7分以内。10分までが限界でしょうか。

 東京23区内であっても、埼玉や千葉寄りのエリアでは同じことが言えます。買い手がつかなければ物件価格は下がることになりますから、値崩れのペースは速くなります。

 東京23区内の世田谷区のような人気エリアでも、やはり駅から15分以上や、バス便利用必須のエリアは、この先どんどん敬遠されるようになるでしょう。

 例えば、世田谷区の岡本という地区は、昔から芸能人などの富裕層がたくさん住んでいる高級住宅街です。しかし、少し前の基準地価では、地価の下落率が東京23区内の住宅地としてはトップに。閑静な“お屋敷街”で、二子玉川などのブランド力の高い街が近隣にありながらもこのような現象が起きているのは、最寄り駅までの所要時間が20分超と、かなり遠いことが関係しています。

富裕層はお屋敷街から都心タワマンへ

 一昔前まで、原則として車移動の芸能人や経営者は、駅からの距離を気にする必要がないため、緑が多くて住環境が良い駅から離れたお屋敷街を好んでいました。しかし、今の富裕層はお屋敷街の戸建よりも、ラグジュアリーでセキュリティにも配慮された都心のタワマンを選ぶのがスタンダードに。結果、お屋敷街の地価は下落。同じことは、成城や田園調布などのエリアでも起きています。

高級住宅街とされた場所でも、駅から徒歩15分以上の場所は今後、値崩れの危険性が(写真:naka/stock.adobe.com)
高級住宅街とされた場所でも、駅から徒歩15分以上の場所は今後、値崩れの危険性が(写真:naka/stock.adobe.com)
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 もちろん、今でも一定のブランド力はあるので、郊外の駅から遠いエリアと比べればゆるやかな下落になるでしょう。しばらくは買い手がまったく見つからないということもないと思います。

 しかし、長期的には世田谷のバス便エリアより、千葉や埼玉の主要駅前で地域のランドマーク的な存在になっているタワマンのほうが有望です。これからも若年層は駅周辺エリアを選ぶ傾向が続いていくので、駅から遠いエリアでは高齢化が進行。街として活気を失っていく未来が見えるのです。

 都心からやや離れた人気の住宅街で高額の建売戸建を買い、懸命に住宅ローンを払い終えた頃に定年退職。そこからしばらくして老人ホームに移りたいと考えたとき、家を売って資金を作ろうにも、出した金額からするとかなり少額でしか売れずに愕然(がくぜん)とする――このようなケースは、残念ながら増えていくでしょう。

 とはいえ、価格を維持、あるいは上昇も見込めるような物件は、ほとんどの実需層にとって高嶺の花であり、希望したところで買えない可能性が高くなります。そのため、多くの人はセカンドベストとしてなるべく価値の落ちなさそうなエリア、あるいはなだらかに下落するエリアの中から、将来的な下落のペースがそこまで急激ではなさそうなところを吟味して選ぶことになります。

日経プレミアシリーズ『 2030年の不動産
異次元の不動産格差時代をどう生きるか?

「価値が落ちない中古マンションの選び方とは?」「生き残る戸建と消える戸建の決定的な差とは?」など、不動産のプロフェッショナルが市場の未来を徹底分析。不動産の購入や売却を考える方はもちろん、市場の未来を見据え、賢い選択をしたいすべての人に贈る1冊。

長嶋修著/日本経済新聞出版/990円(税込み)